荷物の整理はもう少し考えてやるべきですわ
わたくしはドゥナルさんを抱え込むようにして、倉庫の扉へ。
蹴り開けるとそのまま中に転がり込みました。
「諦めねぇだぁ?」
ハッ、と吐き捨てるように大男の声が聞こえます。
「そういうのはなぁ、悪あがきって言うんだぜぇ!」
倉庫の扉を後ろ足で閉めて、さらに奥へ。
……足で扉を閉めるなんて、お母様に見られたらお説教間違いなしですわね。
そして棹で扉を抑えて、開かないように固定。
とは言っても木の薄い扉、破られるのは時間の問題でしょう。
そのまま、倉庫の一番奥へ。
ドゥナルさんは脇腹を抑えながら歩いていき、一番奥の壁にもたれるようにしゃがみこみました。
「痛みますか?」
苦しそうに呻くドゥナルさんに、そっと声を掛けます。
掠っただけ、というわりには血の量が多い気が。
しかし、手当をしようにも、当て布にできそうなものもないし、縛れるようなヒモもありません。
しかも左腕は力を入れるだけで激痛が走ります。
「そっちのほうが、痛そう」
ドゥナルさんが苦しそうに言いました。
確かに、自分の怪我のことを忘れてましたわ。
といっても、こっちも手当できないのは同じですけれど。
ドンドン!と大きな音が続けて聞こえました。
破ろうとしているのか、何人かで扉を蹴っているようです。
「こんなところによぉ」
バキン!と音がして、木の扉はあっけなく破られ。
扉を開かなくするために使っていた棹も、曲刀で叩き割られました。
「逃げ込んだのはいいが、こっからどうするつもりだったんだ?え?」
バキバキと扉を割りながら、大男が顔を突っ込んできました。
わたくしはドゥナルさんをかばうように、一番奥の壁際まで下がりました。
「諦めないだぁ?
カッコつけやがって、結局逃げて追い詰められただけじゃねぇか。
これが悪あがきでなけりゃなんだってんだ?あぁ?」
狭い倉庫の中。
左右には山積みの木箱。扉から、わたくしたちのいる一番奥までほんの10歩もありません。
大男はゆっくりと歩いてきます。
「これで終わりだ。手こずらせやがって。
ったくよぉ、追加料金貰わねぇと割に合わねぇぜ!」
「あなたは」
わたくしは、大男をにらみながら言いました。
「どうしてワーリャ家を狙うんですの?お父様になにか恨みでもあるんですの?」
「あぁ?」
大男はバカにするように鼻で笑うと、銃をこちらに向けたまま立ち止まりました。
「俺ぁ恨みで仕事はしねぇ。仕事だっつったろ?
商業国家群からのご指名でな。ワーリャ家の当主もその娘も、見つけ次第殺してくれとよ。
てめぇらのほうが恨み買ってんじゃねぇのか?」
「商業国家群……ですって?」
どうして?
確かにワーリャ家は商業国家群のせいで没落したとは聞いています。お父様が、それを取り戻すために走り回っていたのも知っています。
もしかして、そのせいでお父様が、ワーリャ家が邪魔になった、ということなの?
「家族が買った恨みで殺されるなんて納得いかねぇってか?
可哀そうだが世の中なんてのはそういうもんだ。てめぇはそういうめぐり合わせなんだよ。
諦めな」
「家族……?」
「ああそうだ。家族のせいで死ぬんだ。文句はあの世で言っとけ」
家族のせい……?
だから仕方ないってこと?
確かに、お父様はだいぶすっとぼけた人ですが。
お母様からは出来が悪い娘だと呆れられていましたし、
お姉様も自分の身代わりにわたくしを海賊の嫁に差し出しましたが。
────それでも、わたくしの大切な人たちですわ。
それに。
「あいにくと、わたくしは嫁入りしたあとでしてよ?」
「あ?」
大男が、眉をピクッと動かしました。
「つまり、今のわたくしにとって、家族はドゥナルさんですわ。
そして────」
全力で、左足で踏み込み。
後ろ手に隠し持っていた曲刀を、わたくしは全力で投げつけました。
バッと後ろに飛びのく大男。
「あぁ?まだやる気かてめぇ!」
「────いいえ」
曲刀は、大男の左斜め上めがけて飛んでいきました。
そして────。
「これで終わりですわ」
バキッ!と鈍い音。
飛んで行った曲刀は、床と天井につっかえるようにして荷物を支えていた棒をへし折っていきました。
「『逃げて追い詰められた』────のでは、ありませんわ。
ここにおびき寄せた、が正解ですわ」
「あ?なにを言って────」
ギシッ、という音とともに、天井近くまで積み上げられた木箱が大きく揺れました。
つっかえ棒で無理やり支えられていた荷物は、あっという間にバランスを崩したのです。
そして────。
「ぅわあぁぁぁっ!」
轟音と、埃と、悲鳴を倉庫の中にまき散らしながら、木箱の山は大男のの上に崩れ落ちました。
……って、埃すごいですわ。
まともに掃除されていない倉庫中の埃が、衝撃と風で舞い上がってしまったようです。
文字通り山積みになった木箱の下から、大男のうめき声が聞こえます。
見下ろすと、木箱の隙間から腕だけが。
わたくしは、その手に握られた銃をパッと奪い取りました。
ずいぶんと重たい銃。
弾を込める部分に太い筒を束ねたものがはめ込まれています。
これがくるくる回ることで連射ができるようになっているみたいですわ。
「荷物の整理は、もう少し考えてやるべきですわね」
「て……っめぇ……っ」
腕がもぞもぞと動きますが、木箱はびくともしません。
「なんだこりゃ?!」
「親分?!」
外から、大男の手下たちが飛び込んでくるのが見えました。
わたくしは手に持った銃をそちらに向けました。
引き金を、力を込めて引きます。
シュッ、という音とともに、火打石が当り金に当たって火花を散らしながら火皿へ。
そして。
パン!という破裂音と共に、弾丸が発射されました。
弾丸はちょうど、倉庫に飛び込んできた手下たちの間を抜けて、外に。
────手下たちは悲鳴をあげて、しゃがみました。
そしてちょうどその時、裏庭に走りこんでくる人影が2つ、見えました。
「お頭!お嬢!」
「無事ッスか?!今助けるッス!」
カリカとスプの声ですわ。
わたくしはホッとして、銃をおろしました。
それに気づいた手下たちは、戸惑いながら二人に向き直りました。
しかし、明らかに動揺しています。
「あなたがたの親分さんは、倒しました」
わたくしが言うと、手下たちはお互いに顔を見合わせました。
「……まだ、戦いますか?」
困惑した顔のまま、手下たちは二言三言交わしました。
そして────。
カリカとスプが走ってくるのを見て、一目散に逃げ出しました。
「追わなくていいよ」
追いかけようとするカリカとスプに、ドゥナルさんが声を掛けました。
「戦いは、終わりだ」
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