龍の繰り人〜龍神に喰われるくらいなら伝説になってやりましょう!〜
一花カナウ・ただふみ
龍神サマに喰われてなるかっ!
1:私、生け贄にされてます?
「君は何故、文化調査員を志しているんだい?」
――それは、龍神様に訊ねたいことがあるからです。
「ほう。君は国や民のためではなく、個人的な理由で文化調査員を目指すと? 文化調査員という存在が、どれだけこの国家にとって大事なものなのか理解しているのかね?」
――この国の行く末を知るために多くの文化調査員たちが各地の龍の祭りを訪ね、龍神たちの状態を確認しているのは存じているつもりです。そして、その龍神たちを束ねる存在『龍の繰り人』を捜し求めていることも。
「ふむ。では、君が龍神に訊ねたいこととは何だね? それは、文化調査員でなければならないことなのか?」
――はい。私が龍神様に訊ねたいこととは……
******
意識がはっきりとしてくる。どうやら文化調査員の最終面接でのやり取りを夢で見ていたようだ。
頭が痛い……
ひんやりとした硬いものの上で横になっているらしい。そして手足の自由が奪われ、身動きが取りにくくなっている。どうしてそんな状態で寝転がっているのか思い出せない。
「んぐぁ……」
声を出そうとして、口をふさがれているのに気がつく。猿轡を噛まされた状態だ。
む……喋れない……
しかもご丁寧なことに目隠しまでつけられていて、ここが一体どこで、まわりがどんな状態なのかわからない。風はないがとにかく寒くて暗い。手首は丁寧に背中側で縛られているし、足首もちゃんと縄か何かで縛られている。
このくらい術さえ唱えられれば、得意の火炎で焼き切れるのにっ!
私が脱出を試みてもがく様は、青虫などがのたうち回っているかのような絵になっているだろう。実に情けない姿だ。
って、のんきに転がっている場合じゃないわ。
だんだんと思い出してきた。私がこの状況に放り込まれる前のことを。
さてはあの村長、騙したわねっ! よりにもよって国家の役人たる私を生け贄にしてくれるとはーっ!
「はぐがぐぅあっ!」
怒りがこみ上げて思わず自由にならない口で叫んでしまったが、まずは冷静になろう。どうにかしてこの状況を脱しなければならない。なぜなら、この場所は龍神に生け贄を捧げるための祭壇である可能性が高く、今夜か明日にはその龍神が現れて生け贄をぱくりと食べることになっているからだ。
ふふ……このくらい知らないでどうして文化調査員を名乗れるのよ、アンズ。
私は龍神が生け贄を食べるという祭りの視察のため、国から派遣された文化調査員である。この程度のことを知らない阿呆ではない。
だが、この有様だ。
くうっ……完全に舐められているわ。ひどいっ、屈辱よっ……でもめげていられないわね。初単独任務失敗の上に殉職だなんて真っ平御免なんだからっ! なんのためにこの仕事に就いたって言うのよ、まったく!
とはいえこの間抜けな状況に進展はない。
まずは周囲の確認が先よね。
床に頬をこすりつけて目隠しの位置をずらすことにはなんとか成功。頬が少々ひりひりするが大したことない。このくらい慣れっこだ。
ついでに運良くこの辺も外れてくれたら良いんだけど……
ごそごそと動いてみるが、どうにもうまくいかない。猿轡はびくともせず。手首や足首を接している床にこすりつけてみたが、固く縛っている縄の方も変化はみられなかった。
私は首を伸ばし、暗い室内に目を向ける。
……あまり広い部屋ではなさそうね。
埃っぽい匂い。土臭さもする。木が腐ったような独特の香りもして、あんまり気分はよくない。外からの明かりはほとんどない。暗い中にずっといたおかげで何とか物を把握できている。目立つようなものは何もなく、置かれているものも特にない狭い部屋だ。
部屋のほぼ中央に放置されたらしく、私の周囲には何もない。どこかに引っ掛けて縄を切ることも考えていたのだが、残念ながらそう都合よく話が進みそうにはなかった。
「んががっ! がふがへっ!」
誰か助けて、そう叫んだつもり。だけどもやはりまともな台詞にならない。
くぅ……この感じだと外に人はいないっぽいわね。
気配はないし、物音もしない。外に見張りもいないとみた。
ほんと、これ、冗談じゃないんだけど……
冷や汗が流れてくる。
村長に接待を受けたのは覚えている。確か遅めの昼食だか早目の夕食だかに分類されそうな中途半端な時間帯。文化調査委員会で発行してもらった調査票を村長に渡したら、わざわざ遠くから訪ねてきたのだからとすぐにもてなしてくれたわけだ。
で、歓待を受けている間に私は気を失っている。食事に薬でも混ぜられていたか、あるいは知らぬ間に術に掛けられていたか――どちらにしても厄介だし、村長が関係していることは間違いない。
こんなことなら歓迎会なんて断ればよかった……
浮かれていたのは事実だ。難関である文化調査員試験を突破し、つらい研修を終えたのがついこの前の話。今日のこれが単独で行う初めての任務だったのだから、舞い上がってしまうのも止むを得ないと思うのだけど。
うぅ……そろそろ限界……
身体をよじって何とか転がり、出入り口らしい扉の近くまで移動したのだが、それ以上はどうしようもない。気合を入れて体当たりをしてみたが、扉はかすかに軋む音を立てただけで開くような雰囲気ではなかった。どうも外側にかんぬきが使われているようだ。
うぅっ……せめて声さえ出せれば、術でぶち抜くこともできたでしょうに……
こうも今までの勉強の成果が使えないのは悔しい。
「はぐぅ……」
こんなところで、私の若く美しい人生が終わるとは……
そんなふうに落胆していたときだった。
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