僕は彼女が幽霊ではないかと疑い続ける。

スルメ大納言

期間限定のデジャヴュの正体、きっと前書き(あらすじではない)。

 この町は、町という程には見渡す面白さ(思い入れ)も無いが、ともかく、高校生の高橋稔がいるこの場所である。


 申し訳程度に配置された田んぼと、高かったり低かったりする家々がアンバランスであるというばかりの印象で、稔が未だあのコの家を探すのに苦労するのもそのせいだろう。


 彼の記憶が確かなら田んぼに人気は無かったから、あの夜、半分夢の混じった枕元に(衝動的に)幽霊を見て、玄関ドアーの何かしらの金具を故障させつつ半狂乱に飛び出したあの裸足がいくら踏み荒らしたところで、そんな足跡を覚えている者など、彼を含めて(当の田んぼすら)、誰もいなかったのである。


 稔は人並みには昔の記憶というものが混乱していたから、きっとここいらの地形もだいぶ変わっただろうけれども、どんなそれから変わったのかは誰も知らない。当然彼も知らない。


 しかし、あの家だけは変わっていなかった。普段どおりの気が触れそうな夜の冒頭に、無目的に通りかかったその家は彼の想像どおりであった。別に記憶どおりという訳ではないが、窓から覗く若干ホラーな少女は、先程言ったところのあのコである。


 ここにおいて初めて言及すべき事実がある。彼女は稔の同級生であるということ、同級生であるという以外には何も分からないということ、そして互いに互いを知らないということである。何を隠そう。彼は今初めてここへ来たのである。


 そしてまた、特に何も起きず、稔は家へと帰るのであった。

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