急話 My Ordinary Life〜ある殺し屋の羽撃き〜

イーグルは、病院にいた。

配管と電線ばかりの廃れかけた病室の堅いベットの上。

無法者ばかりが集まる病院というのは大体こういうものだとイーグルは割り切っていた。


着ていた服は全部脱がされ、今は薄汚れた麻布を着せられている。

まるで貧乏人みたいだ。


医者は病院の前で血まみれで倒れていたと聞いたが……まあ死体の上に倒れて仕舞えばそうなるのだろうな。

それがイーグルの感想だった。


一体誰が病院へ運んだのか、そこまで分からないほど彼は野暮ではない。


『イーグル、大丈夫か?』

モニター越しから聞こえる低い声。

ジョセフのものだった。

「まぁまぁといったところか?」

『そうか。まさか任務達成した直後に襲われていたとは……気の毒だったな』

「ああ、そうか」

ジョセフの口から告げられる任務終了の令。

「任務、達成か……」

『何を言ってる。志村宏陽の殺害はお前がやってくれたのだろう。報酬はお前の口座に振り込まれた』

「あ……」

あの女はどうなったんだ——その言葉を言いかけて呑み込む。今更何も言えない。

『……どうした?』

「いや。少し感傷に浸ってただけさ」

『そうか。お前の退院は明日だ。安静日は1日与えてやる。それまでに仕事の準備をしろ』


モニターの通信が切れる。

「……」

ため息を吐いた。

(ヒーロー……か)

彼は静寂ばかりの病室で思う。愚かな事だ。

彼女を助ける為だけに国を敵に回すなんて。

それほど、ロボットに恋をしていたとは。


「フッ……」

そんな事を考えて鼻で笑う。

阿呆らしいと。


そして綺麗に畳まれた服を着ようとした時——

目の前に、銃が置かれていた


世界中のどのメーカー品でもない、緋色のオートマチックの拳銃。

「これは……?」

手に取ってみるとずしりと重い。

(オーダーメイド……?だが、どこの企業の?)

拳銃を見回す時スライドに文字が刻まれていた。


Dear my eagle親愛なる鷲へ


そしてもう一つ。今度はグリップに刻まれていた文字を読む。

From your avenger アナタの復讐者より


「……」


イーグルは、ただ苦笑するだけしかなかった。


〜2日後〜


シティの高層ビルの上に立つ紅のスカジャンの男。

掃除屋イーグルは、シティの街並みを一望していた。

風を受けている最中、耳につけた通信機にノイズが走る。

 

『イーグル、調子はどうだ?』

唸る様な低い声。ジョセフからだった。

「元気いっぱい……とは言えねえが、まぁぼちぼちといったところだ」

『そうか、なら良い。早速だが新しい仕事だ。依頼はいつも通りメールで送った』

通信が切れると、すぐに二世代遅れの携帯からメールを見る。

「OK。すぐにやる」


そういってビルの屋上からなんの躊躇いもなく飛び降りる。地上300メートルをびくともせずに急速に落ちていき、ある部屋のガラスを突き破って入っていく。


イーグルは緋色の拳銃を構え、中にいた人間を撃っていく。


あの女と出会ったあとは何も変わらなかった。

ただ人を殺す。

それが任務だから。


それがイーグルにとっての日常なのだから。




今日もシティは銃声に満ちている。

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My Ordinary Life 萎びたポテト @hajimetsukasa

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