第23話 雑紙さがし(三題噺#48「報告書」「ダンボール」「友情」)

 源吾郎と雪羽が働いている研究センターでは、不要になった書類は雑紙入れであるダンボール箱に詰め込んでいた。満タンになった物はガムテープで封印し、それを適宜資源回収業者に回収してもらう運びになっているのだ。

 書類の中でも特に機密事項が詰まっているような物であれば、もちろんシュレッダーにかけるなどと言った処置を行わねばならない。しかしそれほど重要ではない書類、要は走り書きのメモや封筒の外側や書き損じの報告書などの類は、大体はこのダンボール箱に直行する形になっていた。


 さて出社した源吾郎は、白衣を脱いで椅子にかぶせると、そのまま雑紙の墓場たるダンボールに直行した。敢えて白衣を脱いだのは、白衣の裾を汚さないためである。

 源吾郎はダンボールの傍らで屈みこんだ。ダンボールの中は満杯ではない。八分目どころかせいぜい七分目と言った所であろう。源吾郎は別に、ダンボールを閉じようと思っていた訳では無い。

 彼が出社してすぐに雑紙入れのダンボールに向かった理由。それは間違って棄ててしまったであろう書類を探すためだった。似たようなファックスが何度も先方から送られていたのだ。修正に修正が重なった事もあり、どれが旧版でどれが最新版なのかごっちゃになってしまったのである。そして源吾郎は、昨日退社した時に気付いたのだ。


「どうしたんすか、島崎先輩」

「何だ、雷園寺君か」


 屈みこむ源吾郎の斜め後ろから声が降りかかる。そこにいたのは雷園寺雪羽だった。不思議そうに尻尾を揺らすこの雷獣少年は、源吾郎と同じく研究センター勤めである。立場上は同僚なのだが……仕事面でもプライベート面でも友情をはぐくんできた間柄である事には変わりはない。


「いやさぁ、昨日俺あてに送られた図面があったんだ。だけど先方が何度も何度も修正版とか何かを送るから、間違って最新版をこの紙ごみの中に入れちゃったかもしれないんだ」

「ああ、そういう事だったんすね」


 源吾郎の手短な説明を聞くや否や、雪羽は納得したように頷いた。それなら俺も手伝いますよ。そう言って彼もダンボールの前に屈み込んだのだ。

 友情という物は、存外さりげない事によって明らかになる物なのかもしれない。白衣が床に付くのも気にしていない雪羽を見つめながら、源吾郎はぼんやりとそう思ったのだった。

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