第81話 未発見のダンジョン攻略

 武道大会を無事終えて、今日は約3週間振りの学院登校日である。


 久しぶり見るライアット教授は、以前に比べ少し痩せて見えた。しかし、目は以前よりも輝いており、やるべきことを見つけ、生き生きとしているようだ。

 そのやるべきこととはもちろん、古代魔法の威力の把握と分析、その危険性を後世に伝えることなのだろう。


「教授、なんだか以前より元気になってませんか?」


 アレックスも教授の変化に気がついたようだ。


「む、わかるか? 少し前に古代魔法の研究で進展があってな、ちょうど昨日それをまとめ終わったところなんだ。新しい発見がいくつもあって、非常に有意義な研究だったからな。またすぐ次の研究に入りたいところだが……」


 そう言ってライアットはチラッとアスカを見る。アスカは小さく頷いて返した。


「そうだな。今日は入学試験にも出した、複合魔法について教えるとしよう」


 ライアットはそう言って複合魔法について説明を始めた。自分が建てた理論を証明する文献が見つかったといい、黒ローブのことは隠しつつ特にその威力の凄まじさについて語った。まるで見てきたようにリアルに語る教授の話に、Sクラスのメンバーも熱心に聞き入っている。

 そして最後にその危険性に触れ、もしこれを使える者が現れた時のために、何か対策を考えておかなければならないと締めくくった。その者が善とは限らないから……





 午後からはクランのメンバーが集まり、ランク上げをすることになった。全員がレベル70以上になっているので、Aランクまではそれほど苦労せず上がるだろう。それに伴ってクランのランクもAまで上がるはずだ。アスカを抜かせば、10人になるので5人ずつの2パーティーで戦ってもらう。

 アスカは黒ローブに賞品の装備を作ってもらうという名目で、別行動をとることにした。実際は家で自分で作るんだけどね。


 まず、ソフィアの武器は杖だ。本体はとても軽いがミスリルより硬い古代樹エンシェントツリーの枝を使い、先端にはオリハルコンとサファイアを混ぜた宝石を付けた。


付与は魔力増大、消費魔力減少、HP増加、MP増加、詠唱短縮が選ばれた。魔力増大はスキルのように1段階アップはしないが、ステータスの魔力が+100になる。消費魔力減少は使用する魔法の消費魔力が2割減少する。魔力回復上昇は魔力の回復速度が1.5倍になる。詠唱短縮は魔法を使う時、名前だけでその魔法が発動するようになる。


いずれも杖を握っている間だけの効果だが、この杖を持ったソフィアは、余裕でSクラスの実力に達するだろう。Aランクになったら昇格試験に挑戦してもらおうと思っている。


 次に、キリバスの防具はオリハルコン製のライトメイルに付与を4つ付けたものだ。キリバスは全属性耐性、全状態異常耐性、身体強化、結界を選んだ。こちらもこの防具を装備すれば、Sクラスの冒険者に引けを取らないだろう。キリバスにも、いずれSクラス昇格試験を受けてもらいたいと思う。


 最後にミスラだが、ミスラも杖を選んだ。ソフィアと同じように本体を古代樹エンシェントツリーの枝で作り、先端はアダマンタイトとルビーを混ぜた赤色の宝石だ。付与は魔力増大、消費魔力減少、詠唱短縮を付ける。ソフィアもミスラも詠唱短縮を1番楽しみにしているらしい。


 午前中は毎日学院で授業を受けていたので、午後を制作に充て、これらの装備を作るのに3日間かかった。その間に、"ホープ"のメンバーは全員無事にAランクに昇格した。





 ここはデスバレー峡谷にある地下迷宮ダンジョンの入り口である。武術大会で手に入れた装備のお披露目をするためにメンバー全員を連れてきた。ここはまだ未発見の地下迷宮ダンジョンなので人がいないのと、50層からA級が70層からはS級の魔物が現れるので、来たるべきSランク昇格試験の練習にも持ってこいなのだ。


「ねぇ、アスカ、もしかしてここって未発見の地下迷宮ダンジョンじゃないでしょうね?」


 メリッサがちょっと怒った感じで聞く。


「えっと、未発見かどうかはわかりませんが、宝物や鉱石は手つかずでした」


 アスカがその勢いに気圧されて、しどろもどろに答える。


「「「それ絶対未発見だろ……」」」


 みんなの呟きが綺麗にハモる。


「未発見の地下迷宮ダンジョンがあると何かまずいのですか?」


 アスカが尋ねると……


「まずくはないが、普通、地下迷宮ダンジョンは危険が多いので、そこを管轄する国に報告をして、精鋭チームを派遣してもらうはずだ。そこで何層まであるのかとか、どのくらいの危険があるのかなどが調べられ、ある程度の調査がすんだところで、一般の冒険者に開放されるという流れが多いかな」


 博識のノアが説明してくれた。


「まぁ、ここまで降りてくるだけでも大変だし、B級の魔物がうようよいるし、入り口もわかりづらいから今まで発見されなかったんだな」


 ゴードンが、ぽっかりと空いた入り口を見て感想をもらす。


「精鋭チームっていっても、私達以上のチームはないんじゃないかな?」


 ジェーンがそういうのも頷ける。最近、ギルドの間ではクラン"ホープ"が話題沸騰中なのだそうだ。メンバー全員が学院生(ミーシャは受付なので除く)で、この3日間で全員がCランクからAランクまで一気に駆け上がるという、異例のスピード出世に周囲の冒険者の憧れの視線が集まっているのだそうだ。


特に、リーダーのソフィアや爽やかイケメンのキリバスは、ファンクラブまでできているらしい。その他のメンバーも憧れの対象になっており、どうしたらクラン"ホープ"に入れるのかが、最近の冒険者達の1番の関心事になっているようだ。

 さらに、このメンバー達の言動からクラン"ホープ"にはもう1人メンバーがいて、実はその謎のメンバーが最強の人物なのではないかと、密かに噂になっているらしい。


(何か、いない間に大変なことになってるな。アスカが謎の最強メンバーってあいつらギルドでどんな話をしてるんだろう)


(最近、別行動だったからわからないね。変な噂が流れてないといいんだけど……)


 とりあえず、自分達は精鋭チームで間違いないといってるくらい自信があるようだから、アスカを除いた5人の2パーティーでこの地下迷宮ダンジョンの攻略を進めてもらうことにした。アスカは後ろからついて行く感じだ。装備を新調したみんながどのくらい強くなっているのか楽しみだ。

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