サイコキラー

グカルチ

第1話

「正しいと思うことをやってきた、それが間違っていると知ったとき、自分を改めるほどに」

「ええ、そうでしょうね」

「だから奴をとらえた、10年前の、狂人の科学者を」

「ええ、奴は死刑になりました、あなたに救われた命は多い、何があろうとも」

「それで今回も、10人のサイコキラーを倒した、これの何が問題なんだ」

 白い部屋の中で、患者ようの服をきた元警察が医者と対話をしていた。

「それは問題ないでしょう、実際、あなたが正しいのなら」

「どういう意味ですか?」

「……あなたが、今回の問答で理解すればいいのですが、それこそが、この新しい2023年、最新の刑罰なのです、責任能力を回復し、そして過去を知るという罰が」

「俺は間違いをおかしたのか?」

「ええ」

「まさか、サイコキラーは、俺に何かをしたのか?」

「ええ、それなら話が早いのですが……ここまではあなたも理解する、けれど、口にするのもバカらしい、信じられない話でしょうが、すみません、刑事さん、はじめにいった“狂人の科学者”を逮捕した経歴は、あなたのものではないのですよ、刑事さん……あなたは、同僚の警官のその功績に嫉妬したのです」

 ガタッ、椅子を蹴とばし立ち上がる。

「ちょっとまて!!俺は……それからも逮捕を続けたぞ、あんたはさっきいったじゃないか、サイコキラー“狂人の科学者”の手によって、俺は改造されたのだと」

「ええ、すみません、そこからがあなたの病なのです、あなたは幼少期に、親から虐待をうけ、親を殺した、そのトラウマに耐えきれず、自分の中にサイコキラーを作り出し、そいつを捕まえるために努力をしてきた、そして彼によくにた存在がこの世にあらわれた“狂人の科学者”とよばれたサイコキラーです、それがまずかった、彼が存在したことも、彼を逮捕したのが同僚だったという事も、彼を逮捕することを、あなたの周囲が望んだという事も、もうあなたは過去の重荷を解くときですよ」

 彼はふと思い出した。10人のサイコキラーと自分が名付けたものが、軽い犯罪で捕まった人間だったということ、彼らを手にかけ、重軽症を負わせたのがサイコキラーに扮した自分だったという事を。そして、精神疾患などで責任能力がないと判断され、刑罰を軽くされる例があること、その刑罰が新しい形になった事が頭の中でぐるぐると回っていた。


彼は気づこうはずもない。彼の父親も刑事だったが、彼を狂わせたのも彼の父を狂わせたのも、妄想をつくったのも、実は二人のカウンセリングを担当していたこの医者であることを。

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サイコキラー グカルチ @yumieimaru

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