第24話 異世界でー、日本人とー、出会ったー


 甘井に案内されてたどり着いたのは大通りに面した服屋さんだった。

 外観はオシャレそうな雰囲気であり、若い女性客が出入りしている。


「へえ、綺麗な店じゃん。ちょっとセンスは古い気がするけど」


「仕方がないわ。異世界だもの。だけど……売っている服は保証するわ」


「ふうん? そうなの?」


 柊木と甘井が率先して店に入っていった。

 その後ろを揚羽が、さらに後ろをヘリヤと琥珀が続いていく。


「キュ?」


 その店の内部には無数の服が置かれてあり、人型のマネキンが売り出し中と思われる服を着ていたりする。

 外観は中世ヨーロッパ風の世界観を残しているというのに、店の内装は現代日本っぽい空気があった。


「いらっしゃい。あら、初めてのお客様ね」


 四人と一匹が店に入ると、五十代ほどの年配の女性店主が現れた。

 その女性は黄色人種で黒髪黒目の持ち主。どう見ても東洋人にしか見えないような顔立ちをしている。


「あらあら、可愛いお嬢さんと……そっちはペンギンかしら?」


「キュウ?」


「可愛いわね。あなた達、もしかして日本人なの?」


「あの……もしかして、貴女も日本人なんですか?」


 揚羽が驚いた様子で訊ねる。

 すると、女性店主は懐かしそうな表情になった。


「日本ね……懐かしいわね。城で働いている友達から聞いていたけど、また召喚が実行されたのね」


「またって……そんな頻繁に異世界召喚は行われているんですか?」


「頻繁というほどではないわね。私が召喚されたのは三十年も前のことだから」


「三十年って……」


 揚羽が驚いた様子で目を見開いた。


「その……つまり、店主さんは帰ることができなかったんですか? その、日本に……」


「いいえ、帰ることはできたわよ? ただ、この世界に残ることを選んだだけ」


 女性店主は懐かしそうに遠い目をして、当時の出来事について話し出す。


「この国にはダンジョン以外に目立った産業がないからね。何十年かに一度、強い探索者を招くために異世界召喚を行っているのよ。何故だかわからないけどやってくるのは日本人が多いらしいわ。私は旅行中だったんだけど、乗っていた夜行バスの乗客丸ごと異世界に召喚されてしまったのよ」


「…………」


「ちょうど夜行バスが事故に遭って崖下に落ちるタイミングでね……召喚されてなければ死んでいたから、当時の王様に恨みはなかったわ。元の世界に戻るためにダンジョンに潜って探索をした。ただし、私は向いていなかったみたいですぐに脱落してしまったけれど」


「脱落、ですか?」


「ええ、魔物に殺されたことがトラウマで戦えなくなっちゃったのよ。王様にお願いして、支度金を貰って城下町で働くようになったの。服飾系の専門学校に通っていたから、この仕事を選んだわ。この世界に来てから三年くらい経った頃、一緒に日本から来た友人がダンジョンを攻略したらしくて元の世界に戻る方法を手に入れたみたい。私も一緒に帰らないかと誘われたのだけど、その時には今の旦那と結婚していたから断ったわ。友達はダンジョンで手に入れた黄金を山ほど抱えて帰ったわ」


 女性はニッコリと笑って、揚羽を励ますように微笑みかける。


「時間はかかるだろうけど……ダンジョンを攻略したら元の世界に帰れるというのは本当みたいよ。みんな、気を落とさずに頑張ってね?」


「……はい、ありがとうございます」


 店主の女性の励ましに揚羽が頭を下げる。

 ダンジョンを攻略するのに三年かかったという重い事実、そして、元の世界に帰る方法はちゃんとあるのだという希望。

 両方を同時に突き付けられて、複雑そうな表情をしている。


「そんなことよりも服を選びましょう。試着室はあるんですよね?」


「アタシはこっちの服が気になるかなー? っていうか、この生地ナイロンっぽいんだけど何で出来てんの?」


 店主の女性を聞いていなかったわけではないだろうに、甘井と柊木はさっさと服選びを開始してしまう。


「アンバー、これ付けて。似合う」


「キュイッ!?」


 琥珀もまたヘリヤからネクタイのようなものを締められてしまった。

 そんな女子高生たちの様子に女性店主は苦笑しながら、琥珀の肩を叩く。


「あまり一人で思いつめないようにね。私のようにこっちで暮らしていく生き方もあるし、好きなように生きても良いのよ」


「……はい」


「試着室はあちらですよ。案内しますね」


「私も選ぼうかな。下着の替えが欲しかったところだ」


 女性店主の和やかな声に、揚羽も笑顔になって服選びを始めるのであった。

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