後悔
まんまる丸
視線
初めて抱き上げた時、確かにこちらを見ていた。
私も、見ていた。
可愛くて仕方がなかった。
何をするのも一生懸命で、
小さな変化すら愛おしくて、
何でもかんでも肯定し褒めた。
一挙手一投足全てが面白くて、
一日見ていても飽きなかった。
宝物だった。
その言葉に嘘はない。
すっかり錆びてくすんでしまったが、
確かに宝物だったのだ。
いつからだろう。
私は面倒を見なくなった。
夢を否定し、
話に頷くこともなく、
社会が気まぐれに渡した定規で宝物のあれこれを測り、
長い短いで価値を決めるようになっていった。
一方私はただただ自分の人生をひた走っていた。
理不尽と戦っていた。
認められない自分が悔しかった。
必要とされない自分が悲しかった。
珍しいことでも何でもない。
育てている花に水をやり忘れただけ。
飼っている動物に餌をやり忘れただけ。
それが毎日毎月毎年と続いただけだ。
忘れていることすら忘れただけだ。
見る影もなくなった宝物と再会した時、
私はどうにかして隠す方に必死になった。
こんなものは宝物ではない。
恥部。汚点。恥晒し。
私の人生の足を引っ張る足枷。
捨てられないごみ。
私はますます顧みなくなった。
全てが終わる少し前のある日。
私は私を呼ぶ弱々しく鳴く声を、
日々の雑音の中で確かに聞いた。
私は私を求めて這う蔦を
目まぐるしく変わる日々の中で確かに見た。
私は、見て、聞いていたのだ。
砕け散った宝物を見た日、薄情にも涙は一滴も出なかった。
私はただただ破片を集め、再び日常に戻ろうとしていた。
引き止めたのは手紙と写真。
手紙は私のことを大好きだと無邪気に書かれた拙い絵付きの厚紙の画用紙で作られたもの。
私は写真を手に取る。
写真には生後間もない我が子を抱き上げる私が映っていて。
我が子は私を奇妙そうにじっと見ていた。
私も、見ていた。
すっかり色褪せたそれを、いつまでもいつまでも泣きながら、見ていた。
後悔 まんまる丸 @manmaru_hishou
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