第8話

おかしい。なんだか僕はずっと千川を目で追ってしまう。本を読んでいるふりをして、目が合いそうになれば逸らし、近くを通りそうになれば逃げている。

のに、ずっと千川のことが気になってしまう。

千川が他の奴と楽しそうに笑っていれば、なんだか心がモヤモヤする。

(僕はあんなふうに一緒に笑ったことない)

今まで、人と関わることを最低限にしてきた。誰かを特別視してしまうことは辛い、寂しい。それならば一人で、空想の世界に浸っていた方が楽だと、あれほど強く思っていたのに。同じクラスになってから、千川がことあるごとに話しかけてきてくれても無視し続けた過去の自分。

それなのに千川がケーキだと気づき、ああいうことをしてからなんだかおかしい。

そう思いながら、手元の本に視線を戻すと『依存』という文字が目に入った。

(そうか……僕、千川に依存してしまっているのか)

怖い。千川の味を覚えて、千川に依存し始めているこの状況で、今度千川に飽きられてしまったら。そう考えたら、怖くてたまらなくなった。

(もうやめよう)

元々ケーキなんかいなくても日常生活に支障はなかったし、僕はフォークとして誰かを傷つけたくもない。今はそういう衝動に駆られていないけれど、そうなる前にいつも通りの生活に戻ろう。

そう心に誓った僕は、その日から屋上に行くのをやめた。

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