PoorColor Monster (プアカラー モンスター)

たってぃ/増森海晶

第1話

 NIJIiニジィというアプリをご存知だろうか。

【イイネ】ボタンの拡張ツールで、インストールすると【イイネ】ボタンを押してくれた人の感情や、自分が押した【イイネ】ボタンが感情に対応した色となって反映されるアプリなのだ。


 ためしにNIJIiニジィをインストールして、ハートの【イイネ】ボタンを押してみる。

 指先に軽い静電気のようなしびれが走り、ピンクのハートに変わるこのボタンが、鮮やかな黄色になったのが確認できただろう。


 黄色は軽いあいさつ程度の感情を表している。

 青は無関心と悲しみ。赤は怒りと苦しみ。緑は興味と喜び。と

【イイネ】ボタンを押した人間の感情が色となって視覚的に分かるようになる。

 


 虹のように色が澄んでいてカラフルな【イイネ】ボタンのタイムラインは、【イイネ】をしてくれた人々が、その人に対し優しく清い感情を持っている証拠。

 嫉妬や悪意といった黒い感情は、そのまま汚い色となって表示され排除される運命にある。


「ねぇ、ね。今回のアップデートで新しい色が追加されたらしいよ」

「へー。オレンジかぁ、嬉しい感情が強いと出るみたいだね」

「ちょっと、試してみて良い? このツイートで」

「うん、いいよ~。だけど、変な感情を混ぜないでね。せっかく、ビビットカラーに統一できたんだから」


 キャッ、キャッと無邪気に【イイネ】ボタンを押しあう女子高生たち。

 自分の気に入らない感情を排除して、自分に向けられる心地の良い色だけで統合される時系列。

 だって問題ない。傷つくのが嫌だから。傷つけるヤツが悪いのだから。


「あ、ちょっと黄色がかったオレンジになったよ~」

 オレンジ色の【イイネ】をみせて、女子高生は得意げにニカっと笑い、もう一人の女子高生もきれいなオレンジにかわった【イイネ】ボタンにご満悦。


 お互いがお互いの感情をさらし合い、共有し、同調する心地よさ。

 彼女たちはNIJIiニジィを使いこなし、アップデートに対して敏感に反応し、NIJIiニジィに依存することでカラフルでグロテスクな世界を広げていく。


 色彩豊かな自分の庭。分かりやすいステータス。視覚化され共有されるフィーリング。 


 製作者不明のNIJIiニジィはネットの海を彷徨い、様々な人々の手によって改良アップデートされて、様々な機能を搭載して進化しつづける。

 今ではNIJIiニジィに非対応のサイトなんて存在しない。

 

 最初は4パターンあった色が今では100以上のカラーバリエーションにアップデートを重ね、さらに集計ツールと併用することで、【イイネ】をくれたユーザーたちの色の傾向を確認することが出来き、美しく質の良い【イイネ】を求めて人々は熱狂する。

 

「レアカラーがなかなか出ないんだよねー」

「クレオパトラホワイトのことでしょ。そんなのガセにきまっているわよ」

「けど、出たらすごくない? イイネがいっぱいもらえるよ」


 誰も疑問に思わない。誰もなにも考えない。


 ほんとうに自分の感情が反映されているのか。

 感情を読み取る技術はどこから来ているのか。

 このNIJIiニジィの製作者はなにを考えていたのか。

 なにを目的としたのか。



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