第11話 知らない

 悟が死んだという報告を受けた四人はどん底にいた。もう何もかもがどうでも良くて、只死んだような顔をして緊急で開かれた全校集会に出席していた。


 校長が話す言葉が右から左へと流れていく。


 悟が絶対に生きているという確信がある祥子を除き、ほか四人はどうやってこの先を生きていこうか、いやいっそ悟と同じ場所に行くために死んでしまおうかなんて考えていた。


 いつも泰然自若、皆の模範となるように生きてきた美鈴は、今となっては使い物にならなくなるほど心が弱っており、生徒会役員、先生達から心配され全校集会が終わった後、直ぐに家に帰された。

 

 美嘉は悟の死を受け入れず、家に帰り誰にも見えない悟の幻覚を見始め、ただ壁に話しかける毎日となる。


 可憐は悟との思い出に浸り、悟と行った場所や悟が言ってくれた言葉を心の中で反芻し現実から目を背けた。


 桜は声優業という職に逃げ、辛い現実を受け入れずただ熱心に仕事をすることでその辛さを忘れようとし始める。


 祥子は..............自分の持てる最大を尽くし悟の居場所を特定するのに勤しんでおり悟とまた再会できた時の事をただ考えていた。







「美鈴、大丈夫?ここにご飯置いておくから食べてね」

「..............」


 母親からの声が何処か遠くから聞こえる。今はその声にも返事をする元気がなく、私は頭から毛布を被り、凍えて死んでしまいそうな体、心の奥底から来る恐怖と不安から逃げるためより深く毛布を被った。


 あれだけ望んだ母との仲も前のように戻ってしまうのではないかと考えはしたものの今はそれどころじゃなかった。いつしか心の支えが悟になっていたことに今更になって気づいた。いや、何なら悟の代わりに母が死んでいたら私は辛かったものの立ち直れただろうなんてことまで考えてしまう始末で、私が私を心底軽蔑した。


 こんなことを考える私の方が悟の代わりに死んだ方が良いだろう。どうして神様は悟を殺してしまったのだろうと、別に信じてもいない神にそう恨み言を言った。


 もし私が死んだら悟は心配してくれるだろうか?悟なら心配して私に寄り添ってくれるだろう、私の事を抱きしめて優しく頭を撫でてくれるはずだ。


「悟..............辛いよ、ねぇ、どうして?」


 悟の声が聞きたかった、悟の顔が見たかった、悟にもっと触れたかった、悟の優しい匂いを嗅ぎたかった、悟の優しさに溺れたかった、悟に伝えていない思いがあった。悟がどれだけ自分の支えになっていたのか気づいた。今思えば、悟が私のすべてだった。


 だが、悟にとってはどうだろう?私はどんな存在だったのだろうか?悟にとって私は何なんだろうか?今更になって、私は悟の事を全然知らないことに気付いた。知っている事と言えば好きな食べ物とかそこら辺の話だけで、家も知らない、悟がどんな風に生きてきたのかも知らない、悟がどんな感情だったのか..............私は悟がすべてだが、悟は..............。


 悔しかった、情けなかった、虚しかった、悲しかった、辛かった、考えれば考えるだけ私は、悟の事を知らなさ過ぎた。でももう気づくのにはあまりにも遅かった。どうしてなのだろうか?


 私はそんなに頼りなかったのだろうか?悟に重荷ばかり背負わせていたのだろうか?悟は私の事なんてどうでも良かったのだろうか?悟にとって私は..............

 

「悟..............私、死にたいよ」


 タスケテ。






 


 

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