第13話

真っ暗な王座の間に小さな炎が

均等に並べられていた。


それでも、辺りは暗く、

はっきり前が見えなかった。


王座には、体格のよい悪魔のベリアルが座っていた。


右側には、鉄格子できたかごのような中に

ソフィアが閉じ込められていた。


「ソフィア!!!」


フィンレーが近くに駆け寄ると、

バリアが張られているようで

体が遠くまで吹き飛ばされた。


体が地面にたたきつけられた。


「いったぁー。」


「よく見てから行きなさいよ。」


 スカーレットが言う。

 

「そんなの透明だからわからないよ。」


「フィンレー、スカーレット。

 近くに来てはだめ!!」


「それ、もっと早く言ってほしかった。」


「ごめんなさい……。」


 申し訳なさそうにいうソフィア。


「やっと来たのか。

 お姫様を助けに?」


「仲間を救いに来たんだ。」


「この子を助けてどうする気だ?

 お前も狙っているのか。」


「ん? どういうことだ。」


「この子は、メンフィリア帝国の王女だと

 いうことを知ってて追いかけて来たんだろ?」


「何?!王女?

 そうなのか?」


「……。」


ソフィアは何も言えなかった。


「知らずに来たのか?

 この子は、翡翠の紋章を持っている。

 なんでも望みを叶えられるんだ。

 だから、私が、この子を始末して

 願いを叶えるんだ。

 世界はすべてわたしのものになると!

 はははは!!!」


 あざけ笑うベリアル。

 フィンレーは、剣を引き抜いた。

 スカーレットは、魔法を使おうと剣を振り上げた。

 戦闘態勢になる。


「やめて!!

 みんなやられちゃう。

 攻撃してはダメ。

 カウンターされるから!!!」


 ソフィアの言葉は2人の耳に届かなかった。


 攻撃したものがすべてベリアルの前に

 バリアが張られて、跳ね返ってくる。


 逃げるのが遅かった。

 

 2人の体が傷ついていく。

 HPが半分削れた。


「くっ……どうしたら……。」


 傷ついたお腹をおさえて、体を起こした。


 スカーレットは召喚獣のうさぎのタイムを

 呼んだ。


 時間を止めて、攻撃しようとたくらんだ。


 その様子を見て、フィンレーは、

 召喚獣オピンニクスを呼んだ。


『フェルマーレ!!』


「次はあいつか。」


 オピンニクスは、不敵な笑みを浮かべるベリアルを

 睨みつけた。


 天井ぎりぎりまで飛びあがり、

 急降下で飛んで、風魔法の『切り裂き』で

 攻撃した。


 少量のHPを削ったようだが、手応えがなかった。


 タイムの魔法が解けた。


 通常通りの時間に戻っていた。


「次はこちらの攻撃だな。」


 手を丸く囲むと、炎が集まってくる。

 じわじわと大きな炎に膨れ上がってくる。


胸元に作っていたかと思うと、頭の上に移動させて、

直径20mの大きな炎のボールを作っている。


『ファイヤーコメット!!!』


 フィンレーとスカーレットに向かって大きな

炎が隕石のように向かってくる。

 オピンニクスは、2人の前に立ちはばかり、

 跳ね返そうと口から強い風を吹き起こした。


 一瞬にして、炎が小さくなり、

 反対にベリアルの方向へ飛んでいく。


「なー--にー---??!!」


 体が大きいベリアルは逃げきれず、

 正面から受け止めてしまう。


  HPの3分の1を失った。


「ちくしょう。

 こざかしい。

 これならどうだ!?」


今度は、太陽のように大きな直径50mは

あるのではないかという炎を作った。

スカーレットは、ベリアルが飛ばす前に

氷の魔法を唱える。


『ブリザードボール!!!』


 炎そのものに狙わずにベリアルの両手に

 向かって凍らせた。


 地道に炎を大きくしていたベリアルは、

 手が凍ってしまい、せっかくの炎を飛ばすことが

 できなかった。

 大きな大きな炎は遠くに飛ぶことはできずに

 ベリアルの体そのものが包み込まれてしまった。


「うぎゃぁぁぁあああー---。」


 大きな体の悪魔のベリアルは一瞬にして粉々に

 消えていった。


「…なんだ、ほぼ自爆じゃねぇか。」


「ラッキーだね。

 思ったより弱い?」


「あの炎に当たってたら、終わっていたな。」


「話してないで早く助けてー!!」


「おっと、そうだった。」


 フィンレーは、慌てて、ソフィアのもとに駆け寄った。

 剣を使って南京錠を解いて、手錠のチェーンの真ん中を

 剣でたたいた。


「鍵がないからとりあえず、両手が使えればいいよな。」


「あ、ありがとう。助かった。」


「大丈夫?ほかに何かされなかった?」


 スカーレットがかがんで心配した。

 フィンレーは、体に巻き付いていた

 ロープもほどいた。


「うん。何とか、大丈夫。」


「そういや、さっき、ベリアルが言っていた

 王女様って…翡翠の紋章も持ってるのか?」


「……。」


ソフィアは、首を横に振った。


「王女じゃない。

 私は、王女になった覚えがない。

 絶対なりたくないの。」


「は?

 どういうこと?」


「もしかして、王様の娘だけど、

 王女として生きたくないってこと?」


 スカーレットは、ソフィアの気持ちを汲み取った。


「あんなやり方に納得できない。

 私は、逃げ出してきたの。

 あんな王のいうことなんか聞くものですか。」


「ちょっと、待って。

 翡翠の紋章あれば、

 望み叶えられるんじゃないのか?」 


「私は持ってないわ。」


「嘘だろ。

 あいつ、さっき持ってるって。」


「これと勘違いしたのよ。

 これは、エメラルドの宝石。

 ほら、色は似てるけど違う。

 王家に伝わる紋章だから

 持ってると勘違いしたの。

 あれは、側近の騎士にしか持てない。」


 ソフィアは、

 ブローチの中に入っていたエメラルドを

 見せた。


「これか……。確かに勘違いするかもな。」


「願いは叶えられないけど、

 助けてくれるわよ。」


 ソフィアは、ブローチを外して、天に掲げた。


 目の前にとても美しい精霊が現れた。

 白い服を着て、静かにたたずんでいる。


「ニンフのドリュアデスよ。

 木の精霊なの。

 癒し魔法を使えるから助けになるわ。」


「必要とあれば、汝の力になる。」


「話せるのね。」


「ええ。力になるわ。」


「けがしている……」


 ドリュアデスは、フィンレーの前に立ち、

 顎くいをした。

 緑の光が放つと、瞬時にけがをしていた部分が

 癒されていく。


「ちょ……ありがたいんですけど。

 近いんですが。」


「ごめんなさい。

 彼女、若い男性が好きだから。」


 ソフィアは説明するが、離れようとしない。


「……てか、傷いいから、助けてほしい。」


 ドリュアデスの顔がじりじりと近づいている。 

 スカーレットとソフィアは無視して、

 出口に向かった。


「マジでー--、どうにかしてー--。」


 うれしいような困るような複雑な

 フィンレーの声がこだまする。


 クスクスと笑いながら、

 スカーレットとソフィアは駆け出した。


 

  

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