なっちゃんサラマンダー

金子ふみよ

第一章

第1話

 なっちゃんさんはサラマンダーである。

 たぶん。


 物静かな夜。人気と言えば僕ら以外にはなかった。同じゼミ生の内山から研究の一環に協力を求められたため、とある神社へ赴いたのだった。

 民俗学を専攻するゼミで、内山は「ライトノベルと古典に登場する神獣や妖怪の比較」をテーマにしているはずだったのだが、何をどう思ったのか「丑の刻参りを調べるから付き合え」と言い出してきた。研究を進めていれば、参考文献やらで思いもかけない発見があり、それを調査が必要になる場合もある。どうやら内山も例にもれずだったようだ。例にもれたとすれば、赴いた時間帯である。夜も更けてきたとはいえ、まだまだ日をまたぐ時間でもない。しかも、住宅街から割かし近くにある神社を選んだ。街はずれや山奥や海浜の神社を夜訪れるのは、

「そんなとこ行って、本当に丑三つ時でなんかあったら怖いだろ」

 という一言に要約され、陽気というかお調子者というか、いつものそんな内山らしくもない、踊るような早口だった。それならわざわざ夜に誘わなくてもいいだろうに。

「雰囲気ってあるだろ。昼なんてそれがないじゃないか」

 それは分からないでもないが。改めて、この夜のお散歩もとい、調査は研究に役立つのだ、という保証がほしい、せめて。

「研究に参考になるかどうかは見てみないと分からないじゃないか」

 合気道の達人でもないのに肩の力をすっかりと抜いている、こんな感じが内山なのだから、期待をする方が野暮というものか。

 鳥居をくぐり、石畳を歩く。猫でも横切れば、お化け屋敷もどき的B級ホラー定番のプチドッキリなんかで息をのむばかりでなく、心拍数が夜のジョギングよりも可及的速やかにうなぎのぼりするのは間違いのないことだが、その予兆すらない。なぜなら不穏な空気どころか生ぬるい風さえない。真夏はクリスマスイブみたいに前倒しはしない。

ところがである。手水舎の前まで来た時だ。

「なんか、肌寒くね?」

 内山が挙動不審にキョロキョロしながら、自分の腕を擦り始めた。内山が言ったほど寒くはない。ただやけにひんやりとしている感じが、いかにも唐突だった。六月、それは少し不思議と言えばそうだ。境内に巨大除湿器はないだろう、その稼働している音もないし。とはいえ、今回の主役、というか主動は内山なのだから、さっさと調査を手順通り滞りなく執り行ってもらいたい。そうすれば、とっとと帰れるわけだ。それなのに。御神木や境内の木々やその周辺で丑の刻参りの証拠があるかどうかを探すはずだが、内山を見れば先ほどまでの挙動不審を通り越して不動になってしまっている。瞬きさえもしていない呆然とした、その一点になっている視線の先を追ってみると。

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