第17話 サバイバル開始
「
変に
そこには小人がいた。
「あ。今、先生のことを小人だと思いましたねぇ?」
豪華な緑の龍衣に身を包んだお団子頭の幼女が、不服そうに頬を膨らませている。
「いえ、迷子の子供がいるなと思いました」
「先生をからかうとはいい度胸なのですぅ。そこへ直れなのです!」
風魔術の担当教師である
勝手知ったる気安さで
「わかりました。これあげます」
「なんですかこれは」
「
渡したのは包み紙。中には
「むー? 飴ごときで先生を買収する気ですかぁ? ほんと
などと口では言いながら、しっかり飴を口に含んでいる。
カランコロンとご満悦の表情で音を鳴らす幼女の脇を通り抜ける。
「待ちなさいです! まだ話は終わっていませんよぉ」
「賄賂に手をつけたんだから見逃して下さいよ」
「そうもいきませんよぉ。備品を持ち出してどうするつもりです?」
やましい事は何もない。理由を倫理的に説明するのは簡単だ。
「本陣周辺の魔獣は初日で狩り尽くされるでしょう。とすれば、狩場までの移動距離も日ごとにだんだんと遠くなっていくことになります。しかも競争率が高い。だったら最初から、奥地まで進んでそこを拠点にした方が効率が良いということです。勤勉な生徒ということでここはどうか」
「しかしですねぇ。先生も安全を管理しなければならないのですよぉ」
「大丈夫ですよ。成績優秀な公主様も一緒ですから」
ダメ元で名前を出してみたのだが効果は
幼女先生はあわあわと慌てるような素振りを見せ、
「そういえば公主様と同じグループでしたっけ?」
「はい。だから心配いりません。公主様が魔獣ごときに遅れを取ると思いますか」
口を閉ざして澄ましていれば西方人形のように見える
「どの辺りまで踏み入る予定ですかぁ?」
「そうですね。森の北寄りを西へ進んでみようかと思います。一日か二日、十分な距離を歩いたらその辺りを拠点にして活動しようかと」
「わかりました。では一週間ほどで一旦帰還して下さい。先生が譲歩できるのはここまでです」
安全管理の観点から、一度無事を確認したいとのことらしい。
食料の問題がある以上、どちらにせよどこかで戻らなければならない。一週間というのは少し短い気もするが、悪くないスパンであるように思われた。
「怪我には気を付けるんですよぉ。家に帰るまでが遠足ですからねぇ」
◇◇◇◇◇
幕舎を出て、枯れ木の倒木から南へ二百歩、西へ百歩。指定の待ち合わせ場所に着く。まだ二人の姿はない。女子の支度には時間がかかるものなのだ。手持無沙汰の
模擬刀を脇に差し直すと、
「しっかし、模擬刀片手に獣王の森に入るってどうなんだ」
《剣気》を使える
「真剣ぐらい持たせても良さそうなもんだがな」
学園内では殺傷事件への発展に至らぬよう真剣の持ち込み・所持は禁止されている。とはいえ、ここは学園の外であるし、仮にも危険地帯とされる獣王の森である。人間が何の対策もせずに踏み込めば腕に覚えがある者でも三日と持つまい。そこへ木製の模擬刀を持って入るのだからどうかしている。
「ピクニック気分じゃねーんだぞ」
その時、背後の茂みからガサッと枝葉の揺れる音が耳に届いた。
――斬っ!
熱したナイフをバターに当てるが如く。抵抗なく黒い影の胴体を両断した。
鮮血が散る。空中で二つに分かたれたそれは地面に力なく横たわる。
魔獣だった。
「犬型の魔獣。いや、狼か?」
白い体毛に赤い目。額には角が生えている。
白狼と呼ばれる魔獣である。
魔獣の中では下位に当たる。ウォーミングアップには丁度良い。
と――
「グルルルル」
同種の魔獣が五体。木々の間から姿を現す。
残り三匹の内、左右の二匹が同時に飛び掛かってくる。
「馬鹿だな。正面から同時じゃ意味ねーだろ」
大きく
あと一匹。戦いは楽しい。龍人の血が騒ぐ。
狂気に染まった
が、白狼が数メートル
「さすがだな
「黒陽か。おまえの魔術も見事だが一つ言わせてくれ。魔核を破壊したら駄目だ」
魔核は魔獣の本体となる《妖気》の集合体で、魔核を破壊するか取り除くと魔獣は体を維持することができなくなり、《気》の粒子に分解され消える。そして魔核はその性質から魔獣の討伐証明に使える。
「いいか。魔核を破壊してしまったら、それは魔獣を倒していないのと同じことなんだよ。おまえは報奨金や学園の成績になんて興味はないのかもしれないが、同行するなら協力してくれ」
「むう。それはすまない」
しゅんと公主様が肩を落とす。しおらしい反応に
「ああ、いや。わかってくれればいいんだ。俺も言いすぎた。すまん」
「あー翔くんが陽ちゃんのことイジメてるー」
「面倒くさいやつが面倒なタイミングで来やがった……」
「あー、今さらっとひどいこと小声で言ったー」
なにはともあれ、これで全員集合というわけだ。
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