第4話:飛翔と青蘭の強さ
私は息をのんで、隣の翠蓮の顔を見た。
「あの……」
「大丈夫ですよ。ここは彼らに任せておきましょう」
彼はこの状況を好ましくないと思ってはいるようだが、不安に感じている様子ではない。
ひりついた空気の中、しびれをきらした山賊たちが斬りかかってきた。
山賊が振りかざした刃を青蘭が剣で受け流し、飛翔が槍の柄で相手の足を払い体勢を崩した隙に青蘭が相手の剣を弾き飛ばす。
その間にも飛翔は、周囲の山賊に素早く連続で突きを食らわせ、息もつかせぬ動きで周囲を薙ぎ払う。
まるで舞を舞うかのような華麗で息の合った動きだった。
その美しさは現実感がなく、まるで舞台でも見ているかのようだ。
飛翔と青蘭はたった二人で、山賊を制圧してしまった。
「すごい。二人とも強いんですね」
「飛翔は青蘭の武術の師匠なのですよ。青蘭も剣の腕だけなら飛翔に勝るとも劣らないかと思います」
ずいぶん息の合った動きだと思ったけど、師弟関係だからなのか。
飛翔の動きも人並外れていて凄かったけど、そんな彼に苦も無くついていける青蘭もただ者ではない。
「さぁて、こいつらどうすっかねぇ……」
「急所は外してある。止血して捕縛せよ」
青蘭の一言で兵士たちが山賊の両手を縛った上で応急処置をしていく。
兵士の誰かが呼びに行っていたらしく、馬車の側で待機していた兵士たちもやってきて加わった。
祈りを捧げに行くだけと聞いていたのに、その手際の良さはまるで戦闘が起きるのを想定していたかのように見える。
祈りを捧げるだけと聞いていたから危険は無いのかと思っていたけど、そんな簡単な話ではないのかもしれない。
拘束された山賊たちは、翠蓮と兵士たちの半数が都に連れて行くことになった。
私たちは残った兵と共に山頂を目指すことになる。
「ちょうどいい。宰相どのから“翠蓮は麓で待たせておくように”と言われていたからな」
青蘭の言葉に翠蓮は苦笑いした。
「そうでしたか……父上は過保護でいけませんね。私も山ぐらいは登れる程度に鍛えておりますのに」
翠蓮はどこか中性的で線が細い印象なので、親が心配するのもわからなくもない。
「理央さま。山賊たちを刑部に送ったら再び麓までお迎えに上がりますので、また後ほどお目にかかりましょう」
「はい、翠蓮さまもどうかお気をつけて」
翠蓮たちと別れて、私たちは再び山道を進み始めた。
「理央、足は痛くないか?」
青蘭が心配そうに私の足元を見る。確かに今はいている靴は登山向きではないので楽ではない。
「えぇ、今は大丈夫です。でも後で痛くなるかもしれません」
「無理せずゆっくり行くといい。まだ充分、時間はあるからな」
私を気遣ってか青蘭が歩調を合わせてくれる。
「やれやれ。別に無理して付いてこなくったっていいけどな。山賊が出ようが龍が出ようが俺一人で充分だしよ」
先を進んでいた飛翔がつぶやくように言う。
「飛翔、失礼だぞ!」
「そもそも理央が本物の巫女かどうかもわからねぇしな。どうせ宰相が用意した偽者だろうよ」
「飛翔……宰相どのまで愚弄するか⁉」
「まぁ理央が本物だろうが偽者だろうが構わないさ。俺が龍を殺っちまえば無事解決するんだからな」
今、飛翔が龍を殺すと言った。どういうことだろう。
「まだ殺すと決まったわけではない。口を慎め」
「はいはい、わかりましたよっと」
どこまでも飛翔は軽い調子だ。どうやら私に知らされていない事情があるらしい。
「青蘭さま……どういうことなのですか?」
「すまない、理央。後で話そう」
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