第43話 初の出店
「アンナ!スープ2つ!」
「はーい!」
皿に少し注いで、漏れがないことを確認してなるべく具が入るようにお玉で掬う。
それを表のアリスに渡して、再び馬車の荷台へ戻る。
皿が完成した次の日。
私達は言われた通りの場所に馬車を止めて、荷台に鍋と皿を置き、お金の管理をしながらスープを提供している。
「そうなんです!お皿に拘ってまして…もし良ければルナール商会、お名前だけでも覚えて帰ってください!」
アリスは接客が上手だなぁ…やった事ないはずなのに、本当に尊敬する。
ふと、上を見る。荷台に貼り付けた看板には、「ルナール商会」の文字と、「スープ銅貨3枚!器返却なら銅貨1枚返却!」と記載してある。
これはフランシスカでのアダムの商法と同じだが…ここは魔法ギルドの街。皿がいくらでも手に入るので、このシステムで商売をしているのは私達くらいだ。
そして、ここは常冬の街。この辺りで野菜が取れる村は少なく、ここで商売をする人達はフランシスカ近くの農村から取り寄せた野菜で商売をしている。
つまり、移動費がかかる。人件費がかかる。
その分の料金を上乗せして、スープの相場は大体銅貨5枚。
しかし私達は今回限りなのでその辺の経費を抜きにして、とにかく数を売ることだけを考えればいいので、他の店の半額くらいで売り出せる。
器が無くなるかスープが無くなるか、どちらかをしたら切り上げるだけだ。少し赤字かもしれないが…今回は宣伝目的なので問題ない。とにかくお皿をばらまければそれでいい。
「アンナ!次が出来た!」
「了解!アリス、ちょっとよろしく!」
「わかった!」
ルカが広場に飛び込んで、私に声をかけた。その声の方へ駆け出して、ルカの家の裏に置いてある鍋をルカと2人がかりで馬車へと運ぶ。
結局火は用意出来なかったので、昨日の皿を焼いた火を使った。昨日のうちに徹夜で大量に作って、今朝から温め直してもらっている。
結局ルカに手伝ってもらったが…後で賃金を支払う予定で手打ちにしてもらった。
「そうなんです。そこの土器屋さんで作って貰ってて…少し値はしちゃうんですけど、手間がかかってる分仕上がりも良くって…」
あと、店の宣伝もしてもらっているから許して欲しい。
鍋を荷台に載せて、一息つく…
「アンナ、これで最後の鍋になるぞ」
「わかった。ありがとうルカ」
「アンナ!追加で2つ!」
「わかった!」
暇もない。どうして飲食はこんなに忙しいんだか…準備不足には違いないのだが。
2つ注いで、再びアリスへ渡す。
「お待たせしました。これ、フランシスカの野菜なんです。アダムさんって人のお店で出してる野菜なので、もし近くに行くことがあれば…」
それから、この街の朝は忙しい。
アリスの会話を聞いている限り、街の人の多くが魔法ギルドに所属しており、魔法ギルドは研究職がメインになるので朝方に集まって夕方に帰る生活を送っている人が多いらしい。
朝ごはんと体を温めるのに、スープがよく売れる。実際ウチは他よりも半額に近い値段で売り出しているが、ほかの店もそれなりに繁盛している。
なるほど、アダムの助言の意味がわかった。スープを売っていればとりあえず売れ残ることは無いという見通しだったのだろう。
「後は価格破壊で怒られないことを祈るだけだね…」
今のところ目をつけられている様子はない。そもそも明らかに赤字になるような売り方をしている店にいちいち文句をつけてくることは無いだろう。
ほかの店は今更宣伝なんていらないほどに、固定客がついているようだから。
「いえ、今日だけの予定でして…旅商人なので、どこかで見かけたらご贔屓にしてください!」
アリスの接客は続く。見ない店という物珍しさと、珍しい皿を使っている所、値段。そしてアリスの接客の人気によって、問題なくスープは売り切れそうだ。
そんなことを考えている間にもアリスが呼び込む注文はドンドンと増えていき、鍋の中はほとんど空になってしまった。
「アリス!スープ終わり!」
「…皆さん!品切れになってしまったので、今日は店仕舞いとなります!本当にありがとうございました!」
「お皿の返却の受付は、あちらの土器屋さんでも行っています!お仕事終わりにでも、どうぞお越しください!」
朝の喧騒はまだ続いている。これなら他の店から文句をつけられることもないだろう。
朝日が雪に反射して、キラキラと光っている。とりあえず宣伝という仕事は、成功と言って差し支えないだろう。
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