密林都市

Jem

第1話 微睡む牙

 「ねー、お祖母ちゃまのお墓、どこ?」


 幼い女の子のあどけない声が真夏の墓地公園を和ませる。どうやら母親と墓参りに来たようだ。


「あっ!ママ、あの人、白髪だよ。おじいさんかな?大きいね」


 ママがそっと娘の口を押さえた。


 「いろんなご事情があるのよ。ミクだって、幼稚園で、髪や瞳や肌の色が違っても皆お友達だって習ったでしょう。指なんか差さないの」


 指を差された銀髪の大男が振り返って、ニカッと笑った。鼻筋のくっきりとした白皙の美貌に、紅玉のような瞳。ママは一瞬見とれていたが、慌てて娘の非礼を謝った。


 「はは、構わねぇよ。子どもは、見たまんま素直に言っちまうだけなんだから」


 宇都木天翔は、もう一度とっておきの微笑みを浮かべて、恐縮する母娘を見送った。


 「大井、石嶺、佐久川、バージェス、綿貫…」


 目の前の、合同墓に語りかける。皆、身寄りのなかった同僚達だ。


 「…あれから、もう1年だぜ。お前ら、行くトコ行けたか?」


 アスファルトで熱された風が、宇津木の銀髪を揺らす。


 「なんつってな。俺らが落ちるトコなんか1つしかねぇか…」


 20XX年。昔の安全神話が嘘のように日本の治安も悪くなり、ニーズに応えてセキュリティ・サービス市場は活発に動いている。宇津木の所属するU.B.セキュリティ・サーヴィス社も、過激化する犯罪などに対応するための戦闘部門を設けている。宇津木も戦闘部門にいたのだが、作戦中に左目と左手を失い、1年間の治療とリハビリを経て、情報部門に異動した。主な仕事は、「案件」に関する情報の収集と解析。作戦を、後方から支援する仕事だ。


 「…話…終わった?」


 蜃気楼の揺らぐ駐車場に戻ると、配偶者の颯が、車の側の木陰で風に当たっていた。配偶者ったって、男だ。10年ほど前から正式に同性同士の結婚が認められるようになった。


 「おー…、なんかな、俺だけ生き残って後方でのうのうと給料もらってますなんて、あいつらには言い辛くてよ」


 「やめ!それ言ってたら、いつまでも立ち直れないってお医者さんも言ってたじゃん」


 強烈な陽射しに燦めく金髪を揺らして、颯が運転席に乗り込む。


 「――そうそうサッサとは割り切れねぇよ」


 宇津木が助手席に乗り込んだ。


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 「宇津木、4時からのブリーフィング資料、できてるな?」


 黒島芭蕉が声をかけてきた。黒島も元々は戦闘部門にいて、宇津木と同じ隊だった。分隊は別だったが、訓練校での同期でもある。2年ほど前に、病で右目の視力を失い、情報部門に異動になった。今では、宇津木の属する第3情報解析班の班長である。


 「おう、バッチリできてるぜ」


 ドサッと段ボール箱に詰めたコピーの束を机に置いて見せた。まだ配属されて1ヶ月ちょっとの宇都木は、とりあえず資料の打ち込みとコピーが仕事だ。


 「ずいぶん分厚いな」


 黒島が1冊手に取る。


 「作戦に必要な情報詰めたらそうなった」


 何かまずかっただろうか?


 「実際、これくらい必要なのは確かだがな。自分も戦闘部門にいたんだから、あいつらが読めるかどうかぐらい判るだろうが。次からは、戦闘部門の脳筋どものために、うっすいダイジェスト版も作れ。今日は、俺が口頭でかいつまみながら喋る」


 自分だって戦闘部門出身のわりに、大層な言い様だ。

 1つの作戦をこなすために、前線に出る戦闘部門と情報部門の合同チームが組まれる。戦闘部門の後方支援として、当該「案件」についての情報収集・解析や装備の手配などに、班毎のチームで専従するのだ。だが、はっきり言って、戦闘部門と情報部門の仲は悪い。戦闘部門の価値観では、前線で勇猛に戦って戦績を上げる奴が偉い。後方支援の情報部門の連中は、どうしてもひ弱に見えて馬鹿にしがちだ。もちろん情報部門としては面白くない。自分達が丁寧に集めて解析した情報の価値を理解しない戦闘部門の連中が馬鹿に見えて仕方がない。宇津木自身は、意外と慎重な方なので、ブリーフィングにはマジメに参加していたが、たいていの兵士はスラム地区の高校かってくらい、態度が悪いのだ。

 現役の頃は、あ~あ、情報部門から見たら面白くねぇだろなぁ、くらいにしか思っていなかったが、いざ自分が情報部門の人間としてブリーフィングに出てみると、どのくらい苛立つか、肌身に沁みて理解した。白目剥いて寝てるのなんかマシなほうだ。スマホゲーム弄ってる奴、何やらこちらを見てニヤニヤ囁き合ってる奴(ちっさ、とか、ガリ勉君おつかれ~とか囁き合っているのも知っている)。まぁ、仕方のない部分もある。前線に出てしまえば、ブリーフィングでの「予習」なんかてんで役に立たないときもけっこうあって、結局、臨機応変に動ける奴が生き残るのだ。


 「――以上の報告から、現地ではゲリラは孤立していて、かなり切迫しているであろうこと、その心理から自爆も辞さぬ攻撃に出る可能性が指摘できます」


 立ち上がってスライドで説明していた黒島が、椅子に座って眼鏡を押し上げた。宇津木は、ささっとスライドのために落としてあった照明をつけた。新米の仕事だ。


 「では、最後に質問やコメントなど…」


 司会は、村田コマンダーだ。宇津木や黒島とは訓練校の同期だった。エース級の戦果を上げるタイプではないが、地道に堅実に実績を積み上げ(=生き残り)、今年からコマンダーに昇任した。

 しばらく凪いだような会議室を見て、すっと黒島が手を挙げる。


 「黒島班長、どうぞ」


 村田に指名されて、黒島が立ち上がった。さらりと落ちる黒髪を片方の耳に掛ける。居眠りしてる奴、ゲームに夢中な奴、カノジョとのチャットに勤しんでる奴、後ろの席の奴と話し込んでる奴、早々に分厚い資料をゴミ箱に放り込む奴等々を睥睨し、報告原稿を挟んだクリップボードを会議机に叩きつけた。スパアアァァン!!と着弾にも似た破裂音が響き渡る。兵士の性か、会議室中の連中がビクリと反応し、黒島を見つめた。頬に走る凄惨な傷跡に息を呑む。


 「見ていると、無駄に弾を撒き散らして自殺したい奴が多いようだな」


 冷ややかな中低音が響く。


 「何のために、合同でブリーフィングをやるか、判っているのか?まさか、点呼に応えたら後は自由時間だと思っているんじゃあるまいな?俺達は、貴様らがきっちり戦果を上げて生きて帰ってこられるように、事前にわかる情報を全て教えてやりに来ているんだ。説明はちゃんと聞け、必要な箇所にはメモを取れ。コマンダーが時間を取ってくれてるうちに、判らないところはきっちり質問しろ。言いたいことは後ろの奴じゃなく、こっちを見て言え」


 来た、来た。宇津木が隣の席で苦笑いを浮かべる。


 「今日の俺の親切な重要ポイント解説を聞いていなかった奴は――9割方そうだな?この資料を持って帰って、作戦に入る前に自力で全部読め。死にたいなら、部隊を巻き込むな。勝手に自室で首でも括れ!」


 「後で、読んでおいてくださいね」の一言をここまでネチネチと感じ悪くするのは、もはや黒島の才能だ。言い草と同時に、鋭い眼光から噴き出す威圧感は、コマンダー以上の迫力である。


 「…情報部門からは以上だ」


 ドサリと席に着き、眼鏡を押し上げて、フーッと忌々しげな溜息をつく。すっかり威圧されて顔面蒼白で固まっている村田に、宇津木が口元に手を当てて小声で呼び掛けた。


 「コマンダー、村田コマンダー!ウチのはんちょー、そろそろカラータイマー点滅してるんで、5時前に締めてもらえませんかね」


 「は、え、カラータイマー??」


 レトロすぎて通じなかったようだが、とりあえず村田を解凍させることには成功した。


 「あー…、諸君。黒島班長のおっしゃる通りだ。このブリーフィングも作戦の重要な一部だ。資料をちゃんと読んでおくように。以上。解散!」


 16時58分。黒島が眼鏡を外してジャケットの胸ポケットにしまう。眼鏡は右目を失明して以来、左目の負担をカバーするべく使っているが、未だに鼻骨に物が載っている感覚に慣れられない。パソコン画面や書類は眼鏡がないと若干見え辛いので、業務中は仕方がないが、17時以降は、パソコンも書類も一切見ないことにしている。

 はらりと艶やかな黒髪が滑り落ち、頬の傷をそっと隠す。象牙のようになめらかな肌に映える、くっきりとした鼻梁。病変した碧白い右目に長い睫毛が影を落とす。隣の席で書類をまとめていた宇都木が、ちらりと見遣った。訓練校時代、ビッチの悪名を轟かせた美貌は今も健在だ。

 17時。書類をまとめている黒島のスマホから、エディット・ピアフ版「愛の讃歌」が鳴り響いた。妻専用着信音だ。素早くジャケットの内ポケットから取り出し、肩で挟んで受ける。


 「春陽?――ああ、今ブリーフィングが終わったところだ。近くにいるか?――トレーニング・ルームだな。書類を片付けたらすぐに向かう。一緒に帰ろう。――ん?…ああ、春陽…俺もだ。愛している」


 書類をまとめ終わり、肩からスマホを取って、チュッと送話口にキスを一つ。優美な手つきで通話を切る。その表情は幸福そうに艶めき、ほんの3分前までの威圧感が嘘のように、異彩の瞳が色香を湛えた。もう、こうなったら、絶対帰る。決済印ひとつ受け付けない。宇津木が研修の1ヶ月で学んだことだ。


 「――宇津木さん、宇津木さん!!」


 会議室を出た宇津木の後を、兵士の一人が追いかけてきた。


 「おー、米田、久しぶり。見舞い、ありがとな」


 部隊は別だが、現役時代にトレーニング・ルームで意気投合した。伝説級の歴戦の猛者だった宇津木に心酔し、弟分を自称している。


 「なんなんスか、あのチビ眼鏡。なんか、異様っつうか…」


 「はは、ウチのはんちょーは怖えぞ。ちゃんと資料読んどけよー」


 「はぁ…」


 納得のいかない顔だ。米田としては、伝説の宇津木が、女のように小柄な眼鏡君をホイホイとサポートしていたのも面白くない。


 「…お前、“W部隊の毒蛇”って聞いたことあるか」


 「W部隊!宇津木さんのいた…?」


 1年前の作戦で壊滅するまで、W部隊と言えば、泣く子も黙る最強部隊だった。


 「おー。黒島はな、2年前に退役するまで“毒蛇”の異名で知られてたのよ。W部隊の強みは接近戦だったんだがな。あいつの剣は、フランベルジュっつって、蛇みたいに刀身がうねってるやつでな、そいつで斬られると切り口の組織がグチャグチャになって傷の治りが異様に遅いって言うえげつない剣で」


 米田がゴクリと唾を呑んだ。


 「そこにさらに毒、仕込んでな」


 「じゃぁ…あの頬の傷も」


 「おう、男の勲章よ」


 米田が神妙な顔で頷いた。


 「ま、そんなわけだ。あの迫力は伊達じゃねぇってことな。ちゃんと前線も知った上で言ってるんだ」


 パフパフと米田の頭を撫でた。


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 オフィスに戻ると、黒島がいそいそとファイリング中だった。かなり電子化されてはいるが、やっぱり最後に頼るのは紙だ。


 「よ!新兵並みの説教、ごくろうさん」


 「まったくだ。教育部隊はどこだったか、小一時間、問い詰めたいな」


 「…お前、退役前は頬の傷、けっこうガチで隠してなかったか?」


 ふと、宇都木が思い出したように尋ねる。


 「ああ、晒すようになったのは情報部門に移ってからだな」


 「へぇ。どういう心境の変化?」


 「心境じゃない。戦闘部門の連中とやり合うときには、見せつけておいた方が話が早いとわかったからだ」


 確かにあの傷跡と苛烈な剣幕を見せれば、間違っても、ただのひ弱なガリ勉だなどとは侮られない。


 「戦闘でついた傷ではないがな」


 訓練校にいた時分には、すでにあった。


 「ふは。その辺り、若けぇ奴に、ちょっと話盛っといてやったぜ。明日にゃ広まっているはずだ」


 「…余計なことを」


 黒島がトートバッグを肩にかけながら、悪戯小僧のように笑う宇津木に、呆れたように溜息をつく。


 「なァに、“潤滑油”ってやつよ。そんじゃ、春陽女史に、よろしく」


 「ああ」


 黒島は、足取りも軽くオフィスを出た。


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 U.B.セキュリティ・サーヴィス社のビルには、食堂、ジム、プール、射撃場、シャワールームといった設備が備えられている。基本的には、戦闘部門のためのトレーニング施設なのだが、空きがあれば、情報部門や事務部門のスタッフでも利用可能だ。情報部門でも、諜報班の連中は実戦訓練が必要だし、それ以外の情報解析班や科学解析班でも、稀に作戦地に赴く場合もあるので、自分の身を守る程度のトレーニングは推奨されている。


 トレーニング・ルーム前のソファで、女が幸せそうにスマホの送話口にキスをして通話を切った。桜色の豊かなロングヘア。翡翠色の瞳。愛くるしい美貌と伸びやかな肢体は、ファッションモデルも顔負けだ。長い脚を組み替えると、明るい春の花を写し取ったようなワンピースの裾が揺れた。黒島・寺岡・春陽。乙女チックな容姿や言動からは、とても考えられないが、戦闘部門でトップクラスの戦績を誇るT部隊を率いるコマンダーである。


 「コマンダー!」


 3人連れの女性兵士達が、声をかけてきた。春陽の部下達である。


 「見てましたよ~。電話のお相手は、旦那様ですか?」


 悪戯っぽく問いかけられる。


 「うふ!そうなの!ここで待ち合わせて一緒に帰ることになったのよ♡」


 「はぁ~。ラブラブだぁ…」


 「コマンダー、いいなぁ。私も早く結婚したーい!」


 春陽の笑顔に、女性兵士達がどっと笑み崩れる。T部隊は、コマンダーの人柄を反映して明るくカジュアルなのが特徴だ。もちろん、すべき事はちゃんとできるコ達である。


 「春陽!」


 廊下の向こうから声がかかる。


 「芭蕉さん!」


 黒島が広げた腕に春陽が飛び込み、ひしと抱き合った。春陽の薔薇色の唇に黒島の唇が重ねられる。


 「髪を結い直したのか?」


 黒島がそっと、春陽の髪を撫でて尋ねた。朝は、いつものポニーテールだったはずだ。今は、上半分の髪だけを後ろで留めてハーフ・アップにしている。


 「ええ、トレーニングの後、シャワーを浴びた時に…。可笑しくないかしら?」


 「大人っぽくて素敵だよ。きっと街の明かりに映える」


 春陽が頬を染めた。春陽の部下達も、タハハ…と顔を赤らめる。さすが、コマンダー夫妻。


 「…いい匂いがする」


 黒島の手が、春陽の髪に差し込まれ、優しく梳いた。


 「あ!わかる!?新しいシャンプーを試してみたの!」


 春陽の顔が、ぱっと輝く。


 「ああ、瑞々しくて夏らしい香りだ」


 ふふ、と春陽が、黒島の腕の中で笑みを浮かべた。


 「それじゃ、コマンダー、私達、これで失礼します!」


 「ゴチソウサマ~!」


 じゃあね、と軽く手を振って、笑いさざめく部下達を見送る。


 「…あれでは、まるで女子大生だな」


 黒島が微かに眉をひそめた。


 「あら、作戦の時は指揮系統の遵守でガチガチに緊張しているんですもの。間のお休みの時くらい仲良くしなきゃ」


 戦闘部門は1つ作戦を終えたら、間に2週間ほどのインターバルが取られる。その間はトレーニングなどをこなして過ごすのだ。


 「君は、優しいな」


 黒島が春陽の手を取り、ちゅ、と軽く口づけた。朝とは打って変わったような艶やかな姿に気持ちが高まる。


「せっかくの素敵なソワレ姿だ。今日は寄り道して外食にしようか」


「デートね。素敵!」


 おそらくU.B.セキュリティ・サーヴィス社随一の熱愛を誇る二人は、そのまま腕を絡め合って、エレベーターに向かった。


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 「か~ッ、暑っちぃな!」


 宇津木がTシャツの襟元をバタバタして風を送る。


 「おっ、うっちゃん、毎度!扇風機の前、空いてるよッ」


 屋台のオヤジが愛想よく応えた。宇津木と颯のお気に入りの屋台だ。夕食の時分になると、ビルの合間の路地に露店を開く。特に美味いのはカオマンカイ。鶏肉を茹でて、その出汁で炊いた飯に茹で鶏とタレを乗っけて食べる。簡単なタイ料理だ。

 数年ほど前から、個人が事業を興しやすいように規制が大きく緩められ、小さな屋台が増えた。多くは失業した後の再挑戦だ。もちろん、全員が上手くいくわけではないが、多少の失業対策にはなっているのだろう。たいていは値付けも安く、不安定な有期雇用を渡り歩く庶民の胃袋を満たしてくれる。


 「宇津木さーん、ビールも飲む?」


 いつものカオマンカイを注文する颯が、デカい工業用扇風機前の席をキープした宇津木に振り向いた。


 「おお、頼む!」


 ビルの間を吹き抜ける熱風。屋台の前を照らす工業用照明。プラスチックのテーブルセット。行き交う人々、食事をかっ込む人々の人熱れで街自体がむっとした熱を孕んでいるようだ。宇津木達は、安い屋台で食費を切り詰める必要などないが――むしろ、高給取りな方だ――祭のような街の熱気を味わいたくて、時折ふらりと食べに来る。


 「颯ちゃんさ、サプリとか興味ない?」


 夫とともに屋台を切り盛りするオバチャンが、注文を終えた颯を捉まえた。


 「サプリ?どんなの?」


 いつだって健康情報は、家族の健康を支えるシュフの関心の的だ。U.B.セキュリティ・サーヴィス社戦闘部門を半年前に退職して以来、専業主夫として宇津木を支える颯にとっても重要な関心事である。


 「これね、全部天然素材でできてるの。効果はいろいろ種類があるんだけど…、若いカップルならさ、これなんかどう?マカとスッポンのサプリ!特に男の強壮用に最適なゴールデン・バランスで配合されててね、サポート成分として黒ニンニクと卵黄油も入ってて…」


 あ~アッチの強壮剤かぁ…。颯が苦笑いする。宇津木には、まず要らないだろう。元気すぎて困るくらいだ。


 「んー、今は要らないかな」


 婉曲に断られたオバチャンだが、凹まないのがオトナの女だ。


 「そうお、じゃぁね、パンフレットあげるから!気になったらいつでも言って!」


 手に押し付けられたパンフレットをひらひらさせて、颯が席に戻ってきた。


 「ふぅん?何だ、そりゃ…」


 宇津木が手を伸ばす。意外に思われがちだが、活字は読まずにいられないタチだ。

 海や空を思わせるような、鮮やかなブルーの背景に、揃いの瓶が並んでいる。効能や成分などを読んでも、ごくありふれた製品に見えた。


 「エシカル・リビング…」


 パンフレットをひっくり返すと、販売元が書かれている。


 「こいつぁ、アレだぜ。マルチ商法」


 宇津木が声を潜めた。ネットワークを頼りに、客を売り手として集めて、高値で卸す。あとは売れようが売れまいが客の責任。そこで利ざやや上納金を稼ぐビジネスだ。エシカル・リビング・グループもそういった類いのビジネスではないかという話がちらほら出てきている。


 「ん…、聞いたことある」


 颯が、ビールをこくりと一口して頷いた。オバチャンもハマってしまったのだろう。先をも見えぬ露店商売。何かしらサイドビジネスを、という気持ちはわからないでもない。


 「見守るしかねぇやなぁ…」


 この美味いカオマンカイが、失われなければいいんだがな。


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 宇津木と颯の住まいは、U.B.セキュリティ・サーヴィス社の社宅だ。見た目と設備は瀟洒なアパルトマン風だが、自社の商品テストも兼ねて、監視カメラから生体認証システム、防弾ガラス、いざというときには自社の建物警備サービスと直結するなど、セキュリティ万全である。特に、前線に出る戦闘部門のスタッフは復讐で狙われる可能性もあるので、セキュリティは強固なのに越したことはない。


 「あ~っ、颯君!待って、待って!」


 二人がエレベーターに乗り込んで扉が閉まろうというときに、パタパタと走り寄る軽やかな足音。慌てて開ボタンを押して待つ。


 「は~、間に合ったぁ」


 春色の女性が嬉しそうに微笑んだ。


 「春陽、走ると危ないぞ」


 黒島が後ろについて乗り込む。春陽と颯は、同じ社宅の奥さん同士(?)仲が良いのである。


 「春陽ちゃん、久しぶり~!」


 「颯君も!」


 お互いの両頬を擦り合わせてビズーを交わす。もともと欧米や、その影響の強いフィリピンなどの風習だったが、日本社会の多国籍化にともなって、特に女性同士での挨拶として定着した。男性にはあまり広まっていないが、4人の姉たちに揉まれて育った颯にとってはお馴染みの挨拶だ。

 黒島が複雑そうな目を向ける。颯が宇津木のパートナーなのは知っているが、ゲイったって男じゃないか…。


 「え~…アレな、他意は何もねぇから」


 宇津木がフォローした。


 「そうだろうな」


 頭では分かっている。分かっているのだが、黒島は嫉妬深いのだ。他の男が春陽の薔薇色の頬に触れているなど、精神衛生上、よろしくない。


 「あのね!これ、颯君にあげようと思って買ってきたの!」


 春陽が、黒島の持っていた二箱のうちの一箱を颯に差し出す。


 「え?何コレ、やったぁ~!マンダリン・ラウンジの季節限定ケーキ!」


 「そ~、今日お食事に行ったら、二箱だけ残ってたの。私はデザートビュッフェで食べたけど、颯君、絶対好きな味だと思う!!」


 きゃっきゃとスイーツの話で盛り上がる二人。颯は、やたら女性と仲良くなるのが上手いのだ。可愛い弟に見えるのかもしれない。


 「おーい、颯。12階に着いたぞ」


 宇津木が声をかける。


 「はーい。じゃあね!また!黒島さんも、おつかれさまでーす!」


 颯が明るくバイバイしてエレベーターを降りた。主夫業も板についてきたものである。


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 シンク台の前で、颯が、そっとケーキ箱を開けて一つ頬張った。一口サイズの、きらきらと綺麗なケーキ達。目ざとく宇津木が見つけて、後ろから颯の腹に手を回す。


 「ダイエットするって言ってたんじゃねぇのか?」


 3日ほど前に聞いた気がする。


 「…1個だけだもん」


 ぷう、と尖らされた唇が愛らしい。思わず、宇津木が口づける。仄かに甘苦い柑橘の味。食べたのは夏みかんのケーキなのだろう。唇をれろりと舐めれば、まだ夏みかん味が楽しめる。唇を丁寧に舐め、口中に侵入する。


 「ん…ふっ…」


 颯の好きな上口蓋を舐めてやると、唾液が溢れてきた。


 「…はぁ…宇津木さん、だめ…」


 せっかちにも、颯の下衣のなかに侵入を試み始めた宇津木を押しとどめる。


 「だめなわけあるか。いっつもそう言って10分後にはアンアン好がっているだろうが」


 デリカシーもへったくれもない。


 「ちょっとシャワー浴びようよ。帰ってくる間にまた汗かいちゃったじゃん」


 意外に冷静な調子で返されて、今度は宇津木が口をとがらせた。愛おしい颯を、とにかく早く抱きたい。素肌に載せられたコットンシャツの襟元からのぞく鎖骨、デニムに包まれたすんなりとした脚、引き締まった小ぶりの尻、宇都木なら手だけで囲ってしまえそうな細腰。街の雑踏を照らすネオンに映える白い肌、愛くるしいのに、どこか仄暗く愁いを含む瞳、艶やかな唇…。とにかく毎分毎秒煽られて、やっとこさ帰宅したのである。


 「そんな顔しないで…一緒に浴びよ、ね?」


 颯が上目遣いとともに、つつ、と宇津木の腹斜筋を指でなぞった。明らかにあざといが、なんとも小悪魔的で、宇津木が密かに気に入っている表情だ。これを出されれば、ご機嫌を直さざるを得ない。おとなしく浴室に向かう。




 一人で浴びるときにはどうなのか分からないが、颯と一緒にレインフォールシャワーの下に来ると、宇津木は必ず滝行の真似をする。なんだかお気に入りのジョークらしい。颯は、ちろりと眺めるだけのこともあるし、一緒になってはしゃぐこともあるが、どちらにしろ、宇津木さんのこんな子どもっぽい、間抜けな顔を知っているのは俺だけなんだよなぁ、なんて、ちょっと悦に入ってしまうのだ。

 シャワーが宇津木の身体を流れ落ちる。上背があるのはいつものことだが、胸筋とか背筋とか頼もしい感じで、腹筋も6つに割れている。三角筋も上腕二頭筋も盛り上がって…あれ?


 「…宇津木さん、なんか逞しくなった?現役の頃みたい」


 ここ1年ばかり、療養生活でトレーニングどころではなかった宇津木は、少し線が細くなっていたのだ。


 「…ああ。出勤できるようになってからトレーニング・ルームに行ってんだよ」


 「ふぅん?情報部門って、そんな筋肉要る?」


 ――資料整理でファイルを大量に運ぶとか?


 「要らねぇよ?要らねぇけど、日がな一日パソコンの前に座ってっとキモチ悪りぃんだよな、逆に」


 颯はあらためて、宇津木の身体を眺め回した。筋肉の付き方は人によって違っていて、同じように鍛えていても「仕上がり」は随分違うものだ。宇津木は、だいぶんガッシリとした筋肉がつく方なのだが、背が高いせいか全体に均整がとれてて、彫刻のように綺麗な印象なのだ。だいぶん立派な男のシンボルも、その印象を崩すことなく纏まっている。


 「うーん、やっぱり、今の方が宇津木さんって感じ!」


 颯が抱きついて、逞しい胸筋に頬ずりした。


 「こんにゃろ…覚悟しろよ」


 宇津木が、照れ隠しのように颯の頭をわしゃわしゃして、バスローブを羽織った。


 ――俺が、あいつらに申し訳ねぇと思うのは、今が幸せすぎるからかもしんねぇな…。

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 昏い天井に松明の火影が揺れる。ドコドコと高まっていく太鼓の音。大人達が黒島の手足を持って祭壇に押さえつける。視界がぐらついて仕方がない。写真のショットを重ねるように細切れになる光景。うねるような旋律を持った祈りの声だけがやたらと鮮やかに聞こえる。何かが覆いかぶさってきて――…


 ヒグッと喉が締まるような声を立てて、黒島が飛び起きた。目に飛び込んでくるものを確かめる。クローゼットに続くドア、常夜灯代わりの仄明るいテーブルランプ、コンソールテーブル、小さなスツール、きちんとリネンをかけたベッド。清潔に整えた、趣味のいい寝室。自身を抱きしめるように肩を掴み、はぁはぁと、荒い呼吸を整える。今、俺がいるのは、あの昏がりの中じゃない。もう大人で、隣には愛する妻もいて…。

 酷く汗をかいていることに気がついた。シャワーでも浴びて、ついでに気分転換しよう。黒島がそろりとベッドを抜け出し、浴室へ向かう。


 湯が黒島のなめらかな肌を流れ落ちる。温かい湯温を感じていると、だんだん、現実感が戻ってきた。するり、と自らの肌に手を滑らせる。しなやかな首筋、意外にしっかりとした胸筋、一見薄い腹の中はガッチリとした腹筋で守られている。くびれを描く細腰に、引き締まった尻。服の上からは華奢に見えるが、黒島の身体は鍛え抜かれている。宇津木のように筋肉が大きく張り出す方ではなく、歪みのない美しい骨格全体をしなやかな筋肉が覆っている。小食なので余分な脂肪がなく、研ぎ澄まされた硬質な印象だ。情報部門に移ってからも鍛錬を欠かしたことはない。――この身体は俺のものだ。俺が決めた女に捧げたんだ。今なら抵抗できる。あの頃とは違う――。呪文を唱えるように胸の中で呟く。

 

 浴室からベッドに戻ると、春陽が心配そうな顔で身を起こしていた。


 「芭蕉さん…また、あの夢見たの?」


 「ああ、すまない…。起こしてしまったな」


 微笑みを作って、春陽にキスを一つ。ベッドに潜り込むと、春陽が黒島の寝間着の中に手を滑り込ませた。その手を優しく握って、押しとどめる。


 「…いけない。君は明日から海外作戦だろう」


 黒島の悪夢が、セックスで紛らわせるのが手っ取り早いのは確かだが、睡眠はきちんと取らせてやりたい。


 「そんなの…、芭蕉さんが苦しんでいる隣で安眠はできないわ」


 春陽がいっそう心配げに眉をひそめる。


 「いや、大丈夫だ。薬も服むから」


 サイドテーブルの引き出しから、処方された頓服薬を出して、口に放り込む。正直少しばかり効くかどうかという程度の効果なのだが、許容量めいっぱいで、これ以上は出せないのだそうだ。その強情な姿を困ったように眺めていた春陽が、そっと黒島の頭に手を伸ばす。


 「…じゃぁ、こうして寝ましょ。お歌も歌ってあげる」


 豊かな乳房の上に、黒島の頭を搔き抱いた。柔らかな感触に包まれて、黒島は大きく深呼吸した。微かに甘酸っぱい匂いがする。しばらく何も考えずにその感触に身をゆだねていたが、小さく歌っていた子守歌が途切れたので顔を上げると、春陽はもう、すやすやと寝入ってしまっていた。

 

 ――君が安らげる家庭を作るだなんて言っておいて、いつも俺の方が君の優しさに甘えっぱなしだ。


 昼間、部隊を率いて命を預かるコマンダーの仕事だけでもいっぱいいっぱいだろうに、夜は夫を気にかけ、慰めようとする。2歳年下の春陽に敵わないと思ってしまうのは、こういうときだ。


 柔らかな乳房に頬ずりをして、黒島も目を閉じた。


===================


 宇津木が出勤すると、黒島がすでにパソコンの前で何やら調べていた。


 「うっす、早いな」


 コーヒーを飲みながら、黒島が眼鏡越しに、ちらりと目線を上げた。


 「今日は春陽――寺岡の出発が早くてな。俺も一緒に起きたついでだ」


 「あっそォ、海外作戦?」


 「まぁな。俺達も今日から新しい作戦に入る」


 「ん?村田ンとこは、どうしたよ」


 「ニュースくらい見ろ。昨日の深夜に、作戦対象のゲリラが、現地の首相官邸に立てこもって集団で自爆したそうだ」


 「あー…昨夜はパコるのに忙しくて、もーしわけありませんねぇ。…作戦が一足遅かったってことか」


 ある意味では、情報解析班の見立て通りだ。だが、タイミングを読み誤った。


 「まぁ、作戦のタイミングは、あちらの軍部の指示だからな。我々に責任はないが…。少々ゲリラ内部をつなぐ家族主義の影響を過小評価していたかもしれんな」


 村田のM部隊が入るはずだった作戦は、現地の軍部との共同作戦だった。まずM部隊がアジトに突入してゲリラを無力化する。その上で、現地の軍が入ってきて後処理を行う。突入くらい自力でできないのか…ということではなく、単に国軍の兵士を死なせたら、後が大変なんである。今やどこの軍隊でも兵士を募るのは一苦労だ。情報化も進んだ現在では、カッコイイ夢と名誉さえ与えておけば若者が集まるなんてわけにはいかない。どれほど馬鹿馬鹿しい理由でドンパチしているのか、死亡率がどのくらいか等々ちょっと調べれば分かってしまう。それをカバーするために、一生を通しての好待遇を保証し、奨学金をつけて高等教育を受けさせるなどして養成に金をかけているのだが、それで戦死されては勿体ない。それに補償金・遺族年金の出費は増えるし、世論は厳しくなるしで、イイコトは何もない。それで、死亡率の高い斬り込み役を民間に委託してしまおうというわけだ。つまりは、U.B.セキュリティ・サーヴィス社も銃を構えた人材派遣業ということである。


 「で、新しい作戦は?」


 宇津木も、マグカップにたっぷりとコーヒーを注ぐ。


 「J部隊とチームを組む。石油化学大手の“倉田化学”にテロ予告が入ってな、それを防ぐ作戦だ」


 「J部隊…ジョンソンさんとこか」


 「ああ。あっちの兵士は少し躾がいいから、余分なイライラはなくて済みそうだな」


 ジョンソン・コマンダーは、身長2メートルを超す巨漢で、浅黒い肌と鋼のような肉体の持ち主だ。スキンヘッドの下の眼光は鋭く…と行きたいところだが、意外にくりくりとした丸い目に丸い眼鏡をかけている。元は米軍の海兵隊に所属していたが、配属された日本でマンガ・カルチャーにハマり、定住するべくU.B.セキュリティ・サーヴィス社に転職してきたという変わり種である。部下も揃ってやや文化系寄りなので、奇跡的に情報部門とは仲良くやっているのだ。


 お昼後に、第3情報解析班内のミーティングが開かれた。といっても3名しかいないので、だいたいお喋りで情報は共有済みなのだが、漏れがないよう、あらためて確認し合う。


 「“倉田化学”にテロ予告が来たのが昨日。近く行われる、新製品発表のレセプション・パーティーを潰すという予告だ。差出人名は“ジ・ワン”」


 「はい。午前中で、ざっと調べてみましたが、現在、“ジ・ワン”――英語の“the One”ですね――を名乗るグループはネット上には見当たりません」


 ITに詳しい森井が発言する。たいていのテロリストには何かしら大義名分があるので、インターネット上にそれを主張するためのサイトやチャンネルを持っているものだが。


 「“ジ・ワン”は、過去にテロ事件を起こしている。そのときに徹底して叩きつぶされたはずだ」


 宇津木の言葉に、森井が、え、そうなんすか、と顔を上げる。


 「おう、俺もまだ訓練生だったが、10年くらい前か。ニュースで大騒ぎだったぜ」


 「残党が、ネットは使わずに集って活動を再開した可能性があるな」


 黒島が指摘する。


 「えーっ、どうやって人集めるんですか、ソレ」


 高校・大学を飛び級で卒業したのに研究業界に入らず、コッチに来てしまった森井は、まだ19歳である。ITについては専門家だが、社会生活の機微は想像もつかないようだ。


 「そりゃぁ、いろいろあんだろ。具体的に顔合わして声かけ合って…、あと、電話とかメールとかな。――それより気になるのは10年も経ってから雪辱戦するか?ってとこだ。中途半端なんだよな、やれるならすぐやりたいだろうし、警察の監視が解けてからってんなら、もう少し時間がかかる。その間にメンバーはどんどん老いぼれてくしな」


 具体的な個人は有限の存在だ。体力もネットワークも、想いさえも移ろっていく。


 「無関係な何者かが、同じ名を騙って活動し始めた可能性もあるということか…」


 偶然かもしれないし、かつての「ジ・ワン」のことをどこかで聞きつけてオマージュを捧げているのかもしれないが、その場合、過去の事件から傾向と対策を引き出す手が通じづらくなる。


 「とりあえず、両面で情報収集しよう。森井は、電話会社から電話・メールのやり取りデータを提出してもらって解析しろ。手続きは総務の人間に聞け。以前のようにマニュアルとにらめっこして一日潰すなよ。――俺と宇津木は、かつての“ジ・ワン”の雪辱戦と仮定して、過去の事件の資料から傾向と対策を掴む。あとは、雪辱戦をしそうな奴と結節点の割り出しだ」


 「ケッセツテン?」


 黒島の指示に、森井が首をかしげた。


 「おう、人と人を結びつけるポイントになるような場所や人間のことよ」


 宇津木が解説してやる。座学の教養科目で習ったろ、と言いかけて、コイツは単位認定でスキップしたかもしれない、と思い至った。


 「ミーティングは以上だ。明日16時に、見通しを報告しろ」


 「うーっす!」


 宇津木が一人で元気にお返事してしまうのは、戦闘部門の癖だ。森井の奴はメモを取っていたタブレットを閉じて、すーっと席に戻ってしまった。


 ――まァ、するべき事やってりゃ、それでいいんだろうけどよ…。


 宇津木には、未だに馴染めなくて、ぎょっとしてしまう。


 「そういや、警察の方は関わってねぇのか?」


 宇津木が、立ち上がった黒島を振り返る。一般企業に脅しが来たなら、すぐに持っていく先は警察だろう。


 「警察は、イタズラとの見方だそうだ。“倉田化学”の方で、それでは納得がいかなくてウチに依頼が来たということらしい」


 「警察の判断の根拠は?」


 宇津木が重ねて確認する。初手ではあらゆる可能性を考えておいた方が良い。「倉田化学」側の取り越し苦労、という線も含め。


 「それは、“倉田化学”か、警察に聞かんと分からんな」


 元・戦闘部門の二人の担当は、足で稼ぐ調査になりそうだ。宇津木が、ぐーっと伸びをした。


 ――ありがてぇ。日がな一日ディスプレイ画面とにらめっこだなんて、まっぴらだ。


 情報部門のミーティング・スペースは、見晴らしの良い窓際にある。見下ろす街は、ぎらぎらと昼下がりの陽光を反射し、蜃気楼の中に浮かんでいた。




―つづく―


 

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