今日は恋愛運が上がる日

愛内那由多

黄色、ストラップ、いつもと違うこと

 ××は××に自分の思いを伝えた。理由は、『神頼みだろうと、チャンスはつかみにいかないと』いけないと思ったら。

 そして、ふたりは交際にいたるのだ。





 少し早く起きてしまって、ニュースの占いを見た。友人の三井曰くよく当たるらしい。獅子座の僕はラッキーカラーが黄色、ラッキーアイテムはストラップ、いつもと違うことをすると恋愛運アップらしい。

 ――そんなことあるわけがない。

 僕はそう思った。

 だって、そんなことで運気が上がるわけがないし、運気が上がったからってなんだっていうんだ。そんなもの―気にするだけ無駄だ。特に恋愛運が上がっても、それで恋愛が上手くいくわけないじゃないか。

 僕は学校に向かうことにした。黄色いものとか――気にしていない。恋愛運とか――気にしてない。絶対になにがなんでも――気にしてない。



 「お前、なんでキツネのストラップなんてつけてるんだ?」

 教室に着いた途端、前席のクラスメイト―三井海斗みついかいとに話しかけられた。

「……いや、なんとなく」

 僕は一瞬、小野おのさんの方を見た。一瞬、目が合いそうになり、即座に視線をずらす。

「なんとなくで――こんなぬいぐるみつけてこないって…。さては、今日の占いだな?」

 三井は意地の悪い笑みを浮かべて続ける。

「なんだ――お前も占いを気にしてんじゃないか。この前、紹介したときは気にしてない感じだったのに。荒井、お前何座?」

「獅子座」

 おうほう、とうなずきながら、スマートフォンを片手にフリック入力をする。三井は検索結果を見ると―あぁ、とうなずいた。

「ラッキーカラー黄色かなるほど……。それで黄色のストラップ」

「そうだよ……悪いか?占いなんか気にして」

「なんかっていうものを頼ってる時点で――なんかあんだろ?」

 図星だった。

「……」

「黙るなよ。それは――肯定と一緒だよ」

 そんなこと言われても、神頼みしたいことなんて山ほどある。学校に出る直前までは強がっていただけだ。

「……」

「いや、悪い言い過ぎた」

 三井は素直に謝った。こいつのそういう所はそんなに悪くないと思ってる。口に出したりはしないけれど。

「で、今日の占い結果だと――いつもと違うことをすると…恋愛運アップか……。さっきのとあわせると、なるほど……好きな奴がいるの?そういうことだろ?」

 その人物がこのクラスにいるので、あまり目立ちたくない。

そして――再び、小野さんに視線を向けてしまう。小野さんは彼女を取り囲んでいる、華のある友人達と話している。

 僕とは違うな――と思う。

「なに…お前、小野が好きなの?」

 小さくうなずいた。

「なに?一目惚れ?」

「……そうだよ」

 そう――彼女を好きになったのは、一目惚れだ。

 クラス替えのとき、はじめて彼女の笑顔を見た瞬間に恋に落ちた。

 感情が素直に出た、明るい太陽のような微笑み。そして、彼女のほがらかですべてを許容するような雰囲気。

 それらは僕を一瞬で虜にした。

「なるほど…」

「でも――僕じゃ釣り合わない……かなって」

そうだ。僕なんかが――釣り合うわけがない。同じクラスにいるのに――所属するグループが違う。それもとても格差がある。彼女はクラスのカーストトップで、僕は最下位に近い。彼女達は、華があって、僕にはない。

 同じ教室内にいて、見えない壁は限りなく高い。


 そして、なにより――話したことさえないのだから。


 けれど―だからといって諦めたくはない。とか思っている。


「お前、なかなか、面倒くさい奴だな」

「分かってるよ、そんなこと」

 一目惚れまではいいとして、話したことない――話す度胸さえないのに、神頼み。占い頼り。

 これ以上に面倒くさくて、回りくどい奴なんていない。僕にもその自覚はある。

「でも、いいんじゃない」

「なにが?」

「いや、小野が好きでも」

 三井がそんなこと言うなんて意外だった。

「だって――こういうのは蓋を開けてみるまで、分からないって。アタックしてみたら?」

「そういうけどさ」

「俺は、室内楽部で小野と一緒だけど」

 そうだった。こいつは小野さんと同じ部活動だ。だったら、僕よりも彼女に近いじゃないか。

「でも――小野に恋人がいるなんて聴いたことない。それに、好きな人いるっていうのも」

 三井はそう言った。こいつのいうことは多分、正しい。

 けれど、こいつの人間を見る目はザルもいいところ。多分、自分に向けられてる好意とか、敵意に気が付かないのだろう。

 ――信用しきれない。でも、

「信じていいんだな?」

「おう。俺は嘘をつかない」

 こいつは――そういう奴だ。

「でも。やっぱり自信がない」

 それなりに励まされて、背中を押して貰って――僕はいまだに彼女に話しかける勇気がないのだ。

「そのための、ストラップだろうが」

「そうだけど……」

 同じところで逡巡してるなと思う。

 半分呆れながら―三井は言った。

「ラッキーカラーで、ラッキーアイテムのモノを持ってんのに、どうして――神頼みなのにそこまで卑屈になるのかね」

 三井は少し声を大きくして続ける。

「チャンスがあったら――つかみにいけよ。神頼みを使っても」



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