第30話 僕は今日も学校に行った
その日の授業(自習)は何事もなく、過ぎていった。
退屈な自習時間には退屈過ぎて眠ってしまいそうになったが、琥珀は気合を入れて堪えた。
眠ったら異世界に召喚されることが目に見えている。
何が起こるかわからぬ異世界。
次に召喚されるのがベッドの中か風呂の中かもわからないのだから、ちゃんと心構えを作ったうえで召喚されたかった。
坂木が仲間を連れて仕返しに来るということもなく、あっさりと放課後になる。
琥珀は職員室で学年主任に課題を提出して、寄り道することなく帰宅した。
「ただいま」
「おかえり、琥珀……!」
帰宅するや、涙目になった母親が出迎えてくれる。
「今日も放課後まで学校で過ごせたのね……偉いわ……!」
「いや……別に偉くはないけれど」
イジメさえなければ、普通に学校に通っていたのだ。
当たり前のことが当たり前にできない環境にあったのが、異常といえるだろう。
帰宅して時計を見ると、時間は夕方の六時。
一眠りすることもできそうだが……やめておく。
(ちょっと異世界について分かったことをまとめておくか)
机に向かってノートを開き、四度の召喚でわかったことを記載する。
四人のクラスメイトの会話、王国騎士シャーロットの説明を思い出してペンを走らせる。
召喚された国の名前はヴァハルト王国。
大陸西部にある小国で山地が多く、目立った特産品などはない。
ダンジョンがあることが数少ない特産であり、冒険者がダンジョンに潜って様々な産物をもたらしている。
ダンジョンで採られるのは魔物の素材だけではなく、食料品や鉱物、燃料、魔法のアイテムなどもあるらしい。
クラスメイトが召喚された目的もダンジョンの攻略。
ダンジョンの最奥に到達した人間は使い切れないような財宝を手に入れ、さらに神様から願いを叶えてもらえるとのこと。
過去に何度か異世界召喚が行われており、ダンジョンを攻略して元の世界に帰還した人間もいるそうだ。
帰還することなく現地で暮らす人間もいて、彼らが広めた日本文化が根付いている。
ダンジョンには一度に五人までしか入れない。
ダンジョンに足を踏み入れると、ランダムでどこかのエリアに転移するとのこと。
前回の探索時は草原エリアだったが、砂漠や海、森林、鉱山など様々なエリアが存在している。
ランダムに転移するとは言ったが……同じメンバーでダンジョンに入ると、前回と同じエリアに飛ばされるらしい。
それぞれの階層の奥には『転移門』と『脱出門』の二つが設置されている。
脱出門を通ると、ダンジョンの外に出ることができる。
前回の探索では、ワームに襲われながらもどうにかヘリヤを逃がした。
転移門を通ると、次の階層に進むことができる。
一度、転移門を通ってしまえば、再び同じメンバーでダンジョンに入った際に進んだ階層から探索を始めることができるとのこと。
ダンジョン内では死ぬことはない。
つまり、根気よく攻略を続けていけば、いつかは必ず最上階層に到着することができるはずなのだ。
(チェックポイントがあって、死んでも生き返ることができる。それなのにわざわざ異世界人を召喚しなくちゃいけない意味がわからないな)
わざわざ異世界から人を召喚したくらいだから、そうしなければいけない理由があるのだろう。
ステータスなのかスキルなのか。
現地人と異世界人との間には、越えられない壁が存在するのかもしれない。
(まあ、どっちにしても僕がやることは変わらない。ヘリヤさんを日本に帰らせるために、召喚獣として戦うだけだ)
「よし、頑張ろう!」
琥珀は決意を新たに、情報をまとめたノートを閉じるのであった。
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