零
Shiina
ープロローグ
ープロローグ
そこは、暗く、どこまででも続く物質と言う概念が存在しない暗闇の空間。
その者は、ただひたすらに必死に逃げ惑う。
「ハァー!、ハァー!」と、大きく呼吸を乱し。背中からは大量の汗がびっしょりと服を湿らせ、肌身にピッタリと張り付くのがわかる程に。
(ヤバい!、ヤバい!逃げなきゃ逃げなきゃ!少しでも遠くに遠くに!じゃない
と!殺される、殺される!あの・・・・・化け物に!)
「ウガァァァ!」
少しでも、その不気味な声から距離を稼がなきゃいけない筈なのに。
ふっとその者は、声の方に振り返ってしまう。
いやぁ、振り返るしかない状況に陥ったと言う方が正しいのか。
あまりも『不運』・・・あまりも『滑稽』・・・あまりも・・・・・『無様』。
ここは、暗くて何処までも続く暗闇の空間。
何一つ物がない筈・・・殆ど、万に等しいこの空間で、この状況下で。
哀れな不運を引き当てると共に勢い良くドン!と、強い音を立てながら前傾に転る。
「クッソ!、クッソ!なんで!、なんで!俺は・・・俺はいつも!」
「ウガァガァ!」
だんだんとその不気味な奇声が大きなって逝くのを肌身にピリピリと感じる。
額から出る大量の汗がその者視界を撹乱し、その必死に結んでいる行動を妨害する。
その者が必死に現在進行形で、行っている事とは。ただの運動靴の右足・・・。
解けた右足の靴紐を必死に結ぼうとしている事だけだ。
何故、急に・・・何故、唐突に・・・普段は余程の事がない限り解ける筈のない靴紐が。何故、何故・・・こんな時にと。思考をフル回転に巡らせてもわかる事もなく・・・。そして、それは唐突に・・・それは・・・必然的に・・・
未だ、縛れ切れていない靴紐から手を離すと、天井とも言えぬ暗闇を見つめながら。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
まるで、頭のネジが外れたかのように。瞳を大きく見開きながら奇声を出し始め。
そして、今までゆっくりと歩く事しかしかなかった。
化け物は、無様な男の声を耳にするとニンマリと口角を左右に尖らせ。
その『人器』によって解放された身体能力で、床を強く蹴り上げると。
男の顔面に狙いを定めて勢い良く飛んで来た。
男の感情は、絶望し恐怖してめちゃくちゃの筈・・・筈じゃないとおかしいのに。
化け物は驚愕する、その男の満天な笑みに。
「ウガァーーーーーーー!」
これまでで一番大きな奇声を挙げると化け物は、禍々しい赤黒く染まった。未だ微かに蠢く、悪魔の手ような大きな右手で、その男の顔面。正確には、眼球を貫こうとした瞬間。
その者は、現れる。
純白な白髪を波のように靡かせ、何処までも透き通るような白い素肌。
華奢な幼女の体型に柄のない白のワンピース。そして、何故か素足。
その幼女は、勢い良く飛んで来る。化け物の無防備な顔面に強くて重い。右足の上回
し蹴りを思いっ切り入れる。それはもう、気持ちが良いものだった。
この空間には物と言う概念が存在しないため。化け物は、暗闇の彼方へと消え去る。
そして、その幼女は。その消え去る化け物に向かい、思いっ切り拳を握り。
仁王立ちでこう叫ぶ。
「ホーーームラーーーン!」
気持ち良く叫び終えると、ガッポーズ決め。
軽やかな髪を宙に靡かせ、くるりと振り返り男に向かいニッコと笑顔を見せこ言う。
「やっと会えたね!マスター」
「・・・・・君は?」
それが君との最初の出会いでもあり・・・悲劇の遊戯の始まりでもあった。
零 Shiina @kohitewt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。零の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます