第10話 パッションピンク・トランクス
俺のために争わないでくれ!
「天国だ! あとは、利美が元の姿に戻ってくれさえすれば……!」
やべ。心の声が逆になったせいで、三人からえげつない目で見られてしまった。特に利美は、異臭をかいだかのような顔になっている。お兄ちゃんは利美が退院できることを祈っているというのに。もちろん十四の姿で。
俺を元気づけるようにハゲが肩を叩く。触んな、野郎に慰められたら余計に惨めだ。
運の悪いことに、幸せな時間は戻ってこなかった。ドアからショタ警官が顔を出す。
「まぁーだ寄り道しとったんか? 地域課がいっちょまえにパトロールすんな。地域のおじいさんおばあさんの相談も、大事な仕事だろうが。さっさと自分の配置に戻らんかい」
仔猫のように首根っこを掴まれたハゲは、必死で抵抗していた。
「嫌や。やっと刑事ドラマっぽくなっとるとこなんや! これを逃したら、俺はまた主人公に遠ざかってまう! 姐さん、堪忍してつかぁさい」
その風貌で主演のオファーは来ないだろ。叶うとしたら、ゴスロリ刑事の映画化だ。
「究極で完璧な危ないお嬢様刑事、参上いたしましたわ!」なんて凛々しく銃を構えるポスターが、ありありと目に浮かぶ。レースとリボンをふんだんにあしらったドレスは、何度でもくるくる回っていてほしいものだ。
ショタ警官はゴスロリ刑事を冷ややかな目で見つめる。
「神谷。また公安とかテロだのほざいて、一般市民を巻き込んでいるんじゃないだろうな。きみの職務は交通安全を徹底させることで、公安ごっこをして遊ぶことは含まれていない。その服も私服として着るべきだ」
いやいや、そんなもったいないことを言うんじゃない。小さな体を飾り立てるフリルが多ければ多いほど、目の保養になるんだ。私服も制服も、ゴスロリを着ていてほしい。マジで金髪碧眼には黒が映えるぜ。待てよ。黒が似合うということは、チャイナ服もメイド服も似合うのではなかろうか。脳内でゴスロリ刑事に試着させると、歓喜の声を上げそうになる。やはり俺の目に狂いはなかったようだな。
ゴスロリ刑事は髪の毛をもてあそぶ。
「だって……あなたは肉体操作の能力を使うと、可愛い男の子になるのでなくて? だから私もゴスロリを着たら、あなたにす……すっ、すぅー!」
赤い頬をさらに真っ赤にしながら、ゴスロリ刑事は手をばたばた動かした。
なんだこの可愛い生き物は。ぜひとも我がコレクションに加えさせてくれ。
「またいつもの発作か? せっかくだからこの病院に受診させてもらうといい」
「きになってもらえると……って、誰が病気ですの? 勝手に重症患者にしないでくださいませ!」
ぷくりと膨らんだ顔を背けたゴスロリ刑事に、ハゲが首をひねっていた。
「明様も姐さんも、普通に美男美女カップルなんやけどなー。一体どこをどうねじれたら、すれ違いラブになるんやろ」
美男美女。その言葉を聞いても疑問に感じなかった。姐さん呼びなのにショタ、明様が新しいロリだと思っていた。窓から吹き起こる風が、明様のスカートをたくしあげるまでは。
ユニコーンかハート模様のパンツという予想は外れ、パッションピンクのトランクスがあらわになる。目がぁー! 目が穢れたー!
「女装男子は明様で、姐さんはほんとに女性ってことか?」
「せや。肉体強化を解かんと信じられへんかもな」
最悪だ。今日の俺の幼女センサーは、全く役に立ってくれない。
俺が絶望でわなないていると、姐さんがしのぶに近づいていた。
「しのぶ。あることないこと言われても冷静さを保てていたわね。最後に会ったときから、随分と成長したようね」
「ありがたきお言葉」
しのぶにクソデカ銃を下ろさせた姐さん、実はすごい人物なのか?
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