第2話
テーブルの上の俺
意識が浮上する。誰かが話し合いをしている。
硬い板の上に寝かされて背中が痛い。
ぼんやりと目覚める。
異様に天井が近い、俺の知らない天井だ。トタンの屋根みたいな波板だが、もっと強度がありそうだ。
ここはどこだ?
俺は体を動かそうと力を入れるが起き上がることは出来ない。
「起きたか」
低いこの声は聞き覚えがある。
意識を失う前に聞いた声だ。
これでどうにかなる、とかなんとか
言ってた気がする。
霞んだ目を瞬かせた。
俺を覗き込む低い声の男は、
顔の3分の2が爬虫類で、残りが人の顔。
爬虫類人間?
ハクハクと口を鯉のように開けるが、声は出ない。
「あぁオレか?お前たちの言う宇宙人だよ、そして、お前は俺のメシな」
眉間を寄せて、ポカンと口を開けた。
意味が分からない、宇宙人?メシ?
メシってなんだ?
「全く意味が分かってないようだな、お前の声が出ないのも俺が食ったからだ」
食った?何を? 今俺を食ったって言わなかったか?じゃあなぜ俺は生きてる?
「お前、自分のモノじゃない金魄を食っただろ、あれのせいでお前、尋常じゃない再生能力を発揮できるようになったんだ、良かったな、多少食われたくらいじゃ死ななくなったぞ」
ゾッとして首を振る。
金魄?あの金色の小さい玉か。
「そうか嬉しくないか、でも、元々治癒力の高いお前がより能力値を上げる人間の金魄を食ったせいでこうなった、諦めろ、それに、俺にも効果があるしな」
途方に暮れた。
「あのぉ、金魄とはなんでしょう」
声のした方を見る。スーツを着た男女がいる。
俺を挟む形で、宇宙人と人が向かい合っている。
ここ、テーブルの上じゃねぇか、まな板の鯉ならぬ、テーブルの上の俺か?
笑えねぇよ。
「金魄か?そうだな、地球人は、みんな特徴ってもんがあるんだろ?
同じ人間はいない、金魄は人間の特徴と魂の一部を取り出したものらしい。
俺もよく知らねぇよ、元々俺は学はねぇしな、お前らだって俺のいた所がどんなとこか知らねぇだろ」
「はぁ、確かに」
スーツ姿の女性は困り顔で引きつった笑い顔になっている。
「それで、あの化け物はあなたが殲滅して、後は卵だけですよね」
今度はスーツの男が口を開いた。
「まぁ、ここいら一帯の成蟲は殺したけどな、そうだな卵は殺ってねぇな、あれは硬すぎてどうにも出来ねぇ、卵の場所は教えてやったから囲んで、成蟲になったらころせばいいだろ」
「いいえ、我々の武器では一匹も殺すことは出来なかったのです。
そこで、新たに産まれてくる成蟲をあなたに殺して頂きたい、望むものがあればできる限りで用意しますので」
「望むものねぇ」
チラッと宇宙人が俺を見た。
なんで俺を見たんだ?宇宙人
「お前なぁ宇宙人に宇宙人て、俺には名前があるんだが」
俺の考えを読んでるのか?
「出来ないのか?地球人は」
できる人間はいねぇよ
「地球人ってぇのは、ふべんだなぁ、俺の名前はディアロプスだ。
故郷じゃディーって呼ばれてたけどな、お前もディーって呼べよ。
お前は今からアロだ、わかったか」
いや意味わかんねぇし、
俺にはちゃんと名前があるんだよ
「全く物分りの悪いヤツだな、
お前はオレのメシだから、
お前の名前は、オレの一部から取ってアロだ、わかったな」
宇宙人の理屈なんて理解できるわけねーだろ。
お前故郷には帰んねぇの?
「ひでぇな、俺が帰ったら困るのはお前ら人間だぞ」
その言葉にスーツの二人が慌てた。
「困ります、せめて全ての化け物を倒して頂かないと困ります」
女性が半分泣きそうだ。
「構わねぇけど、あれは湧いて出てくるぞ、なんせ、信仰を捨てて蔑ろにしたせいで、生まれたナニカだからな。大元は俺にはどうにも出来ねぇよ。
故郷の星じゃ5000年前に大繁殖して、俺らの先祖は絶滅寸前まで追いやられたとか何とか」
スーツ姿の2人の顔が引き攣る。
人間絶滅の危機に俺はまな板の鯉だ。
「お役人さん、俺の欲しいもんはとりあえずコイツな、後コイツと俺が居られる家とコイツの食料それに、コイツに必要な物だな」
ディーはコイツと言いながら俺を指している。
「あの、ディアロプスさんあなたの食べ物は、何ですか? 」
えっ とディーが驚いた顔をして、俺を指した。
今度は女性が、えっ と驚いた顔になった。
「他に食べないのですか?野菜は?水は?」
この女、俺を肉としてカウントしやがった。
「いらねぇよ、逆にコイツが死んだら俺はこの星を出ていくから、俺はそいう生き物だから」
「そうなんですか、わかりました。 言われたものを用意します。それが整うまでこのコンテナを使ってください」
俺の意思は?食われるのは決定なのか?
「このコンテナに寝床を作れるのか」
「はい、ご用意します」
スーツ姿の女性が俺を見て頭を下げた。
「申し訳ありません、あなたの犠牲で、多くの人が助かります、ご了承ください」
「それに、硯田1等陸佐も喜びますよ」
スーツ姿の男が俺に言った。
俺は目を見開いた後俺はスーツ姿の男を睨んだ。こいつは俺を調べたんだ。
調べた上で断れないように釘を刺しやがった。
クソっ、、、、硯田さん。
「この場所に居住できるように整えます。監視体制が整い次第住めるようにしますので、トイレやお風呂は簡易ですが出来ています、ご案内しましょうか」
「見せてくれ」
スーツの二人とディーが立ち上がった。俺はディーにお姫様抱っこで運ばれる。
一通り施設の説明を受けたあと、俺と、ディーは元のコンテナに戻ってきた。
戻ってくると、コンテナの奥にベッドが二つ既に設置されている。
俺はベッドに降ろされた。
すかさずディーが俺に覆いかぶさりの首筋に噛み付いてきた。
首筋から熱が広がっていく。
動かない体が高揚していく俺の意志とは関係なく。
ヤメっ
「ヤメないよ、俺、話し合いとかで腹減ったし」
俺が欠けていくのはとてつもなく恐ろしいはずなのに、
俺から離れた指がアイツの口の中に消えていく時の恍惚としたアイツの顔が、目を瞑る度に脳裏に浮かんで俺を悩ませた。
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