【六】
「とても面白い、貴重な経験が出来たと陛下の
堰を切ったように話し出したルカに、国王たちはぎょっとした。
理知的な表情が崩れて、熱っぽくしゃべる顔はどこか病的でもあった。
「ユリウスは単純で、アルマはうざくて、エベルはオタクで、レアはバカで、マタイはハゲで、ヨシュアは根暗で、不本意ですが勇者を含めてアレでした。遊び人じゃないと、うまく思考を誘導できない程気難しい連中で、本当に本当に、手がかかる人たちで、私がいないと本当にだめで……」
「お、おい……」
次第に調子はずれに仲間たちを語るルカに、制止の声が上がる。
「ヨシュアはね。内職の花を作るのが好きなんですよ。ちまちまちまちま作って、自分の育った孤児院の院長にお金と一緒に渡してたんです。エベルはおばあちゃんっ子をこじらせて熟女好きでした。男どもの好きな女の部位で盛り上がっているときに、
愚痴なのか悪口なのか分からないが、ルカの言葉の
彼らが忘れる、ルカだけが知っている思い出。
「アルマは幸せな結婚に憧れていました。ですけど、修道院から一度も出たことが無くて……。あぁ、だけど、バザーで近くの街に行くことはあったみたいですね。キスして子供が授かると本気で信じていたんです。笑っちゃいますよ。そこら辺の子供の方がモノを知っていて、5歳の子供と結婚感でガチの口喧嘩をしたとき、私はどうしたものかと途方にくれました」
次第に鼻の奥が熱くなり、緑の瞳に涙がたまり零れていく。
「レアはあーとか、うーとか言えないから。会話が成立しなくてジェスチャーを交えてました。契約の代償みたいですが、契約が解除されても言葉が話せなかったです。もしかしたら精神的なものがあるのかもしれません。ぎゅっと抱きしめてあげると安心して、よくだっこをせがんでました。可愛かったですよ。困った癖はビンのフタを集める事でしたね。戦闘中でも、そこにフタがあれば、剣をしまってフタを拾おうとするんです。その時は戦の神ババルナの契約はどうなってんだって、神の全能さに疑問を持ちました」
あぁ、もう何を言っているのかわからない。
ルカは思いのままに口を動かす
「マタイは歌声がすんごい美声だったんですよ。よく通る声で、格闘家が駄目になったらオペラ歌手に転向したらいいんじゃないって話したら、次の日にはこそこそと発声の練習をしていました。なんのかんので、格闘をやり続けるのが不安だったんですかねー。酔っぱらったときに、ピアノを優雅にひきながら【黒鳥の憂鬱】を披露したのは吃驚しました。知ってますか、黒鳥の憂鬱。プロのオペラ歌手でも難しいと言われている歌ですよ。歌につられて、レアがあーとかうーって吠えだして」
彼らは手放した。
笑いあえる未来を信じて。
「ユリウスって、たまに私のことをお母さんって呼ぶんです。そして、気づいてものすごく、気まずそうな顔をして、私は勇者としての面子を保たせるために、気づかないふりをするのがせいぜいでした。長旅で行き倒れていたところ助けたことで、懐かれていたのは承知していたんだけど、べつに嫌な気はしなかったですね。なんだか、気恥ずかしいような温かいものがお互いに繋がっているような、良い響きですよね「お母さん」って。ユリウスのお母さんって、買い物帰りの途中でクマに襲われて、赤ちゃんのユリウスを庇いながらクマに食われていったらしいんですよね。だから、妙に母性神話を信じていて、父親の件も踏まえて家族観が甘々で、つい私も憧れてしまったんですよ。欲しかったな幸せな家庭、家族、同胞であるエルフ族はすでに絶滅してしまったしね。もともと研究一筋で帰る場所なんてなかったし」
あぁ、だから。
辛いこともあったけど、楽しい旅だった。
混血エルフとしての長い人生のうち、とても短い期間だったのに、私の中で宝物のようにピカピカに輝いている。
「つまるところ、私は彼らが大嫌いで大好きでした」
私は今、とても寂しい。
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