序ノ廻ノ起 中ノ編
「いやはや、君が無事でよかったよぉ、うん!」
目の前の赤い髪のお兄さんが大笑いしながら、僕の肩を叩く。赤い髪に翠色の瞳の、すごく背の高いお兄さん。右目はアイパッチで隠していて、立派な教会騎士の上着を羽織っている。とてもカッコイイ。青い紋章の刺繍は、教会騎士公式である事を証明している。そんなお兄さんが、僕が迷わないように「こっちこっち」と、笑顔で手招きしてくれた。僕はそれに必死について行く。結構歩幅が広くて、小走りじゃないと追いつけないから、一生懸命に見失わないようについていく。
なぜこのお兄さんが僕の目の前を歩いているかというと――。
―――
時は少し遡るけど、僕「ルカ・フィリッポス」が審問にかけられて、判決を言い渡されるまさにその瞬間だった。
<異議ありィ!>
中性的な声がその場に響き渡り、怖いおじさんの木づちがピタリと止まった。そして、声の主に視線が集中する。僕に突き刺さる視線が、全てその人に向けられたんだ。僕も釣られてそれを見ると、銀髪のお姉さんが立ち上がっておじさんを見ていた。表情にはどこか余裕げな雰囲気を感じる。
<ようよう、じじばば共! こぉんな未来ある美少年を寄ってたかって虐めて楽しいんかァ? 何の証拠もねえのによぉ、ぐだぐだ言う前に証拠出せっつーんだよオラァン!?>
お姉さんがまくし立てるように叫び、おじさんを指をビシリと突き刺さるような勢いで指し示す。
<"ガブリエル"。審判に異議を唱えるという事が、どういう意味か、解っているのか?>
おじさんが苛立ちを含みながら、お姉さん――ガブリエルさんにそう尋ねる。だけど、ガブリエルさんはというと、腕を組んで鼻を鳴らし、不敵な笑みでおじさんを見下ろしていた。
<解ってるよ、うっせーな。だが、私がどういう存在かってのも、あんたも理解してんだろ? 神が敷いたレールや秩序に、お前らの言う私ら”異端者”には通用しない。だからこそ、だ>
ガブリエルさんはおじさんに突き刺していた指を、そのまま僕の方へ向ける。
<あの子はうちら「
そう言って、へらへらと笑い始める彼女。周囲の人たちもあきれるやらどうすればいいやらで困っているようだった。苦笑すら聞こえる。ひそひそと何か話し合ってるみたいで、互いに顔を見合わせていた。……でも、しばらくの騒めきの内に。
<……いいじゃないの、地底人共が引き取ってくれるっていうなら、好都合だわ>
<そうだな、それがいい>
というおばさんの声が響き渡り、その声を皮切りにざわざわと大きくざわめき始め、彼女に賛同する審問官の皆さん。ガブリエルさんは腕を組んで満足げに口元を緩めていた。うんうんと頷きながら、おじさんの方を見る。
<で、”ラフノフ”さん。どうすん? 審問官の皆さんはうちらにあの子を預けるみたいですけどぉ?>
<……はあ。承知した、ルカ・フィリッポスの処遇は、ガブリエル。君に任せるとしよう。満場一致でもあるしな>
ラフノフと呼ばれたおじさんが木づちを叩き、僕を見下ろした。
<ルカ・フィリッポス。有罪ではあるが……君の処遇はこの、「ガブリエル=ラ・ピュセル・サ・ザカリヤ」に一任する。よって、君は本日付で
<感謝しまーす、審問官長殿~♪>
―――
と、言う事があり、ガブリエルさんはどこかへフラッと行っちゃって、赤い髪のお兄さん……「ヨハンソン・レッド」さんが代わりに僕を案内してくれると、彼が言ってくれた。ので、今はヨハンソンさんの後について行ってるわけだ。
ヨハンソンさんは歩きながら話をしてくれて、既に知っている事も、知らなかった事も、いろいろな事を教えてくれた。ここはフロー大聖堂という、この島で一番大きな聖堂らしい。で、この島の中心都市である「フローレイズ」の「教会」に所属する「教会騎士」が衛兵の役割を担い、日々善良な市民を守る為に活動している。この島では、国王よりも教会の方が権力が強く、教会独自が擁する、基本的に衛兵の様な役割の教会騎士や、検挙や起訴、訴訟を受け、裁判、審判なんかを担当する「異端審問会」が、島の秩序を守っているというらしい。ガブリエルさんの言っていた「神の敷いたレール」に沿って、教会はここフランスの国力よりも、権力があるようだ。……今、啓蒙主義が広がっているっていうのに、なんか時代遅れな感じもするんだけどね。
でヨハンソンさんやガブリエルさん達、「
「ルカ君、君はこれから「
ヨハンソンさんがそういいながら、昇降機に乗り込むので、僕もそれに続いた。
「……いえ、僕はガブリエルさんに救われた身です。拒否権も何も……」
「ま、色々胡散臭い場所だし組織だけど、とりあえず空気を読んどけば、その内勝手もわかるからさ」
僕が乗り込んだことを確認すると、ヨハンソンさんが昇降機のリモコンらしきものをぽちっと押す。ガコンと大きな音と揺れと共に、昇降機のリフトが上へと昇っていった。機械音と歯車のこすり合う音が、ギチギチと響いて上へ。広い空間に昇り切ったと思ったら、ガコンとさらに大きな音と揺れが響いた。一瞬、前のめりになるものの、踏ん張って倒れないように、足元に力を入れる。
「ここが、「
ヨハンソンさんがそう言いながら、数歩歩いて、僕の方に手招きをした。
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