魔王退治と書いて嫁探しと読む

@kabakaba

プロローグ

『魔王退治と書いて嫁探しと読む』


 ――勇者――


 世を闇が覆う時、彼はどこからともなく現れ、人々の希望となり、闇を祓う。

 子供でも知っているおとぎ話。

 光(勇者)と闇(魔王)の戦い。

 王国の軍隊が束になっても傷一つつけることすら叶わない存在を一振りの剣だけで斬り裂く。

 精霊の加護をうけ、人の身には余る強大な力と技を有するのだ。

 だからこそ彼にしか使えないとされる光魔法、空間魔法が「それ」である証となっていた。

 過去形なのは勇者はもう存在しないからだ。

 “本物の”と言った方が正しいか。

 何にせよ確かに存在した光と闇の内、今なお残っているのは闇だけなのだ。

 光はもういない。再び現れるかもしれないし、そうでないかもしれない。

 故に、人間の支配者は苦肉の策として勇者の資質がありそうなもの全てを勇者とすることとした。


 ――勇者システム――


 魔王の生誕が確認されてから数十年、勇者は未だに現れない。不思議なことに、魔王軍による侵略行為は伝えられていたそれとは違い、ほとんど行われていない。

 そのため、最初の十年ほどは躍起になっていた魔王退治も、今では少しずつ薄れてきている。

 かと言って完全に無視するわけにもいかないので、勇者システム――システムと呼ぶにはあまりに不出来だが――により才覚を持つ人間を勇者と祭り上げることになったのだ。

 ある勇者は剣の腕前故に、ある勇者は魔法の腕前故、またある者はなにもないのに選ばれた。

 かく言う俺――ウォル・アクランドも勇者として選ばれた一人だ。

 しかも武術や魔術が優れてたから選ばれたわけではない。完全にランダムだ。

 ただ俺が前の勇者がなくなったとの報を王が受けた時に近くにいたから選ばれただけ。

 当り前だが、そんな方法で勇者を選んでいるから大抵が結果なんて残せない。ほとんどが戦死、中には他の街に永住して役目から逃げ出した人もいる。

 その結果他国から評判が悪い。なんせ素人だから一緒に組んだら足を引っ張ってしまう。

 魔物との戦闘でのそれは死に直結する。誰だって嫌がるさ。

 この国も先代までは一番強い兵士とかを勇者にしていたらしいのだが、今の王様は魔王退治に興味がないらしい。なのでわざわざ優秀な人材を使いたくないわけだ。

 もちろんのこと支援金など雀の涙ほどもない。もらえるものは疫病神勇者と言うレッテルのみ。

 だからこの国の国民は勇者を避ける。どう接して良いかわからないからだ。

 しかし、俺は違う。おそらくこの国で唯一勇者になりたかった人間だと思う。


 復讐? 両親は健在だ。


 バトルジャンキー? 痛いのは嫌です!


 名誉? んなもので腹はふくれぬ!


 じゃあ何が目的かって? それはな――


「んじゃ、行ってくる!」


 五日分の水と食料に愛用のはがねの剣があることを確認した俺は両親につげる。


「いってらっしゃい。怪我には気をつけてくださいね」

「いってこい。夢を果たすまでは帰ってくるなよ」


 お袋が、親父が笑顔で送り出してくれる。

 夢――俺が勇者になりたかった理由。 

 それを叶えるまではこの家に帰ってくることはないだろう。


「もちろんだ! 絶対に夢を叶えるぜ!」

「ふふっ、楽しみにしてますからね」

「俺もその日のためにしっかり鍛えておく」

「ああ! 楽しみにしててくれ! 必ず――」


 外へと飛び出す。

 お天道様はらんらんと輝き、俺の出発を祝ってくれているみたいだ。


「――可愛いお嫁さんを見つけてみせる!」




 勇者ウォル・アクランド絶賛お嫁さん募集中!

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