少し前に別れた元カノと再会したが、清楚ギャルになっていた話。

エパンテリアス

プロローグ

 この俺、成沢雅樹には中学生時代に付き合っていた彼女が居た。


 派手さは無く大人しめな性格ではあるが、自分には不釣り合いだと思うくらいには可愛らしい子だった。

 たまたま学校のクラスと塾が一緒ということもあって話す機会が多く、会話を重ねるうちに気が合うことに気が付いた。


 それは相手側も感じていたことであったようで、自然な流れで交際が始まった。


 そして、中学二年生の夏休み明けくらいから交際がスタートした。


 その時期で付き合うことはなかなかに老成ませており、周りのカップルは年に合わない過激なことをしていた。

 その一方で、自分たちは年相応の付き合い方だった。


 二人っきりで会話をしたり、手を繋いだりちょっとデートしたり。

 何なら、二人で協力し合って勉強したりしていたのだから、理想的な関係性とまで言ってもいいぐらいだったかもしれない。


 それでも、この瞬間が訪れてしまった。



「俺たち、別れよう」



 高校受験を直前に控え、追い込みがかかりつつある中学三年生の一月半ば。


 突如として、その自分の切り出した言葉で終わりを迎えた。


「……うん」


 その時、彼女側は涙を必死に堪えながら辛うじて聞き取れる声とともに、頷いてその提案を受け入れた。


 どうして別れるに至ったのか。


 その理由を思い返すたびに、痛感する。


 あまりにも自分勝手で、幼稚すぎる終わらせ方だったと。


 それでも、その時の自分にとっては『最大限相手に寄り添って、考え抜いた上で出した結論』だった。


 そのため、別に相手のことが嫌になったわけでも、どちらかが浮気などをして最悪の状態を迎えたわけでもなかった。

 むしろ、少なくともどちらも『好き』という状態を維持していたことは、間違った認識ではなかったと思う。


 だが、その『結論』がいかにも幼稚であり、身勝手なものだと今になっては思うのだが。



 受験が終わり、心理的余裕が生まれる頃になって初めて自分のしたことに対する浅はかさに気が付いて、激しく後悔をした。


 でも、今更『寄りを戻したい』なんて言えるはずもない。


 あまりにも自分勝手に振っておいて、すぐにそんなことを言えるほど自分のメンタルは強靭でも無ければ、純粋さがあって腐ってなどいなかったから。



 ※※※


 四月の上旬。


 入学の日を迎え、配属されたクラスの教室に入った雅樹はグルっと周囲を見渡してから、ため息をついた。


「知り合い、全然居ないんだが……」


 高校ともなれば、少なからず同じ中学出身の人が何人か居そうなものだが、残念ながら現時点では一人も確認出来ていない。


 既に周りでは、同じ中学出身同士でグループを作っており、会話を弾ませている。


 既にアウェー感が満載だが、孤立しないためにも早いうちに周りへ声かけをしていくしかなさそうだ。


 そんなことを思っていると、にわかに周りの生徒たちがある方向を見てざわつき始めた。


「あ、あの子誰!? めっちゃ可愛いけど……!」

「いや、あんな子見てたら絶対に名前知ってるって!」


 そんな周りのざわつきと共に、教室に入ってきたのは明るい茶髪を伸ばした一人の女子。

 チラッと横顔しか見えなかったが、確かに美人である雰囲気が漂っている。

 だがそれよりも、雅樹にとって気になるところは別の部分にあった。


「あいつのカバンと一緒なんだが……?」


 ハッキリと顔が見えない分、背負っているリュックが鮮明に見えたのだが、それが少し前まで付き合っていた子と全く同じであるところだ。


 リュック自体、被ることは稀にあると思う。

 しかし、付けているストラップやらが記憶の限り、自分がかつて付き合っていた彼女と全く同じであるようにしか見えない。


 そのため、彼女の容姿よりもリュックにくぎ付けになるという、一人だけ着眼点が違う図になっている。


「って、無意識に引きずってるな……」


 自分が一方的に振った相手なのに、未だにそのことを後悔して暇さえあればこうして思い出してしまう。


 未練タラタラという言葉があるが、それはフラれた人間が使うのは分かる。

 しかし、振った人間が使うなどおかしいにもほどがある。


 事実だけを聞いたうえで、客観的に他人が評価すれば「絶対に今後関わらない方が良い地雷メンヘラ男」というレッテル張って終わりそうだ。


「女ならともかく、男のメンヘラとか救いが無さ過ぎる……」


 入学初日、新たな教室で早速一人で萎え始めるという最悪のスタートを切ったが、それに気が付かれるほどの交友関係も無し。


 少しすると、このクラスの担任教師が入ってきて生徒たちに席に着くように促してくる。


「皆さん来てますかね? これから一年間、よろしくお願いします」


 その教師の言葉に、特に言葉を発することもなくそれぞれが軽い会釈で反応する。


「では、まず一人ずつ点呼を取っていきますね。呼ばれたら、返事をお願いします」


 五十音順に、名前が一人ずつ呼ばれていく。


 席順も最初は五十音順の出席番号順に並べられているため、どの位置の人が呼ばれている窯で確認出来る。


 先ほど確認した時に顔を知っている人が一人も居なかったように、やはり知らない名前しか呼ばれることが無い。


 そして先ほど注目を集めた女子の名前が呼ばれる。


「白木真衣さん」

「はい」

「!?」


 その名前を聞いて、思わず軽く飛び上がってしまった。

 何故なら、名前がかつて付き合っていた彼女と全く同じ名前だったからだ。


 そんなに派手に飛び上がったわけではないので、目立ったわけではないが近くの席に人には不審そうな顔をされてしまった。


(ど、どういうことだ……?)


 別れを切り出してから、連絡を取っていないためどの高校を受験して結果がどうなったのかすらも分かっていない。


 しかし、リュックが同じ名前が同じということは、本人であることに違いはないはず。


(でも、あいつはあんな見た目じゃない……)


 どちらかというと、かなり大人しくて落ち着いた黒髪の女子。

 良く言えば清楚であり、敢えて悪く言うなら地味な感じという感想を抱く人も居るだろうという見た目だった。


 なのに、あんなどちらかと言うと明るい髪色も相まってギャルに近い見た目をしていることが、未だに他人なのではないかという考えになってしまう。


 これは一体どういうことなのか。そして、彼女はかつて自分と付き合っていた子なのか。


 仮にそうだと分かったとして、自分はどんな面を下げて接するのか。

 違ったとしても、何か虚無感のようなものに襲われそうな予感がする。


 どちらにしても自分にとって気まずい雰囲気にしかならなさそうと感じる雅樹は、今の時点で彼女のことを確かめる勇気は全くと言って良いほど無かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る