第10話 ダンジョン飯

ダンジョンは入るたびに若干地形が変わる。

それもあってモンスターハウスなんて罠ができ上がってしまう。


しかし、ダンジョン内にはセーフゾーンという地形が変わらない場所が存在していて、モンスターも出現しないのでバーベキューするには丁度よいのだ。


セーフゾーンを見つけた後、中層散策しているとようやく目当てのモンスターを見つけることができた。

黒い肌に黒い大きな牙をした巨大なイノシシ。

「さて、そろそろ本日の食材、ダークボア狩りをしようと思います!」

<ダークボアって…Cランクモンスターだろ?>

<広いフロアだとフロアボスより強いんじゃなかったっけ?>

<あの巨体のわりにめっちゃ早く動くから、突進がヤバいんだよな…前ほかの動画で突進避けたらダンジョンの壁に穴開けてた動画見たことある>

チャットはダークボアで大盛り上がり、さてはて視聴者数はと…

「えっ!?5万人!?」

驚いて声に出てた。気が付けば視聴者数の桁が変わっていた。

<姫っちゃんがYで拡散してたよな>

<Yから来ました>

<【50,000円】「姫っちゃん」改めてですが、この前は助けていただいてありがとうございました。拡散しちゃいましたがご迷惑ではなかったですか?>

<姫降臨!>

<姫っちゃん赤スパ!>

「迷惑だなんて…宣伝ありがとうございます!」

登録者数500万人の発信の威力を垣間見つつ、ダークボアの突進を素手でいなした。

<いや、素手でいなせんの?>

<無理だろ、体重差どれぐらいあると思ってんだ>

<和也ののほほん具合と、やってることとアンマッチすぎw>

<でもこれ、対格差的に決めてに欠けてるだろ>

これ以上、動画の尺を引き延ばしても面白みに欠けるし視聴者が退屈しそうだ。

「ダークボアの弱点は牙の付け根と鼻の鼻根なんです。それを叩くだけなんですが…ちょっと見ててくださいね」

丁度いいタイミングでダークボアがこちらに向かって突進してくる。

軽く飛んで鼻頭に飛び乗ると、勢いよくこぶしを振り落とした。


ズドンッ!

盛大な音とともにダークボアの動きが止まる。白目をむいたダークボアは泡を吹き、ピクリとも動かなくなった。

「さて、消える前に今日食べる肉をサクッと解体しちゃいますね」

倒したモンスターは一定時間経過すると消失する。ただどういう原理か解体した部位は消えずに残るのだ。

モンスターの食材が地上で高級食材として扱われるのは、一度に持って帰ってこれる量が限られるからだろう。

目当ての食材を手に入れたので、セーフゾーンに場所を移した。



「さて、これからダンジョン飯を作っていこうと思います!」

探索中にダンジョン産のタマネギのダンタマを確保していた俺は肉とダンタマで酒の肴を作ることにした。

外皮をむく際失敗すると、干からびるまで目から水分を持っていく特性をもっているダンタマだが、適切な手段で外皮を向くと中は甘くみずみずしくて美味しい。一般家庭で外皮を向かせるのはリスクが高いので皮をむいた状態で売られていたりする。


豚肉には軽く小麦粉をまぶし、ダンタマを薄くスライスしておく

肉を焼き始めつつ、しょうが、醤油、みりん、料理酒、砂糖の合わせ調味料を準備、肉に軽く火が入ったら一度皿に取り出して肉の油でダンタマを炒める。

しんなりしたところに肉を戻して、合わせ調味料を投入すると…んーいい匂い。

「一品目はダークボアの生姜焼きの完成!」

次はシンプルに、残りの塊肉を一口大にカットしダンタマと肉を交互に串に刺す。

まんべんなくいちむらのスパイスをふりかけじっくり焼けば…

「やきとりの完成!」

<和也料理上手だろw>

<【500円】どこに行けば食べられますか?>

<うまそう…>

<晩御飯豚の生姜焼きにする!>

<豚のやきとりってたしか…北海道だっけ。おいしそうだな>

「酒の肴の準備ができたと言えば…じゃん金色のヤツ!」

蓋を剥がすとジョッキ代わりになる缶で、外飲みでも本格的なビールを楽しめると人気の一品

蓋をカポッと外すとモコモコと泡が出てくる。

「ではでは…いただきます!」

まずは、ダークボアの生姜焼きから…ピリッとしたしょうがの辛味とダンタマのしっかりとした甘みが口に広がったところに、両者の尖った部分をダークボアの油が口の中でマリアージュ。ダークボアの肉の余韻を噛みしめビールを流し込む。

「くーっ!!!!うまい!」

一口でビール一本消費しそうになる衝動を抑えて、お次はやきとりを食べることにした。

ダンタマのシャクっとした食感と、サクッと歯切れのよいダークボアの肉の異なる食感を交互に楽しんでいると、いちむらのスパイスが舌で踊る。

生姜焼きもうまいが、これは酒が進む。

「あー!このために生きてきた!」

1本、また1本と酒の肴をつまむごとにビールを消費し、買ってきたお酒は早々に飲み干してしまうのであった。


―――――――――――

読んでくださりありがとうございます。


『面白い』、『続きが気になる!』という方は「★★★」や「ブクマ」していただけるととてもうれしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る