第3話:森山京の幸せな日々3
兄さんやステラさんに質問内容を相談しつつ、ユニさんへのメールを打ち終えたところで、ベランダから三人が戻ってくる。
トマトとナスとバジルをカゴに入れて。
ティアナちゃんとユーフォちゃんはワグニくんに懐いたようで、カゴをキッチンに置いてからわいわい手を洗う。
「お昼、ピッツァ焼きましょ」
ハルネさんの呟きにジンガナさんが頷く。
「マルゲリータにしましょう」
「うふふ♡ リーネア、本場イタリアを味わったあなたにアドバイスをもらいたいところです」
「手伝うよ。子どもらが盛り付けする分で数枚くれ」
「もちろん♡」
カンナちゃんとミズキちゃんが喜んでいる。無表情ながら、幸せの詰まった小さな体のその仕草で感情を示す様子に鼻血を出してしまいそうだった。
戻ってきたユーフォちゃんに抱きつきにいく。
同じくリビングに戻ったティアナちゃんは、ステラさんにヘアアレンジさせてと頼まれじっとしていた。
「けい」
「わ。なあに?」
ワグニくんが話しかけてくるのは珍しい。
「めでたい。
「……」
ステラさんもスマホを見てからティアナちゃんに視線を戻す。
「病院いく? 待つ?」
「……行きたい」
「そっか。一緒に、」
「わたくしが送りましょう。転移を使うから安心してね」
ジンガナさんがやってきて、ティアナちゃんの手を握る。
「いいかしら」
「お……お願いします……」
赤い顔で緊張気味に、握り返す。
場のみんなで挨拶しあってから、転移で二人の姿が消えた。
生地の発酵が終わり、整形も終わり、具を盛り付けたピッツァをオーブンで焼いている頃。エドさんからお礼のメールと写真が送られてきた。
「こひぃ♡」
生まれたてほやほやの赤ちゃんがリヴィさんの腕におさまっていて、脳天が尊さで貫かれる。
赤ちゃんの名前はルイくんだそう。
母子ともに健康。ティアナちゃんは嬉しさのあまり泣いてしまい、いまはジンガナさんに撫でられているとか。
兄さんたちの方にも届いたようで、兄さんのスマホを見る三姉妹がはしゃいでいる。
「リヴィさん似かなあ……ほにゃほにゃでかわいいね」
「とてもいい」
「すてき」
「二人も赤ちゃんだったんだよ〜」
「あね」
「あね」
あぁー……♡
「京さん、においは大丈夫ですかー?」
「あっ、はい。大丈夫ですっ」
ハルネさんに声をかけられてキッチンを振り向く。
焼ける匂いがしても辛くない。
「良かったぁ。ステラさんが持ってきた新技術、バッチリですよ」
「!?」
「技術ではなく、魔法……」
ステラさんは照れつつも教えてくれた。一枚のカードを懐から出す。
「このカードを折りたたんでいる間、妊婦にとってつらいにおいをかき消します」
「!!」
「わたしも妊娠中に経験したから、それを抑える魔法を考えていたのです」
「と、特許はとられました? 製品化の予定は……!?」
「アリス先生とフレイさんにご相談していますよー」
「ステラさぁん……!!」
嬉しくて手を握ってしまった。
はにかみながら握り返してくれるステラさんの優しさに心打たれる。
「京ちゃんの初妊娠に間に合ってよかった」
「うぼぁ愛してる、愛してます……!!」
愛を叫んでいるうち、我が家のオーブンレンジが焼き上がりを知らせる。兄さんがハルネさんを連れてキッチンへ。
「二人はゆっくりしててくれ」
「兄さんも、好き、愛してる……」
「ありがとう。水分とれ。……娘たちの相手してくれるとありがたい」
兄さんについて行こうとしていたカンナちゃん、ミズキちゃんと、それを止めようとしていたユーフォちゃんが送り出されてわらわら近づいてくる。
ドボドボした。
「うん……」
「けい」
「おなか」
両側から抱きついてくる二人を撫でる。
ユーフォちゃんは正面からそっと抱きついてくれた。
「幸せ……!」
「京さんいつもありがとー!」
「うべぁ♡」
赤ちゃんの頃から知るユーフォちゃんがこんなに大きくなって♡♡
「パパとママがお世話になってます」
「私の方こそ、いつもお世話になってます。ね、ステラさん。今日も素敵な魔法を持ってきてくださって……おかげさまで美味しいお昼ご飯が味わえます」
「楽しい時間のお礼」
話しているうち、兄さんとハルネさんが大皿を運んでくる。
「焼けてたぞ」
「みんなで食べましょー☆」
「ぴつぁ!」
「ぴじゃ」
がへっ♡
「私たちで切ってもいーい?」
「おう。ゆっくりな」
兄さんたち家族は暖かく、胸がズキュンズキュンで尊み溢れる。
切った一枚、ミズキちゃんとカンナちゃんが盛り付けたものを、ユーフォちゃんがあーんしてくれた。歓喜が全身を痺れさせる。
大好き。大好き——
「けい」
「なあに、ミズキちゃん」
「つかう?」
「いい?」
「……………………」
ミズキちゃんとカンナちゃんは、科学的にも魔術的にも全く違いのない双子だ。
通常、どんな双子であっても何らかの違いは出る。科学であれば体の一部が異なるなり、魔術であれば魂が異なるなり。
なので彼女たちは、片方が傷付けば同じように傷つき、お互いの境界線がないので大変に難しい状態。見分ける方法は服の色のみ。
兄さんとステラさんに目を向ける。
ステラさんは、青い瞳の兄さんを見た。《鬼神の瞳》解放による未来予知。
「……おまえが『尊い』と思うたび、体内にとんでもない濃度のパターンが駆け巡るらしい。それを使わせてほしいってよ」
「へえ……なにに?」
答えは双子から返る。
「「せん、ひく」」
「……線……」
二人を分ける線か。
兄さんが予知を深めようとしているから、手振りで止める。
「ユニさんかシンビィさん、あるいはそのほか神秘を操れる人のもとでなら私はいくらでも協力します」
「……助かる」
「ぱぱ」
「ぱぱ」
「おう。どうした」
「「かっこわらい」」
「ありがとう、意外と傷つく」
兄さん夫婦とユーフォちゃんは、原理的に見分けがつくはずのない双子を見分けられる。
愛の力なのかな。
素敵だ。
「トマトうまっ……」
「 !」
「ナスとオリーブ合う」
悪竜さんたちも和室に集合してピザを食べており、野菜を育てたワグニくんが絶賛されている。
悪竜さんたちにピザを届けて戻ってきたハルネさんは『ドルチェなのです☆』と言いながら、今度はチョコとバナナのピザを切っていた。すっごくいい匂いで、これを心地よいと感じられるのが嬉しい。
「どーちぇ?」
「あまー」
双子ちゃんが反応すると、ハルネさんは優しく微笑む。
「ドルチェはデザート、甘いお菓子のことですよ。お二人も食べますか?」
「「たべる」」
「よろしい! サラダも食べましょうね♡」
「はねちゃん」
「すきすこ」
「やーん♡ ハルネも二人がスコスコですよぅ。こんなに大きくなっちゃって☆」
大喜びで世話を焼くハルネさん。兄さんが会釈するのを鷹揚に受け止め、おちびさんたちを自分の近くに座らせる。
ドルチェピッツァに興味津々なユーフォちゃんにも声をかけ、おちびさんたちの向かいに導いた。
「……京」
「ん。なに、兄さん?」
私自身も食べながらの観察なので、いったん手を止める。
「今日はありがとな」
「!! 私の方だよ。忙しいのに、休日を使ってくれてありがとう」
「最高の休日を過ごせたからお礼を言ってんだよ。受け取ってくれ」
「…………兄さん好き……」
どばっと涙が出たのを、ステラさんが拭いてくれた。
「うう、ぅ。ありがとう」
「どういたしまして。……
「
「♡」
あっ、可愛い♡ やばっ♡
耳に異能がある彼女は、私の心の声が聞こえているようで、赤い顔でもじもじとする。
とても幸せだった。
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