第12話 女性五人(+ペンギン1)
広場の中央にある三メートルほどの大きさの門。
それをくぐり抜けると、内部には別世界のような光景が広がっていた。
「わっ……!」
その声は誰の口から漏れたものだろう。
門をくぐり抜けた内部には広々とした草原が広がっており、サバンナの真ん中に放り出されたような景色になっていたのである。
「キュイ?」
(アレ? さっき別のグループが入った時には、石でできた部屋みたいになってなかったっけ?)
琥珀がペンギンの首を小さく傾げた。
ダンジョン内部の景色が変わっている。
もしかして、中に入るたびに場所が変わるというシステムだろうか?
「どうやら、今回は草原エリアに出たようですね」
周囲を見回し、先頭のシャーロットが口を開く。
「事前に説明していたように、ダンジョンの内部は外とは別の
丁寧にシャーロットが説明してくれた。
その事前説明を受けていない琥珀としては、非常に助かる。
「一応、全てのエリアは繋がっていますが……先に入ったグループと顔を合わせることは滅多にありません。運が良ければ、進んだ先の上層で会うこともあるでしょうが」
「ちょっとー、質問いいー?」
柊木が間延びした声で右手を挙げた。
「後ろの門、消えちゃったんだけど。どーいうこと?」
柊木の声に一同が振り返ると、ここに入ってくるときに使った門が消えていた。
「そのことも事前に説明したはずですよ。聞いていなかったのですか?」
「そうだっけ? 忘れちった」
「仕方がありませんね……御覧の通り、ダンジョンの入口は一定の人数が足を踏み入れた時点で消失してしまいます。一度に入ることができるのは五人まで……そっちの召喚獣は例外ですけど」
「キュウ?」
シャーロットと目が合ったので、琥珀はとりあえず首を愛らしく傾げておいた。
あざとい動きがお気に召したのか、真面目そうな騎士の顔がわずかに緩む。
「出口が消えてしまいましたが……外に出る方法は二つあります。上層との境界にある『帰還ポート』を利用するか、命を落とすかです」
シャーロットが自分の首を手でトントンと叩く。
「ダンジョン内では魔物との戦いやトラップによって命を落としたとしても、死ぬことはありません。外の世界に飛ばされるだけです」
「フーン……それじゃ、出たくなったら死ねばいいわけ? 超簡単じゃん」
「そう簡単ではありませんよ。『死に戻り』ではダンジョン内で手に入れた物品を失ってしまいますから、魔物を倒して得た『ドロップアイテム』と呼ばれる成果や宝箱から得た財宝も無くなってしまいます。それに……仮にではあっても死は死です。心に深い傷を負ってしまい、再起不能になる者も少なくありません。ショウコだって、生きたまま魔物に喰われる経験はしたくないでしょう?」
「…………」
脅すような言葉に、柊木がわずかに表情を歪める。
実際に魔物に喰われる場面を想像してしまったのかもしれない。
「我々の目的はダンジョンの最奥にたどり着いて、そこにある財宝を手にすることですが……もちろん、途中で得た成果も買い取らせてもらいます。元の世界に戻る際にはお金を持ち帰ってもらって構わないと国王陛下もおっしゃっていますから、決して無駄にはならないはずですよ」
「……なら良いけど。一生遊べるだけのお金を手に入れて日本に帰れば良いってことね」
柊木はわずかに声のトーンを落として、腰に提げている剣の柄に触れる。
今さらながら魔物との戦いに不安を感じているのかもしれない。琥珀にしてみれば、いい気味である。
「心配しなくても大丈夫。貴女達は訓練で十分な実績を見せていますし、召喚された際に授かった『加護』もあるでしょう? よほど運が悪くない限り、下層でやられることはまずないはずです」
シャーロットが一同を安心させるように明るい声で言い、少し離れた場所を指差した。
「ほら、さっそく魔物が出てきましたよ! 訓練で得た力を見せる時です!」
シャーロットの指を追いかけると、そこには大型犬によく似た生き物がいた。
四本の足で草原を歩いてくるのは、バチバチと紫色の火花を体毛に纏っている不可思議な生き物である。
「『ボルトドッグ』……草原エリアでは比較的弱い魔物だ。最初の相手にはちょうど良いですね」
「シャーロット教官……」
「アゲハ、戦闘準備を。他のみなさんも」
シャーロットに促されて、四人のクラスメイトが慌てて武器を構えた。
ボルトドッグと呼ばれていた魔物もこちらに気がついた様子で、獲物を見つけたように走ってくる。
「さあ、初戦闘です! みんな、油断しないように!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
シャーロットが戦いの開始を宣言すると同時に、ボルトドッグが威嚇の鳴き声を上げたのであった。
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