13 安藤恭太 1



 西條さんが、奏じゃなくて本当は妹の華苗だった?

 

 僕と学は二人の話についていくことができずにかける言葉も見当たらなかった。どういうことなのか、三輪さんが事情を知っていて説明してくれるようだが、その前に警察に声をかけられた。


「西條華苗さんと安藤恭太さん。少し事情を聞きたいので署までご同行願えますか?」


 僕と西條さんは顔を見合わせて頷く。

 これだけの事件が起こったのだから、事情聴取されるのは当たり前だろう。僕たち二人は大人しく警察に従った。


「話はまた二人が帰ってきてからにするね」


 三輪さんもさすがに警察の指示には逆らえないということで、この件は一時お預けということになった。僕としてもようやく西條さんを助けることができてほっとしていたところに新しい議題が出てきて頭が混乱していたので、その方がありがたい。


「では行きましょうか」



 警察での事情聴取は小一時間ほどで終わった。僕はともかく、西條さんは昨日の夜から何も食べていなくて疲れているだろうということで、早めに解放された。

 ユカイはYouTuber連続誘拐事件や殺人、他の犯罪を多発していたということで、かなり重い刑罰が下るだろう。僕たちが知っていることはすべて話したはずだ。あとは警察の方でユカイの処分については考えてくれると思う。

 姉の奏を誘拐され、殺害されてしまったと知った西條さんは終始身体を震わせて警察の話を聞いていた。僕はそんな彼女の姿が痛々しく見ていられなかった。事情聴取が終わると、彼女の肩をさすってあげた。彼女は無言で僕に頭を預けてきた。

 警察署を出ると学と三輪さんが迎えに来てくれていた。


「車持ってないし、タクシーで勘弁しておくれ」


「いやいや、十分だよ。ありがとう」


「ナエ、大丈夫?」


「うん」


 三輪さんは華苗のことを「ナエ」と呼ぶらしい。奏のことは「カナ」と呼んでいて、呼び方で二人を区別していたのだと分かる。

 大丈夫、と言いつつも西條さんはどことなく焦点の合わない目で遠くの方をぼんやりと眺めている様子だった。色々とショックなことが重なったし仕方ない話だ。僕も他の二人も、彼女に余計な気を遣わせないよう、静かに彼女を見守っていた。


「これからどこに行くん?」


「そうだな、西條さんお腹空いてるだろうし、どこかご飯が食べられる場所がいいね」


「でももう3時よ。ご飯屋さん開いてるかな」


 うーん、と一頻りみんなで唸ったところで、僕はぱっと閃いた。


「学食なら開いてるやん」


 大学の食堂は基本的に昼間はずっと開いている。日曜日のこの時間なら人もそれほど多くないだろうし、ゆっくり話をするならうってつけの場所だ。


「いいね、そうしよう」


 三輪さんが頷く。タクシーの運転手に行き先を告げ、タクシーは発車した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る