リトライ! 〜異世界に転移したからには今度こそ最高の人生を!〜
白井夢
プロローグ
蒸し暑く、雨や晴れが交互に続くような、そんな夏の日。
その日も雨で、硬い地面はまるで悲鳴を上げているかのように鳴いている。
まるで僕の心を映し出しているようだ。
雨音が響く昼下がりの教室。
僕はそこにいた。
終業式後の教室には彼の他にも五人の生徒が集まっていた。何かを話している。が、それは夏休みの計画なんていう楽しげなものではなかった。
僕の机を囲むように並んだ彼らはニヤケ面をしながら、その様子をスマートフォンで撮っていた。
「あ〜あ。夏休みが始まっちゃったらもう会えないじゃないか」
普通の学生が言う言葉と、なぜこうもドス黒い違いがあるのだろうか。
彼らはうつむく僕の顔をペシペシと叩きながらそう言う。
「だ、か、ら、今日の今のうちにいっぱい楽しもうな」
ブレザーを脱ぎながらシャツのボタンを緩め、大柄な一人の男子生徒が僕に寄ってくる。
昔。僕は高校生活に夢を抱いていた。
ただ、それは遠い昔に過ぎ去った高校生活をもとに作られた大人達のエゴによる創作を見ていたからだ。
実際の学校はストレスや後悔、不満の捌け口となり、淀んだ空気で埋め尽くされている。
そのせいか歪んだ性癖を持った子供達が生まれるのだ。
そしてこの子はどんなに可愛い子や胸が大きい子よりも、人を痛めつける行為自体に興奮を覚えるようになっていたのだった。
「や、やめてよぉ〜」
ヘラヘラと笑いながらも、苦痛に顔を歪める。そんな顔をするたびに彼らの意地悪…、否、いじめはエスカレートしていく。
「うぃ〜。じゃあ今日は的あてゲーム!」
「正ちゃんにはそこに立ってもらって…っと、じゃあ…」
何を言われるのかわからず、言う通りにしていると、彼はニコニコな笑顔で明るく言う。
「脱げ」
「は?」
理解ができなかった。
「流石にいや…」
言いかけた途端
「脱げ」
さっきよりもどすの効いた声で言われ、反論できなくなる。
声色だけはどすが効いているが、顔だけは相変わらずニコニコしている。
僕は恐怖で、心を一杯にしながらも、精一杯の抵抗として笑顔で脱いだ。
彼らはそれを見るとニッコリと笑い、僕の両手足を窓の枠と椅子のポールに結びつけた。
「よし。じゃあ一人五球で顔十点、体五点、乳首二十点、股間三十点な。それじゃあ〜」
笑いながらも涙が出てくる。その顔を見てより一層ニッコリしながら
「スタァ〜ト!」
彼らは勢いよく掛け声と共にボールを投げ始めた。
「ふぅ。じゃあ俺が一番高かったからお金。頂戴」
体や顔にあざができ、よだれを垂らしながらうつむいている僕の頭を鷲掴みにして持ち上げながら彼はそう言う。
動けない僕の頭を縦に動かし、僕の財布からお金を抜いていく。
「まって…それは…」
「ん?それは…なぁに?」
「なん…でもない…よ…」
表情はにっこりしているのだが、反論しようものなら本当に殺されてしまうような。そんな威圧感があった。
「ちっ、しけてんなぁ」
「別にそれでよくね?今日のカラオケ代ぐらいは払えるだろ」
「まぁそうだな。じゃあ正ちゃん。俺達帰るから後片付けよっろしっくねん!」
僕から奪ったお金を握りしめて、彼らは教室を出て行った。
「先生こっちです!」
「ちっ!彼奴等。今度こそただじゃおかねぇ。」
そんなこと言いながら彼らが出ていった数分後の教室。そこに入ってきたのは、うちのクラスの学級委員と女子から人気のイケメン体育の先生だった。
彼らはボコボコになって放置された僕を見ると思わず目を逸らした。
それもそうだ。今の僕の姿はパンイチで、アザだらけ。手足は拘束され、おまけによだれと血と吐瀉物まみれだったのだから。
「だっ、大丈夫か?正運」
数秒の沈黙はあったものの、正気に戻った先生は僕のもとに駆けつけた。縄ををほどきながらブツブツという。
「あんなのもいじめじゃなくてもう殺人だろ。お前も。なんでこんなんなるまで俺らに相談しなかったんだ。」
「先生も分かりますよね。」
ボソリとつぶやく。まるでこの世のすべてを諦めたかのような声で。
ドキッとしたように肩を先生は震わせる。
この先生は今年から入ってきた新米だが、噂だけは聞いているのだろう。
そう。こんなことをしても警察沙汰どころか退学にもならない彼らには理由があったのだ。彼らの親は仕事は違えど、どれもこの町の支配ができるような役職についていたのだった。
あるものは県知事。あるものは警察署長。またあるものはヤクザの組長。
しかも親同士は旧知の仲ときた。いじめなんかで息子の人生を壊すわけにはいかない。
きっとそんな思いで逆らったものは社会的に消されるだろう。そういった噂が立ち、誰も手を出すことができなくなっていたのだ。校長でさえも。
実際に一年前。彼らのいじめに対していち早く対応をしようとした教頭はそのことを上に報告する前に、いきなり行方不明になってしまった。
校長は違う学校に転勤になったと言ったが、みんなは分かっている。そんな一日で転勤が決まり、即決で行くことになることはないということを。
その一件から皆は恐怖を覚え、誰も逆らうことができなくなったのである。
結局、その日は委員長と先生と教室の掃除をし、帰ることになった。
「何かあったらいつでも相談に乗るよ」
帰り際に少し暗い顔をしながらも、そう笑いかけてくれた先生。
「友達だから。力にはなれなくても話ぐらいなら聞けるからね」
高校でできた唯一の友達の学級委員の多田君。
だが、彼らのことを見ることはもう二度となかった。
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