新作掌編「強盗の理想像」
「――強盗だ、全員、動くなよ……っ!」
拳銃を持って入ってきた男が、受付に真っ直ぐ進んでくる……。
あたしのところにはこないでよ……、と祈ったのに、強盗はあたしのところへ――。
目が合わないように逸らしたのがまずかった?
「おい、そこの女」
「はいっ!」
「動くな……、脱力しろ……よし、それでいい」
拳銃を向けられている緊張感で、体はガチガチになっていたけど、犯人の「脱力しろ」という言葉に気が抜けてしまった……。肩の荷が下りて、溜息のような息が出てしまった――幸い、犯人を刺激することはなかったみたいだ。
「脇を開け」
「は、はい……っ」
「そのまま、肩を上げろ。……肩から肘にかけて、平坦になっているだろ、今のところ綺麗なT字になっているはずだ。余計な動きはするなよ? 狂うからな……。よし、肘から先を、そのまま上に――真っ直ぐに伸ばした指を天井に向けるように……そうだ、それでいい――」
あたしはバンザイをする形に。
「死にたくなければそのポーズをしていろ……いいな?」
「あの、手を上げろ、で伝わるのでは……?」
今更だけど、銃口を向けられた段階で既にあたしはこのポーズだったはずだけど……。
周りの人たちもみな、このポーズだったのに…………犯人がリセットしたのだ。
「脱力しろ」――その一言で、ポーズが0になる。
「美しくない」
「え?」
「今のお前の、その肘の角度、指の伸び具合が一番美しいんだ……妥協はできない」
「…………」
「それを維持しろよ。少しでもずれれば撃ち殺すからな?」
…了
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