13 安藤恭太 8


  三輪さんと西條さんが、僕たちの前を歩いていく。三鷹駅から北へ北へと進んでいくが、地元で慣れているのか周囲の景色には目もくれずに歩いている。時折三輪さんが西條さんに何かを話しかけて、西條さんが答えるというのを繰り返していた。

 就職先が東京に決まっているので、東京に来たのはもちろん今日が初めてではないが、三鷹駅や武蔵野市は来たことがない。戸建ての家やマンションが立ち並ぶ小綺麗な街という印象だ。緑も多い。僕はキョロキョロと周りを見回してしまう。


「そんなに面白いかい?」


「だって、東京やで? 滅多にこーへんもん」


「そうかい」


 道ゆく人々とぶつかりそうになりながら、なんとか前を歩く女性陣についていくことおよそ20分。二人はとあるお寺の前で立ち止まった。どうやらここが目的地らしい。


「着いたわ」


 三輪さんが呟くと、他の三人の表情が引き締まった。僕たちはこれから奏に会いにいくのだ。きちんと話をするための心の準備をしなければ。

 心の中で決意を固めつつお寺の奥の方へ歩いていくと、美しく並ぶ墓石が見えてきた。陽の光を浴びてきらきら輝くお墓を見て綺麗だと思ったのは初めてだ。

 三輪さんは勝手知ったる様子でお墓の間を歩く。僕たちも無言で後をついていく。そしてようやく、あるお墓の前で三輪さんは立ち止まった。「西條家之墓」と掘られた墓石の前だ。そこにはしっかりと「西條奏」の名前が見つかって、奏がもうこの世にはいないということが急に胸に差し迫って感じられた。


「ここよ。ナエも初めて来たわよね。弔ってあげて」


 これまで奏の不在について事実を知らなかった華苗は、奏のお墓があるということも知らなかったようだ。ユカイから解放された日に食堂で三輪さんにお願いがあると言っていたのは、「奏のお墓に連れてっていてほしい」ということだった。

 三輪さんはこれまでに何度かお墓に来たことがあるのだろう。手に持っていたビニール袋から供物を取り出してお墓の前に備えた。墓石に水をかけて手を合わせる。

 三輪さんが目を開けると、西條さんはゆっくりと墓石に近づいた。太陽の光を遮るようにして、そっと墓石に触れる。大切なものを愛おしむかのようにすっとお墓の表面を撫でた。まるで奏に語りかけるような仕草に、三輪さんは早くも目尻を濡らした。


「奏……奏、ごめんね」


 これまで静かに三輪さんの後をついていた西條さんが、わっと両手で顔を覆ってしゃがみ込む。抑えていたものが溢れ出した彼女の姿が、僕の胸をつんと締め付けた。学も同じだったようで、顔を歪めている。


「私、奏のことをずっと胸に蓋をして見えないようにしてたっ。あなたはここにいたのに、なかったことにして、目を逸らして……最低な、妹だね」


 誰も、華苗に声をかけてあげることができない。彼女の心の重しの大きさを知っているのは三輪さんだけだが、三輪さんにすら計り知れない華苗の叫びがお墓全体に響き渡った。

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