Sweep!──青春って何?──

架空 心理

第1話 退屈、退屈。

 十一時七分、三限の途中だ。


「えー、この描写は後の主人公に起こる悲劇を暗示していて……」


 現国の中村先生が黒板にかつかつと音を立てて文字を書いていく中、僕は大きな欠伸をこぼしていた。なるべくサイレントに。


 現国ってなんのためにあるのかなって思う。答えは文中に書いてあるし、心情がどうこうとか作者の考えがどうこうとか、そういうのは話の流れで簡単に分かるし。


 だいたい、これをしたところで効率よく計算ができるようになるとかでもないのに。漢字とか言い回しとか、そう言うのは分かるけど──


(退屈だなぁ……)


 僕の席は教卓から見て一番奥、廊下側の端っこにある。外の景色も見れないし、本当に面白くない。


(たまには、いいかな)


 なんとなく、ただの思いつきで。僕はなるべく怠そうに右手を挙げた。


「──すみません、先生」

「ん……おお、どうした相坂。なんか質問でもあるのか?」

「いえ、あの……少し。気分が悪くて。保健室に行ってもいいですか?」


 声には少し息を滲ませて、手は少し半開きのまま。いかにもな演技だけど、やるだけやってみた。わざとらしいかな、とは思ったけど。


 すると、中村先生はチョークも教科書も置いて、僕の席の方へ近付いてくる。そのまま肩を掴むと、予想外の言葉が飛び出してきた。


「なんだ、体調が悪いのか!?珍しいな。ふむ……保健委員、相坂を保健室に連れてってやってくれ」


 上手く行くとは思ってなかった。中村先生、ちょっと素直すぎると思いますよ。


「──どうした?保健委員はいないのか?」


 静まり返る教室、一人の女子生徒が先生に声をかけた。


「いませんよ、保健委員は──あの、井口さんですから」


 それを聞くなり、中村先生はため息を吐いて「井口……あいつか……」と呆れたように呟いた。


 井口さん。彼女にはよくない噂が流れている。他校の彼女持ちの男子を引っかけて一波乱あったとか、裏で危ない人と繋がってるとか。


 とはいえ、根も歯もない噂だけど。


 確か、入学式以降殆ど授業に出てない女の子だったと思う。中間テストの時はいたけど、単位とか大丈夫なのかな。だいぶ押してると思うけど。


「しょうがないか……相坂、一人で行けるか?」

「──えっ?ああはい。大丈夫、です」

「やっぱり調子が良くないみたいだな……気をつけて行けよ。何かあればすぐ近くのクラスに駆け込むなりするんだぞ!」


 単純に考え事をしていただけなんだけど。先生、ちょろすぎると思いますよ。


「すみません、失礼します……」

「おう、気をつけてな!」



 何だかやけに手厚く送り出してもらったけど、この後はどうしようかな。


 仮病で授業を抜け出すなんて初めてだったし、正直保健室に行ったところですることはない。ちょっと休んですぐ帰らなきゃいけないんだろうし──


 だったら、ちょっと冒険するか。


 三限半ば、僕は授業を抜け出して校舎裏に向かっていた。少しだけドキドキとする気持ちを抑えて、誰にも見つからないように駆け足で。


 なるべく人目につかないよう階段も普段は使われない東館の階段を使って、誰にもバレずに靴箱に到着する。


 体育館の横を曲がれば校舎裏だ。静かにスニーカーを取り出して履き替えると、そのまま外に出て素早くその場所に向かう。


 いよいよ着くぞという時に、最後にチラッと角から顔を覗かせて、見回りの先生とかがいないかを確認しようとした。


 その時だ。彼女に出会ったのは。


「──井口さん?」


 

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