別れ際彼女は電車の中で泣いていた

zol

完結

学校の帰り道、いつもの道を帰っていると大学生くらいの4人組の女の人達がいた。帰り道は偶然その土地の観光スポットとされている場所を通るので、人がいる事自体はそう珍しくなかった。通り過ぎようとしたその時「あの、すいません」「このお寺ってどこにありますか?」と道を尋ねられた。僕自身方向音痴で自信がなかったので、一緒に歩いて案内をする事になった。話していくうちに盛り上がって会話が弾んだ。彼女達は大学2年生で隣の県から観光に来たらしい。道が分からない時にたまたま君が通りかかったからと言った。こんな年上の女の人達に声を掛けられる事なんて、そうそうないことだから内心戸惑っていたと伝えたら「何それ可愛いんだけど」 「こっちの県に持って帰りたいくらいだよ」と言われて、どう反応して良いか分からず照れていたのを覚えている。話しているうちに目的の場所にあっという間に着いた。案内し終わって帰ろうとしたら、そのうちの1人の女の人が「LINE交換しない?」と言ってきた。この4人の中でも1番タイプで綺麗な人だと思っていたからドキドキしていた。「します!」これはチャンスだと思いLINEを交換した。その後その人達と分かれて僕は自分の家に帰った。メッセージが来ると思っていたけど一向にこない。自分からしてみようか悩んだけど、そんな度胸はなく何もしなかった。3日後にいきなり「この前はありがとう!」とメッセージが届いた。もう何も話さないと思っていたから嬉しくてすぐに返信してしまった。「方向音痴だから道案内出来てたか分からないけど笑笑」「確かに所々分かってなかったもんね笑」 彼女とのLINEは楽しくて時間が足りないくらいだった。ある夜彼女から電話が掛かってきた。いきなりの事で驚いたが出てみると彼女は泣いていた。なんで泣いてるのと聞いたら 「今見た映画がね、悲しくて泣いてたの」「この話を君に伝えたくなって、電話掛けたちゃった」 「どんな内容だったの?」「4年付き合った彼女がいたんだけど、お互いに長く居過ぎて恋愛感情がどんどん薄れていって別れちゃう話」「なんかこの映画見たら君の事を思い出して」 彼女が言ってくれる言葉が嬉しかった 「付き合お」考えるよりも先に言葉が出てしまっていた。「嬉しい、いいよ」 この日は、嬉しくて次の日の学校をオールで行ったのを覚えている。 彼女の存在があるだけで何でも頑張れた。彼女が「頑張れ」と応援してくれるたびにやる気がどんどん出てくる。恋人が出来たら学力が下がるとかよく聞くが飛躍的に上がった。勉強を頑張るたびに彼女から「偉いね、すごいよ」と褒められるのだ。丁度付き合ってから1ヶ月後の記念日の日に会う事を約束した。「次は僕がそっちに行くね」と言うと彼女は嬉しそうに「楽しみにしてる」と言った。慣れない新幹線に3時間程揺られ、久しぶりに会う彼女に少し緊張していた。駅に着くとそこには、モデルだといっても分からないぐらい綺麗でスタイルの良い彼女が待っていた。「よく1人で来れたね、よしよし」 と頭を撫でてくれた。予約していたホテルに荷物を置いて、夜ご飯を決めようとしていた。その時、いきなり彼女に押し倒されそのまま初めてセックスをした。終始彼女から責められて今までに感じた事がないくらい気持ちよかった。終わった後は「よしよし」と頭を撫でてくれてハグしてくれた。僕は心が満たされていくのが身に染みてわかった。僕は彼女の事が大好きだ。僕にずっと優しい所、ダメな事はダメだとちゃんと叱ってくれる所、優しく頭を撫でてくれる所、年上なのに時々年下かと思うくらい僕に甘えてくる所、どの彼女も可愛くて大好きで、ずっと僕が傍にいたいと心の底から思った。帰りのバイバイは他のカップルの何倍も辛い。 最後泣かないように我慢していたけど、彼女の方が泣いてしまった。なんて綺麗で良い子なのかと心底おもった。僕の事で泣いてくれるのが嬉しくて、人目も気にせず駅のホームで2人で泣いた。帰りの電車がやけに重くて悲しかった。お互い冷めず一途に思い続けていたが、3年くらい経った頃から彼女とのライン3日に1回ほどになっていた。あんだけ使っていた絵文字は今では使っておらず、連絡事項のような淡々とした文だけが画面上を埋め尽くしていた。その頃にはもうお互い大人になり彼女は社会人、僕は大学生になっていた。いや、 僕だけはまだ子供のままだったのかもしれない。社会人の彼女と大学生の僕とでは生活時間が合わなかった。今日彼女がこっちの県に来る日だ。月に一度は必ず会うようにしている。 でもそれは、年々変わっていった。あれだけ甘やかして頭を撫でてくれていた彼女はどこにもおらず、ただホテルに行きヤッて終わる。終わった後はお互いハグもせずに寝る。別にどっちかが浮気をしているわけでもないし、 嫌いなわけでもない。でもなんだろう、 何も感情が動かない。前みたいな甘い恋心やドキドキもない。キスもハグもせずにたわいもない話をして、 ただそこに存在しているだけ。 言い出したのは彼女の方だった。「私達さ、 多分もう潮時なんだよ」「別に嫌いなわけじゃないよ、でも好きなの?って聞かれたらちゃんと答えられる自信がない」 分かっていた。でもこれを言ったらこの3年間の全てが終わりそうで言えなかった。「やっぱり凄いよ、僕は終わらせたくなくて気づいていたけど何も言わなかった」「ねー覚えてる?」「まだ付き合いたての頃いきなり電話かけて来たと思ったら、 泣いてて理由聞いたら今見た映画と僕を照らし合わて泣いちゃったって」「今の僕達はあの時の映画みたいだね」この言葉を口にした瞬間涙が溢れてきた。 「こうはならないと思っていたよずっとずっとお互い大好きだと思ってた」「私も思ってたよ」心の底ではまだ彼女を手放したくなかった。「思ったんだけどさ、結婚したら何か変わるはずだよ」「子供作ってさ、ベビーカー押して公園とかに行くんだよ」もうヤケくそだった。涙をぼろぼろこぼしながら僕は言う「どこで間違っちゃったのかな」 彼女は優しく微笑み僕を抱きしめた。僕は何も考えず泣いた涙が枯れるほど泣いた。 抱きしめた時気づいたけど彼女も泣いていた。 時間が経ちお互い落ち着いた頃彼女が言った「私達別れよ」もうその時には遅かった。「うん、 そうしよ」別れた後にしたセックスは付き合っていた時とは違った。行為中に言う「好きだよ」とか「愛してる」がなくなっただけだ。チェックアウトし僕達はホテルを出た。これが最後かもしれない、そう思うと何故か彼女との今までの事をフラッシュバックするかのように思い出す。夜まで思い出の場所を2人で歩いた。「あ、ここ君が絶賛してた料理屋さんだったよね」「あの時は無邪気に喜んでて可愛かったな」 彼女との思い出の場所が多すぎて道を歩くだけで思い出す。夜になり彼女の帰りの電車を2人で待っていた。「1番最初の時は2人とも泣いてたよね」「いつから泣かなくなったんだろうね」彼女の言葉一つ一つが僕の胸内をえぐるように突き刺す。何故だろう、今は彼女と別れる事がこんなにも苦しい「あ、電車来たかも」 ホームのアナウンスが鳴る。何度聞いた事か。「お仕事ちゃんと頑張るんだよ」 「君もね、学校はサボらずちゃんと行くんだよ」あー、だめだ泣いてしまいそうになる。最後に彼女が耳元で「ほんとに愛していたよありがとう」と言った。電車に乗った彼女に僕は手を振った。彼女も手を振っているのかと思ったけど、彼女は涙を手で拭いていた。ニコッと微笑む彼女が遠ざかっていく。あー行かないでくれ。もっと一緒に居たかった。 静まりかえったホームのベンチに深く腰を掛けた。「今まで幸せな時間をありがとう」 僕はそう心の中で思うと自分の家に帰った。あれから何年も経っているが、未だにあの時泣いていた彼女の事を思い出す。何で泣いていたの。僕にはまだ分かりそうにないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

別れ際彼女は電車の中で泣いていた zol @zaoldyeck

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ