限界OLとお人好し女子大生
春内
第1話 酔っ払い
寒い。やっぱり真冬にコートなしで出たのはダメだった。遅刻寸前だったから家に置いてきてしまったのだけど今更後悔する。仕事終わりに同期の男に奢りだからと誘われて飲みすぎたのはいけなかった。危機感薄すぎやしないか私。男はしつこく送っていくと言ってきたり、度数が高いものをすすめてきたりと下心丸見えだったじゃないか。もっと気をつけろ私。自分の能天気さにため息をこぼす。
足がふらついて真っ直ぐ歩くことが出来ずに立ち止まる。壁にもたれかかって座り込む。これはもうダメだ。家に帰れそうにない。だがこんなに寒いなか外で寝てしまえば明日には死体が出来上がっているだろう。お酒を飲みすぎて死ぬなんて馬鹿すぎる。いや、私の死に方にはピッタリだったりするのだろうか。空を見上げても暗闇で覆われて星なんてひとつもない。ただ月が一際輝いているように見えた。
現実逃避も程々にそろそろ本気でやばい。どうしよう。
「えっと、大丈夫ですか?」
「ふぁ……?」
声がした方を向くと小柄な女の子が心配そうにまゆ根を下げて私を見ていた。
「立てますか?」
手を差し伸べられてその手を握ろうと手を伸ばす。でも掴めなかった。すると女の子が私の手をとってくれた。
「うわ、冷た。そんな薄着だからですよ。これ着てください」
そう言って女の子は自分が羽織っているコートを私の肩にかけてくれた。手をもみもみ、にぎにぎされて一瞬何してんだって思ったけど温めてくれている事に気づいて黙ったまま受け入れた。小柄な体型と同じように手も小さい。子供体温のような温かさにほうっと息を吐く。
「よし、ちょっとはマシになったかな。あの、家まで一人で帰れます?」
首を横に振る。私の家はここから一番近い駅の電車を乗って三駅のところにあるのだが、まず駅まで辿りつけそうにない。こんなに酔ったのは久しぶりだ。最近忙しかったからお酒でストレス発散したかったのかもしれない。それにしたって羽目を外しすぎた気がする。後ちょっとでお持ち帰りされるところだったことを思い出し気持ち悪さに眉をしかめる。
「なら私の家来ます?」
「え?」
「ここから近いんですよ。このままじゃ貴方凍死しちゃいそうだしまずは体を温めないと」
「……いいの?」
「いいですよ。さ、早く行きましょ」
そう言うと私の腕が女の子の肩にまわされる。体を支えてもらってやっとの事で立ち上がることが出来た。
「ゆっくりでいいですからタイミングを合わせて歩きましょう。それにしてもお酒の匂いすごいですね。飲みすぎるのは程々にしないと体壊しますよ」
気遣いと心配と呆れの混じった声だった。途中転びそうになったけど女の子が支えてくれて無様に顔面から地面に突撃することはなかった。
***
朝目覚めて見知らぬ人間がスマホをいじりながら食パンを食べていた。私は社会人になってから一人暮らしをしていて家には私一人しかいないはずでだから私以外が家にいるのはおかしいはずで。本能的危機感から勢いよく体を起こして鋭い痛みが頭を走る。あ、だめ、これ二日酔いだ。くそいてぇ…。頭を両手で押さえて耐える。
するとじわじわと昨日の出来事を思い出していく。痛みに耐えながら薄く目を開いて周りを見渡すとここが私の家ではないことがわかった。
「おはようございます。水飲みます?」
「……のみます」
女の子はコップに水を入れてわざわざ持ってきてくれた。その水を一気に飲み干そうとしてむせる。
「ごほっげほっ」
「あーもう、一気に飲むからですよ。少しずつゆっくり飲んでください」
背中をさすられた。不甲斐ない。
「あ、りが、と……」
むせるのを耐えながらお礼を伝えると女の子がふふっと微笑んだ。
「どういたしまして。食パンくらいしかありませんけど食べます?」
「いや、そこまでしてもらわなくても大丈夫!迷惑かけて本当にごめんなさい」
「迷惑だなんて思ってませんよ。私が言い出したことだし。食パン一枚くらい遠慮しなくて良いですよ」
「いや、でも」
「お腹すいてないですか?」
タイミングよくお腹からかなりでかめの空腹を訴える音がした。それには流石に驚いたのか女の子は目を丸くする。私はと言うと恥ずかしすぎて顔から火が出そうだった。両手で顔を覆ってプルプル震えていた。
「ぷっ、あははは!!」
「わ、笑わないでよぉ……」
「だ、だって!タイミング良すぎですよ!ふ、ふふ…っ」
片手で口許を隠して笑いをこらえる女の子は本当に可笑しそうに笑っていて再度鳴った私の腹の虫に笑いをこらえることを諦めていた。
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