神隠し
グカルチ
第1話
都市部でサラリーマンをするAさんは、かなり田舎の寒村で生まれ育った。その頃の話。
Aさんは同年代の子供もごくわずかで、その子供も、ある日二人“神隠し”にあっていなくなってしまったので、同年代は二人しかいなかった。
近所にはぼけた老人がいた。暴行されたり、いじめられたりする。だがAさんは彼にいつも優しくしていた。彼が危うい目にあうたび、村長や彼の娘が止めに入るのを目にしていた。
村長は彼に親しくしていた。ずいぶん親身にもしていたのだ。それが、今は亡くなったが村長の娘が彼と結婚した事せいだとずっと思っていた。
だがある祭りのとき、突然村長に声をかけられ、あの爺さんによくしてくれてありがとうといわれ、もしかしたら、何か深い事情があるのかもしれないと悟り、ふと尋ねてみることにした。
「ああ、そのことだがな、お前にもそろそろ話しておこう」
件のおじいさんは昔から、村長の娘さんと仲が良かったそうだ。何をするにも一緒で、小さな頃から将来を誓い合った。大人たちも、それをほほえましくみていたそうだ。
今はすたれた風習だが、毎年祭りの時期になると、おとなたちは、くじによって子供を選出して、祭りの主役“カクレ様”を演じさせる。その年選ばれたのは、村長の娘だった。村長の娘は震えていた。というのもこの“カクレ様”に選ばれたものが女の場合、高確率で、娘は神隠しにあうという。帰ってこない場合もあるし、帰ってきたとしても心に異常をきたした状態で発見される。それでも村のものはそうした家が出た場合。全員で感謝をし、村全体でその生活の世話をしたそうだ。
その年の祭りも無事終わり、“カクレ様”を演じてずっと座敷に座っていた村長の娘のお祓いをしようと、お坊さんがその顔を覆う布を取り去ったとき、ひっくり返った。
「大変だ、大変だあああ!!!!」
そこにいたのは、村長の娘ではなく、若かりし頃のあの爺さんだったそうだ。村は大騒動になった。村長は喜んだが、周囲の大人たちがさけんだ。
「オカクレ様を騙すとは!!」
「オカクレ様には娘は必ず捧げなければならん、そうでなければ、より多くの子供がさらわれる事になる!!」
その年以来、実際多くの子供が神隠しに会うようになった。そればかりではなく、村では、神隠しにあった子供のいる家は、病気になったり、不幸な目にあったりすることが多発。村長の娘は神隠しに会わなかったが、その年から3年後に、件の爺さんも神隠しにあい、戻ってきたころには、呆けていて心がここにあらずといった様子だったそうだ。
それから二人は結婚し、呆けた状態で何もできないおじいさんを、村長の娘は、おいて病気で他界するまでずっと支えたそうだ。だが、それに怒りを向ける村人もいる。そう、神隠しにあった子供たちだ。特に男の神隠しは、その爺さんが神様を騙すまでずっと存在しなかったため、神隠しにあった親たちが、彼をいじめたり暴行したりするようになったそうだ。
村長は話しの最後にいった。
「自分の愛するものをとるか、そうでない大多数のものをとるか、あの爺さんは、愛したものをとった、そしてワシの最愛の娘を、感謝してもしきれんのじゃ」
そういって涙をうかべていたそうだ。
神隠し グカルチ @yumieimaru
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