05 安藤恭太 1
西條さんの口から「失踪」という言葉を聞いて、僕は思わず息を呑んだ。
ニュースや小説の中でしかそんな言葉は耳にしたことがない。失踪、つまり行方不明ということか。
西條さんの表情は強張り、僕もつられて頬がヒリヒリと突っ張るような感じがした。気のせいかもしれないけど、それぐらいの緊迫感が彼女を纏っていた。
「確かあの日は妹と一緒に買い物に出かけるところだったの。電車に乗る前に妹が『忘れ物したからちょっと待ってて』って家に戻って行って。それっきり、妹は私の前に現れなかった」
事情を知っているらしい三輪さんが眉をしかめる。彼女の話を聞いた僕は、なんとなく違和感を覚えずにはいられなかった。
「手がかりとかないん? いろいろと話が飛んでる気がするんやけど……」
たぶん、真奈も学も同じことを思っていたんだろう。僕の疑問にうんと頷いている。
「それが……私、実はよく覚えていなくて」
「覚えてへんって?」
「その日の記憶が曖昧なの。それ以外にも、なんだか記憶が飛ぶことが多くて。あんまり深く考えると頭がくらくらしてきて……」
うう、と彼女は自分の頭を抑えた。
「カナ、もういいよ」
三輪さんが西條さんの肩を支える。
「無理に思い出そうとしなくてもいいよ。警察からの話はあたしが聞いてるし。まだ何も手がかりがないんだって言ってたわ」
「……ごめん」
これは最初に西條さんが言ったとおり、かなり「込み入った」話だ。今日会ったばかりの僕たちが聞いても良かったのかと心配になる。
「いや、こちらこそごめんなさい。空気重くして。妹が早く戻って来たくなるように、私も前を向いて生きなきゃーって思ってた
とこなんだ」
「そっか。無理は禁物だよ」
「ありがとう」
西條さんは胸に手を当てて少し乱れた呼吸を整えていた。彼女は胸の内を話すことで自分を保とうとしたのかもしれない。僕だ
ってずっと恋人が欲しいという気持ちを学に話すことで、叶わない思いを昇華させてきた。それと何ら変わらないのではないか。
西條さんが少し落ち着いたところで、三輪さんが「あたしたちそろそろ帰るね」と彼女の手を引いた。僕たちもそろそろお暇しようと思っていたところだったのでちょうどいい。
「じゃあ、また。今日はありがとう」
「こちらこそ。突然押しかけてごめんね。楽しかったわ」
三輪さんと西條さんが先に玄関から出て行った。家に帰って、西條さんの気持ちが落ち着きますように。
「僕たちも帰るわ。学ありがとな」
「いつものことさ。気をつけて帰って。江坂さんも、また」
「はい。お邪魔しました」
盛り上がっていたたこ焼きパーティの終わりはしんみりとした夜風に吹かれ、秋の深まりを感じさせた。
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