第6話:龍との邂逅

 私、お姫様抱っこされてる……!


 彼との顔の距離が近くて、長いまつ毛やその奥にある青い瞳の美しさに緊張する。


「えっとあの……私その重いし、下ろしてもらった方が……」


 あたふたしながらそう告げると青蘭の気品のある形の良い唇が弧を描く。


「大丈夫だ、重くない。もしそう思うならしっかり掴まっていることだ」


「……はい」


 彼は私を横抱きにしたまま、苦も無く階段を登って行った。

 階段を登り切ったところで私は降ろされる。


「ありがとうございました」


「いや、どうということはない。あれが目的の場所らしいな」


 青蘭の言う通り、視線の先には石造りの土台に朱塗りの柱と屋根がついた建物がある。

 祠、というからもっと小さな物を想像していたが、どちらかというとお堂という感じの方が近いように思う。

 兵士たちが持参した供物を祠の中に置いていく。


「では、理央。中に入って祈りを捧げてくれるだろうか?」


「あ、はい……」


 私が祈ったところで何も起きないだろうけどなぁ。そう思いつつ、祠に近づいたそのとき再び地震が起こった。

 兵士たちが空を見て騒ぎ始める。


「あれはなんだ⁉」


 見上げると曇っていた空がさらに暗くなっていて暗雲の中から巨大な黒い龍が現れた。

 龍はのたうち回っているかのように激しく動き、こちらに近づいてくる。


「理央、危ねぇ!」


 目の前で飛翔が槍を龍に突き出したが、龍は物ともせずに彼を弾き飛ばした。


「飛翔!」


「くそっ、大丈夫だ……」


 飛翔はよろけながらも立ち上がる。

 龍はそのまま目の前で動きを止めて、口を開けて金色の瞳で私たちを見下ろしている。


「理央、ここは危ない。逃げろ」


 青蘭が私を庇うように立って剣を構える。

 そのとき、龍から苦しそうな声が聞こえた。


 ――たすけ……て。


「貴方……助けて欲しいの?」


「理央? 誰と話してるんだ?」


 青蘭には聞こえなかったのだろうか。

 私は前に進み出て苦しそうにしている龍に手を差し伸べた。そうしないといけないような気がしたからだ。


 すると目の前の黒い龍から光が溢れ出して、その光は差し伸べた私の手に吸い込まれていく。

 気のせいだろうか、先ほどより龍の顔が穏やかに見える。


「あぁ……ありがとう」


「龍が喋ったのか⁉」


 今度は龍の声が青蘭にも届いたらしい。


「僕は黒曜こくよう。誰かが助けてくれるのをずっと待ってた」


「助けるとはどういうことだ? 其方が災厄の元凶では無いのか?」


「ごめんね……僕の力のせいで大変なことになったのはわかってたんだけど、力が制御できなかったんだ」


 黒曜と名乗った龍は空に浮いたまま、尾を丸めて少し首を垂れた。


「くそ、なんだよ……調子狂うな……」


 飛翔が黒曜に突きつけていた槍を下げた。青蘭も剣を納める。


「黒曜と言ったな。我々は黄金の龍が消えた経緯も何も知らない。詳しく話を聞かせてもらえないだろうか」


「黄金の龍……先代さまのことだね」


 黒曜は穏やかな声で語り始めた。

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