第2話 前日譚・バタフライ(2)

イーダにとって致命的なミスがあったとしたら

「持っていない」ことと「知らない」ことが

決定的に違うということと、それを見分けるのは

思うより難しいということを認識していなかった

ことだろう。


暗殺部隊も死神も基本仕事結果を直接言いに

来ることはない。秘匿された通信手段にて

簡潔に伝えるのみである。

だが最重要案件についてのみ直接報告に

訪れるのだ。

(来ないことは『失敗』に直結するので。)


「しかしいつもいつも本当に、君の仕事振りは

気持がいい!」


イーダは上機嫌だった。


「どうだい今回の相手は少しは手こずったかい?

あれでも現役の時は相当な手練だったんだぞ。」


「別に。特には。」


キラービーはイーダを見ているが視線は合わない。


「そうかい、いやはや本当に頼もしい!

そういえば最近新しく死神が加わったんだよ。」


「そうですか。」


「君もツリースパイダーも交渉事ができないからね。そこら辺のことが得意な者もいるだろう?」


「……はあ。」


キラービーは相槌も苦手だ。


「しかしまあ分かっていると思うが親しく

するなよ。いつまた今日のような『仕事』を

するかも分からん。情が移りでもしたら厄介だ

最もお前に『情』があったらの話だがな!」


ハァッハッハッハーとイーダは笑った。


「誰とも親しくしませんが、関わるなと言うならば、まずはあなたの息子達を何とかしてもらいたい。あれほど無駄な時間はない。」


「いやあ、あれはなあ、すまないな

大切に扱ってやってるつもりなんだが

お前への嫉妬が収まらないようでな。

アイツらがお前くらい仕事ができればなあ。」


「褒めてやれば収まるのでしょう。

ちゃんと扱ってやれ。」


キラービーは言葉と発言も苦手なので

丁寧を心掛けても時々酷く乱暴になる時もある。


「ちゃんとやってやってるさ。だが最近

愛情飢餓が激しくてね。本当に面倒なんだよ。」


『お前がそう作ったくせに。』


キラービーはそれを言葉には出さず、

頭を下げてさっさとその場去っていった。


「あの子の目は怖いねえ。何にも知らないくせに

何でも知ってるみたいだ。」


ニヤニヤしながらもイーダはそう呟くのだった。

そうしてイーダは自分の部屋に入り、

様々な資料の整理と共に今日の報告を書き込む。


「随分片付きスッキリしたなあ。」


そう満足げに呟くと、


「さてと、たまにはあの子の言うとおり息子共の

相手をしてやるか。」


と部屋を後にし、建物からも出ていった。

その後一つの黒い影が、その部屋に入ったのだった

…………



先に外に出ていたキラービーは総統府を出た先に

ある湖横の公園を歩いていた。


空にはまだ月はない。

目を瞑ると今日の出来事が思い出される。


「そうか、俺の所にも来たか……」


「光の教団との接触を疑われている。」


「してねえよ。ちょい迷ったがやめた。

それでもダメか?」


「抗弁があるなら聞き届ける。

だが証拠が必要となる。」


「悪魔の証明、好きだねえアイツは。

俺も結局ずっと同じことをしてきたわけだから

文句も言えねえけどよ。」


「抗弁を。」


「ねえよ。お前が来たってことは奴は本気で

俺を消す気なんだろ。」


「なぜ教団を始末しなかった?」


「出来ねえよ。行ってみりゃ分かるさ。」


「そうか……」


「使い捨て。使い捨て。使い捨て。玩具。玩具。

玩具。ゴミ。ゴミ。ゴミ。」


「…………………」


「全部、全員一緒なんだ。何をしたって

どこまでしたって結局は同じだ分かっていたことだ。だが……最後の愚痴だ、言わせてくれ……」


「どこで何をしていても『死神』に殺される

ことを恐れなけばならない。ならいっそ自分が

死神になればいいと思い何でもこなしてきたが

結果は変わらなかったな。用済みになれば

全て消される。」


「よく考えれば分かることなのにな、だが俺は

命令とはいえお前の師匠を殺した。だからいずれ

こうなることは分かっていたんだ、お前に

やられるなら仕方ない。」


「…………………」


「だがよ、お前もいずれこうなるんだぜ、

俺たちゃみんな使い捨てさ。」


「そうだな。」


「お前は覚悟が決まっているな……

俺は覚悟が足りなかったのか。」


「生きたいのなら私を殺せばいい。」


「できやしねえよ…………」




「いいんだ。悪足掻きすまなかったな。

スッキリしたよ。いいよ。やってくれ。」




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