身が穢れた薄幸系ヒロインが主人公と出会い幸せになるまでの話、現代、ヤンデレ、バトル、ダンジョン、ダークファンタジー
三流木青二斎無一門
第1話
「
大迷宮と呼ばれる地にて活動を行う為に、この組織では二人一組での行動を推奨していた。
狗神仁郎は、テーブル席の近く、ちびちびとガラスのコップに入ったオレンジジュースを飲む女性の名前を口にした。
「えぁ?」
線の細い女性だ。
髪も輪郭も体も、全てが細い。
余分な脂肪は無く、肉体は平坦で、幼女体系がそのまま成人したかの様だ。
おまけに背も低く、学生服を着れば女子高生でも女子中学生にも見える。
それ程までに童顔で、真っ白な髪に赤い瞳と言った珍しい特徴をしていた。
彼女は、狗神仁郎に名指しされて心音を爆発的に高鳴らせる。
ただでさえ、虚弱な彼女は、自らの血脈の速度に耐えられない。
体中熱くなったかと思えば、腹部が熱した鉛を詰め込まれた様に特段熱くなる。
「う、ぷッ…っ」
胃袋から食道へと熱が競り上がり、口元から出掛かると共に彼女は自らの口を抑えた。最早我慢の限界と言った様子で部屋から飛び出ると、彼女はそのまま廊下を走り出した。
「…そんな、俺と組むのが嫌だったのか?」
少しショックを受けてしまう狗神仁郎は、動揺を隠す為に帽子を深く被り直す。
途端、背後から声を掛ける一人の男性。
「ちょっと、仁」
名前を呼ばれた所で、狗神仁郎は振り向いた。
チョコレートの様な色をした前髪で片目を隠す、高身長の男性だ。
バーテンダーの様なベストとスラックスを着込んだすらりとした男性は、女性口調で狗神仁郎に突っかかる。
「何をボウっとしているの、早く追い掛けなさいな…もうコンビなんでしょ?仁が決めたんだから、自分のパートナーは大事にしなさいよ」
助言の様な事を言われると共に、手の平で狗神仁郎の背中を叩かれる、いやこれは、背中を押された、と言う行為なのだろう。
それによって狗神仁郎は頷くと、そのまま出灰ハクアの元へと向かい出した。
「世話が焼けるわね…」
と、そう言いながらも、花露辺諭亮は愉快そうに笑みを浮かべてグラスに入った酒を飲んだ。
出灰ハクアは遠い所へ向かっては居ない、むしろ近場に居た。
廊下の奥にはトイレがある、洋式便所であり、出灰ハクアはその便所に向かって顔面を突っ込んでいた。
「うげぇぇ…くぷ、ぇあっ…」
嗚咽と共に嘔吐をし続ける。
病弱な彼女の肉体は、些細な刺激にも感化して吐き出してしまう。
心身共に虚弱、故に、嘔吐が続く為に、何時の間にか緊張すると吐き気を催す、吐き癖がついていた。
「出灰さん、大丈夫か?」
狗神仁郎がそう語り掛けると、後ろに居ると判断した出灰ハクアは涙目を浮かべながら必死になってトイレのレバーを引いた。
トイレに吐き出した内容物を狗神仁郎に見られたくなかったのだろうが。
「ふ、っふっ…む、うげぇえっ」
その行動は無駄に終わり、流した溶解物を追いかける様に胃袋から流動的物体が流れ出した。
「はっ…あッ」
無駄に終わってしまった結果、恥辱を覚えながら静かに泣き出す出灰ハクア。
自分の醜い所を見られて軽蔑されてしまったのではないのかと、想像が自分を迫害していく。
ぽろぽろと大粒の涙を流す出灰ハクアに、狗神仁郎は近づいて彼女の背中を擦る。
何も言わず、狗神仁郎は出灰ハクアを癒したが、実際の所、狗神仁郎にも分からない事だった。
こういった状況、どの様な行動が正解であるのかが分からない。
だから、酔った人間を介抱する行為と同じ行動を選択したのだが、それが彼女にとってどう思われるのかが分からない。
どちらも不安だった。
狗神仁郎が何も言わずに背中を擦り続ける。
呻く様に泣いている彼女は、次第に声を抑えていき、恥辱と緊張が溶けていく。
すると、一つの問題が出灰ハクアの中で生まれていた。
「…いりがみ、さん」
初めて其処で真面な言語が出た為に、狗神仁郎はその言葉を紡ぐ。
「どうした?」
今から吐く言葉は、彼女にとっては大きな一歩だろう。
もしも否定されてしまえば、彼女は大きく、狗神仁郎との間に壁を作る。
自分が何よりも深く傷つくのだ、だが、それでも聞きたいと思ったから、狗神仁郎に問うた。
「…ほ、本当、に、ハクアで、…良い、ですか?」
自分を選ぶ事が間違えでは無いのか?本当は、誰かに頼まれて選んで欲しいと言われたのでは無いのか?
そう考えるだけで心が挫けてしまう、結局自分の独りよがりである事が確定するワケだから、だけど、確認はしたい、今の自分の傍で尽してくれている狗神仁郎の本心を伺いたいのだ。
「…は、ハクア、き、きっと、きっと、いりがみさんに、ご迷惑、お掛けして、しまいますッ」
此処で悪い癖が出た。
自分の評価を下げて、相手が断る理由を作る行動。
そうすれば、自分が納得する中で否定されるから、心に負う痛みは最小限に留められる。
だが、それをした事で、再び出灰ハクアは涙を流した。
自分が如何に卑しい人間で、自分が傷つかない為に最低な行動をしている女であると認識してしまう。
だから、思わず涙が出てしまったのだ。
だけど、止める事無く、出灰ハクアはトイレの中で叫んだ。
「い、いらつかせます、いりがみさんを、きたいして、損したって、思いますっ…」
自分がそう思っているのだから、他人から見てもそうなのだろう。
だけど、心の底では…こんな自分でも、肯定して欲しいと思っている。
そんな人間が傍に居てくれたら、どれ程嬉しいかと願っている。
「げろ、吐いて…汚くて、臭い、なんて、言われる、し…」
無論、そんなのは寝言でしかない。
彼女は自分と言う存在がどれ程役に立たない存在であるのかを理解している。
それは、過去にイジメに遭遇していた記憶から、そう思っているのだ。
それが出灰ハクアに対して、他の誰よりも劣った存在であると刷り込みされていた。
彼女の悲痛な言葉に、狗神仁郎は、擦る手を止めて彼女の肩を掴んだ。
そして、トイレから引き剥がすと共に、狗神仁郎は自らの口の中に指を突っ込んだ。
「ぐお、がっ」
搔き乱す様に喉奥を弄り、吐き気を催したかと思えば、その中身をトイレの中に吐き出した。
豪快に吐瀉物が跳ねる音を響かせながら、狗神仁郎は蒼褪めた表情を浮かべながら振り向く。
「人間、吐く時は吐く、人間によってその回数が多いか少ないかの違いでしかない」
「つまり…俺が言いたいのは」
「…それが理由で出灰さんと組む気は無いなんて台詞」
「口から出す気はないって事です」
「さあ、て…俺は本音で吐きましたよ、出灰さん」
「御託並べて言い訳を口になんて面倒臭ェ、あんたも本気で吐いて下さい」
「俺と組んで下さいよ」
狗神仁郎は手を伸ばす。
口の中は酸の様な酸っぱい味が広がっていた。
予想外の行動に呆気に取られていた出灰ハクア。
その必死の行動に、心を動かされた。
「…ハクア、を、選んで、くれるの、なら」
「ハクアは…いりがみさん、と、一緒に居たい、です」
彼女もまた本音を口にする。
それを以て、此処で新しいパートナーが結成されるのだった。
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