『謝罪詩編集の主題による幻想的な変奏曲』
やましん(テンパー)
『下宿のおばさんに』 上
【主題】 (『謝罪詩編集』第一話)
『これは、やましんのゆめに基ずくおとぎ話であります。』
『下宿のおばさんに・・・・・
あなたは、人生の大きな一里塚
何も知らなかった、この僕の
世間についても
社会についても
そんな僕を受け入れて、よくぞ支えてくださいました
卒業の時
ぼくは、あなたに、折々の手紙を出すと約束しましたね
でも、一回だけ出したお便りは
戻ってきてしまいました
たぶん、宛先を正しく書けなかったから
あなたは、おいごさんの家にお引越しされたと聞いていましたが・・・
うまく手紙が届かなかったのです
これは、本当なんですよ
ああ、でもぼくは、その先を求めなかったのです
なぜ?
そのあと一度、懐かしい下宿の前までも、尋ねて行ったのです。
でも、お留守だった。
ああ、でもぼくは、その時も、その先を求めなかったのです
なぜ、僕は、いつも、その先を求めないのか
それは、怖いから
それは、絶望につながるから
その先は、もうまるで、前が見えなくなるから
誰もいないから?
それとも、自分が、あなたが、傷つくだけだから
おばさん
あなたは、ぼくが戸惑っている間に
あちらの世界に旅立ってしまわれましたね
ご近所の、行きつけのお店で聞きましたよ
あなたは、あのあと、再び、懐かしい下宿に帰ってきておられたと。
時々、アイスクリームを買いにきていらっしゃった、と
その来るべき時の、ほんの少しだけ、前まで
ああ、ぼくはアイスクリームを買って行って
あなたと一緒に食べるべきだったのです
もう少しだけ、その先を求めるべきだったのです
ぼくは、今も、その先を求められずにいます
いえ、その先を消してさえしまったのです
でも、その先がなくても
今には、ほんのわずかの希望が芽生えたのです
そう、ここにまだいる僕の
今の瞬間だけにしかない、わずかな希望なのです
それは来るべき日への、希望なのです。
あなたに深く感謝し、謝罪します
いつの日か、まっすぐに、お詫びすることができる日まで
永久(とわ)に安らかに』
『変奏』
いまは、周囲の建物は、おおかた昔のままですが、下宿だけは取りこわされて、小さな駐車場になっています。
ぼくは、このお家の二階の四畳半の部屋に、住んでいました。そこには、四人の男子下宿生が住んでおりました。
賄い付きで、当時6万円でありました。(けっして安くはないけど、親に負担していただいておりました。)
ただし、日曜祝日は、食事はありませんから、みな各自、自分で確保するわけであります。
そこで、土曜日の晩には、トランプによるゲーム大会(『大貧民』とか、『階級闘争』、と呼ばれますが、経済学部の学生には、必須と言われていたのです。)を行い、大貧民になると、翌日のうどん代金を負担することとなります。
これらは、皆、つまり、まあ、事実なわけです。
🐻
さて、ある日のことでした。
びーちゃんの知人が、この元下宿に、一晩、泊まることができるイベントを用意したと言うのです。
それは、新規開発されたばかりの、『超時空融合装置』によるお試し企画らしいのです。
そこで、ぼくは、その体験行事として、かの下宿のあった場所に出かけて行きました。
飛行機では、地上走行の倍以上時間がかかるし、電車はコロナ感染症が怖いから、必然的に、流星5号の登場となります。
手術もしたばかりだからね、高速道路を最低速で各駅停車にて、ゆっくりと進んで見たら、もう、到着したころは、すっかり日も落ちてしまいました。
🌇
しかし、思えば当時は、お金もないから、特急電車などには乗れませんし、高速艇はさらにまた非常に高価なので、いきおい普通列車とフェリーの乗り継ぎで、まあ、時間帯にもよりますが、おおかた9時間から、下手したら10時間以上くらいは、かかりましたものです。
それはそれで、おつなものですけれどもね。
それに比べたら、時間は、ま、半分というあたり、くらいでしょうか。
しかし、なにより驚くべきことは、きちんと、かの下宿があったことなのでした。
しかも、昔より、はるかに、広くて、豪華になっているようなのです。
つづく………
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