beyond

@iamno

1月の子

1-1 異変

豪快なエンジン音で、特殊装甲を施したトレーラーは朝日で橙色に染まる荒野を駆け抜ける。

数か月に一回、このトレーラーは荒野の街サースティと水上都市オアシスを行き来して、街と都市の関係を繋ぐ為の重要な貨物を輸送をしている。

何を運んでいるのかは、運送の下請けごときが内容を詳しく知る由もない。

15年前に、俺は水上都市オアシスを降りて世界を旅した。

その5年後に、突如として現れた獣達によって世界は荒廃した。

怪しく光る正気を失った赤い目をした青い獣達。

──その名は、ダイブ。

動物に姿を模した存在で、輸送物や街を襲っているのを確認されている。

現代における戦闘兵器でもダイブには傷一つも付けることはできない。

とにかく人々の生活をまずは守らなければならない。

このライフラインが消えれば、全てが終わる。

輸送の護衛を始めてから、俺には荷物番ウォッチャーと呼び名が付いた。

偽物を語る奴だって最初はいた。だが、ダイブ達の存在が世界に広まれば広まるほど偽物は消えていった。


荷物番ウォッチャーは、



「そろそろだな。」


目印の看板を通り抜け、運転手のキッシュはサイドミラーを確認した。

ここからが本番だと、深呼吸をしてからハンドルを強く握りなおす。

ダイブが来た。

ダイブの駆除は俺に任せればいい。

キッシュは何があっても真っすぐサースティに向かってこの道を進めば問題ない。


「あんちゃん、仕事の時間だぜ。」


一声かけて、キッシュは更にアクセルを踏み込んだ。

トレーラーの轟音はさらに増す。

スライディングルーフを開いて、助手席を出た。


「フォーマットチェンジ・ガン」


ボックスは音もなく二挺拳銃に変形した。

ロングバレルカスタムデザートイーグルの黒いボディに赤黒白で螺旋が刻まれたその銃は、荷物番ウォッチャーの証だ。

この体がくたばるまで引き金を引き続ける。

サースティに辿り着くまでの時間はそう長くはない。ダイブ達に知能は感じられないが、それもいつまでかはわからない。これだけの頭数をどう用意しているかはわからないが、積み荷に触れようとするならば撃ち落とす。

ただ、今回のダイブは何かが違う。

必死さというのだろうか、今まで感じてこなかったこの執念にも近い。


「おい!いつもよりダイブを倒すに手こずってるぞ!!!」


キッシュからの野次には焦りを感じた。

声を届かせる為に、キッシュは真上を向いた。瞬間、トレーラーは道を外れて横転した。


「うわああああああああああああああああああああああ!!!」


キッシュの叫び声もトレーラが地面との擦れる音にかき消される。

100メートル程投げとされてしまったが、トレーラーに向かう。ダイブ達はトレーラーに群がり、特殊装甲を叩き壊し始めている。


俺が、護らなければ。荷物番ウォッチャーとして、護らなければ。

アリサの様に、あの時と同じで護れないのか。


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


ダイブが道を阻む。邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ。

トレーラーの最後の一枚の特殊装甲が剝がされた。

何が出てくるというんだ。


──何かが特殊装甲を施されたトレーラーを突き破った。


眩い閃光が、ダイブと俺を照らす。

少女だ。幼い少女が、光輝いている。


それは希望の光なのか、これから起こる悪夢への道標となるのか。

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