第9話 ばれてしまった二人の関係

「皐月!古典の辞書貸して。」


廉が教室の扉から顔を出し、私に向かって叫んだ。


私はロッカーから古語辞典を取り出し、廉に差し出した。


「サンキュ」


「これで何回目?ちゃんと自分で持ってきなよ。」


私が呆れ顔でため息をついても、廉は呑気な声でみんなに聞こえるように言った。


「そう言わず、これからもヨロシク。オネエサン。」


教室内では目をハートにした女子達が廉を熱くみつめている。


私が席に座ると、幾人かの女子のクラスメートが私を取り囲んだ。


「皐月。今朝、五代君何食べた?」


「えーっと。目玉焼きとトーストと・・・牛乳かな?」


朝食を食べる習慣のない廉に、なかば強引に朝食を食べさせるようになって早一か月。


今では反抗せずに、自分から朝食の席に座るようになった。


「五代君の今日の下着の色は?」


いつものようにあずみがこんな変態じみた質問を繰り出す。


もちろんお約束のジョークだけれど。


「そういう質問にはノーコメントです。」


「そう言わずに、皐月お義姉さん!」





結局私と廉の関係は、あの体育祭の後にばれてしまった。


いや、私がばらしたというべきか。


廉におんぶされて保健室へ運ばれ、なんとかお腹の痛みも治まり教室へ戻ると、廉のファンの女子達から取り囲まれた。


その先頭にいる野乃子は、私を睨みつけ目に涙を浮かべている。


「皐月!さっきのアレ、どういうこと?」


「五代君と付き合ってるの?」


「クラス委員なのに、校則破っていいわけ?」


「付き合ってない!神に誓って!」


首を横にぶるぶると振る私。


「じゃあ、どうして五代君が皐月を助けたわけ?」


「それはその・・・」


「はっきり言って!!」


「・・・・・・。」


私は観念して、本当のことを皆に打ち明けた。


「あのね。私の父と廉・・・君のお母さんが結婚して・・・だから私と廉君は義姉弟きょうだいになったの。だからけっして付き合ってるとかじゃないの。」


ああ・・・言ってしまった。


これから私はどうなっちゃうんだろう。


そんな私の心配は杞憂だったようで、その事実を知った廉のファンは急激にテンションを下げ、口々に「なーんだ、そういうことか。」「心配して損した。」などと言いながら散らばって行った。


「え?・・・・あれ?」


「そういうことだったんだ。なんで言ってくれなかったの?」


あずみも不服そうな顔で私に尋ねた。


「え・・・。だって廉のファンに嫉妬されるかと思って・・・」


「義姉弟だったら嫉妬されるわけないじゃん。むしろ一番彼女から遠い存在なワケだから。」


「そ、そうだよね。」


・・・そうか。


義姉は彼女になるわけないもんね。


だって家族だもん。


私、なに一人で舞い上がっていたんだろう。


自意識過剰もいいとこだ。


あずみは冗談ぽく軽口を叩いた。


「一緒に住んでる上に廉君と何かあったら、皐月、あんたボコボコにされちゃったりして。」


「そ、それだけは嫌・・・」


「じゃあ五代君とは、義姉以上の距離で近づかない方がいいかも。」


「・・・うん。」


私はあずみの言葉に小さく頷いた。


「でも・・・自分の気持ちには正直でいたほうがいいよ。皐月は周りに気を使い過ぎるからさ。」


そう言うあずみの目が優しくなった。





家に帰り、廉にそのことを告げ謝ると、廉はあっけらかんと言い放った。


「いいよ。むしろそうなるように動いたとこあるし。」


「え?」


「学校で皐月と話せないと、色々面倒だろ?」


「色々って?」


「そりゃ教科書やノート忘れたとき堂々と貸してもらえるし、話したい時に話せるし、めんどくさい女に付きまとわれたら皐月に助けを求められるし。」


「なにそれ!私は廉のマネージャーじゃないんだけど。」


「ま、いいじゃん。」


そんなこんなで、廉とは学校で普通に話せるようになった。


ちょっと複雑だけれど、やっぱり少し優越感。


こんなことなら初めからこうすれば良かった・・・と私はひとりつぶやいた。

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