第17話
私と黒川さんは、息を呑んでお父さんを見守った。松田さんは相変わらず我関せずと本を読んでいる。
「いくぞ!」
お父さんが吼えた。
「混沌としたコント!」
「…………」
パチパチパチ、と黒川さんが拍手した。
「さすが藤林くん、独特のセンスね!」
独特のセンスじゃなくて寒いって言っていいんだよ。
「いくらなんでも寒いよ……」
そろそろ薄暗くなって来たからじゃないよ。
「あら、寒いの?」
黒川さんが、はいぎゅー、と言って抱きしめてきた。すごい。これが本当の巨乳……!ふっかふかだ!居心地が良すぎて寝そう。
「愛理、ぐへへって笑うのは辞めなさい」
いや、なんかもう口が勝手になっちゃうの。
「いいじゃない、その笑い方も可愛いわ」
ねー、と私の顔を覗き込む黒川さん。これもう私の事好きでしょ!キュンってしたもん!
「黒川さん好きー」
言いながら私は黒川さんのおっぱいに顔を埋めた。もはや怒られまい。
「甘えんぼさんねー」
むしろさらにぎゅーっと押し付けてくれる黒川さん。絶対わかっててしてくれてる。シンプルに最高。私って女の子の方が好きだったのか……?
「じゃあ愛理ちゃん、ハンバーグ作ろっか」
「も、もうちょっとだけ……」
お父さんはエビフライを作りに離れてしまった。私が逃がすもんかとぎゅーっと黒川さんにしがみついた。
「もう……ちょっとだけだからね?」
黒川さんはそう言ってから、私の耳元で愛理ちゃんのえっち、と囁いた。私は思わず飛び退いた。
「あら、もういいの?」
「い、いいです!」
えっちなのはどっちだぁ!と思い切り叫びたかった。やっぱり私がおっぱいを楽しんでるのに気づいた上でぎゅーっとしてくれてたんだ。そんなのえっちじゃん!
顔が真っ赤になってる気がする!暑い!
「じゃあ愛理ちゃん、これ」
黒川さんはにこにこ顔でミンチの入ったボウルを渡してきた。もうそのにこにこ顔も、からかってるようにしか見えない。
私は八つ当たりを込めてミンチをこねまくった。必要な材料は黒川さんが横からぽいぽい入れてくれるので、こねるだけでいい。
このー!と叫びながらこねる。
すると、黒川さんが私の唇に人差し指を当てた。何事!?やっぱり黒川さんって女の子が好きなタイプ!?
「見て、愛理ちゃん」
指さされた方を見ると、松田さんがくかーっと大きく口を開けて寝ていた。
「急なお仕事で疲れてたみたいだから、少しだけ静かにしてあげましょ?」
私は無言でコクコクと頷いた。
急な仕事で疲れてたのに、お父さんに頼まれてうちの掃除とか片付けしてくれたってことだよね?しかもキャンプの用意まで。起きたらちゃんとお礼を言おう。
私が無言でこね出すと、黒川さんはいい子いい子と撫でてくれた。これ絶対私を攻略しようとしてる。間違いないね。
色々入って全体がねっとりしてきたら、丸い形にしていく。
私がいつだったかテレビで観たお手玉するやつをやろうとしたら、やんわりと黒川さんに止められた。
失敗したら悲しくなるというのは確かにそうなので、お手玉は仕方なく諦めた。
黒川さんに教えてもらっていい形にできたそれを焼いていく。
バーベキューコンロを使っての直火焼きだ。
ハンバーグのこれは絶対美味しい。
近くからはじゅぁあ、というエビフライを揚げる音も聞こえてくる。
バーベキューもシンプルに豪華だけど、こういうたっぷり手間をかけた豪華さもいいね。というかハンバーグこねるの地味に大変だった。今後ファミレスでも感謝しながら食べよう。
網の上で焼いてるから、焼き目だけですごく美味しそう。匂いも最高。
「黒川さん、これってソースはどうするの?」
「さすがにソースまで屋外で作るのは大変だから、そこは既製品よ」
「確かに」
これ以上洗い物が増えたら後が大変だ。小屋の洗い場はそこまで大きくなかった。
お父さんが、揚げたエビフライを何故か網の上に並べていく。端っこの方だから焦げたりはしなさそうだけど。
「お父さん、エビフライここからまだ焼くの?」
「いや、キッチンペーパーがないから油切りをしてるだけだよ。サクッとしたままにしたいからね」
よく分かんないけど、必要な事だってことはわかった。
「ハンバーグのついででいいから、焦げないようにだけ見ておいてくれるか?」
「わかった。お父さんは?」
「ご飯を炊くのを忘れてたから、お米をといでくるよ」
ほんとだ。カレーは作ったのにご飯がない。
「藤林くん、私が行こうか?愛理ちゃんとお料理したくない?」
「もう後は焼けるのを待つだけじゃないか。それを一緒に料理と呼ぶのか?」
「そういうこと言うんだったら、私が愛理ちゃんとイチャイチャしとくわ」
どうやら私は黒川さんとイチャイチャする事になったらしい。
「くれぐれも余計な事はするなよ」
「しないから、安心して行ってらっしゃい」
お父さんは心配そうにしながらお米を持って小屋に向かった。
そして、その後ろ姿が見えなくなってから、藤林さんがとんでもないことを言い出した。
「ねぇ、愛理ちゃん」
「なに?」
「私の事好き?」
「好きー」
「じゃあ、私の事をこれからお母さんって呼んでみない?」
あーっ!この人お父さん狙いか!私のドキドキを返せよ!
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