第11話
後ろを振り向くと、
足元はもう崩れて消えていく。
ねじ曲がった時空の中で、
フィンレーとスカーレットは、
立ちはばかる大きな扉を開けた。
真っ暗な空間に、足を進める。
開けた扉は、バタンと大きな音を立てて
閉まる。
その音にスカーレットはおびえていた。
「追い詰められているみたいで怖い…。」
「いいから、先見れば、気にならない!」
自分に言い聞かせるように言う
フィンレーの膝も多少ふるえていた。
前の見えない真っ暗な世界で、
両手を前に出すと、
硬い黒く大きな壁があらわれた。
「え、いきどまり?!」
「うそ、出口ないの?」
スカーレットも続けて、
おなじ格好になり、
壁をさぐる。
どこを探しても、前も後ろも
壁、壁、壁しかない。
「やだ。無理。どこにも行けない。」
その言葉を発した瞬間、空間がゆがんだ。
スカーレットの目の前にあった壁は、
東西南北のすべてを囲ってしまった。
壁が襲ってきたようだ。
かなり、狭くなっている。
近くにいたフィンレーの姿がない。
「スカーレット! 大丈夫か?」
「なんで、私ばっかり、
こんな目にあうのよぉ。」
泣きながら、発すれば発するほど、
壁は追いかけて居場所を奪う。
フィンレーは、その様子を間近で
見ていた。
なんとなく、仕掛けがわかってきた。
「きっと、大丈夫だ。
安心しろ。」
そう言葉に出すフィンレーの居場所は、
狭くなっていない。
声だけスカーレットの耳に届いている。
涙をぬぐって、立ち上がった。
「うん。わかった。
大丈夫だよね。」
狭くなっていた空間がだんだんと
広くなってきた。
ここは、心の迷路。
発する言葉がマイナスになればなるほど、
行く手を阻む。
反対にプラス思考な言葉を言うと、
進むべき道があらわれる。
言葉に反応するセンサーが
ついてるようだ。
「フィンレー、意味がわかってきたわ。」
「だろ?
んじゃ、話す言葉をもっと明るく。」
「私って、すっごい天才だから。
こんなのへっちゃらだわ。
敵なんて倒してやるわよ。」
さっきまでぐちゃぐちゃに
泣いていたスカーレットは、
強気発言を連発した。
「俺は、世界一強い戦士だ。
俺がやらずに誰がやる。」
強気発言をすればするほど、
道が開けていく。
まっすぐに伸びて、次の扉が見えてきた。
それでも、ちょっと足を進めれば、
底なし沼のような空間に落ちてしまう。
スカーレットは、ごくんとつばをのむ。
怖さは消えていない。
「こ、こんなの落ちるわけがないわ。」
高所恐怖症は、震えながらいう。
「俺はできる。なんでもできる。」
鼻歌をうたいながら、下を気にせず、
とにかく前へ進む。
壁が近づくことはなかったが、
赤く丸い鼻をつけた細長いピエロが
あらわれた。
「あらぁ。おかしいわね。
壁がせまって来たら、
イチコロのはずなのに。
センサーが弱かったかな?」
無重力空間にでもいるようにふわっと
宙を飛ぶ。
指をパチンと鳴らす。
異空間の上から、大きな隕石が
どんどん落ちてきた。
もう、これは、プラス思考に
考えているとか
そういう次元じゃない。
体力勝負で逃げ回るしかなかった。
「なに、これ!! ありえない。
急に戦闘開始なの?」
ジャンプしながら、にげまわる。
「オピンニクス!!」
フィンレーは、剣を振り上げて、
召喚獣のオピンニクスを呼んだ。
上からどんとフィンレーの体に
落ちてきた。
少し負傷した。
「寝起きに呼ぶんじゃない。」
「は?!
あんたが寝起きかどうかなんて
こっちは知ったこっちゃねぇ!
敵があらわれたんだ。戦うんだぞ。」
「ったく…。こっちは体力回復に
寝てたっていうのに…。
は?なんだ、ここは。
異空間だし、時空も乱れてる。
しかも、あれはなんだ?」
オピンニクスは、敵であるピエロを
指さした。周りでは上から次から次へと
隕石が落ちている緊急事態だ。
のんびりしてる時ではない。
「ごちゃごちゃとうるさいわね。
攻撃はこっちが先なのよ。」
ピエロは、また指を鳴らした。
今度は、脇から、何本も槍が出てきては、
こちらにむかって飛んでくる。
容赦ない。
「ちょ、これは危険だ。
あ、まずい。この発言は…。」
そう言っていると、
フィンレーの周りに壁が集まってきて、
身動きがとれない。
ばさばさと飛んできたオピンニクスは、
足で、フィンレーをつまみ上げた。
そのままつかんだ状態で、ピエロに
風魔法を送り込んだ。
髪から、着ている服が飛ばされて、
美意識の高いピエロは、嫌悪感をしめす。
地面におろされたフィンレーは、
剣を引き抜いて、ピエロに切りかかりに
行く。
多少のダメージをあたえた。
遠くにいたスカーレットは。
魔法を使った。
「ブリザードボール。」
雪で覆われた氷をピエロに向かって
投げた。
シャリンという氷の音が響く。
大ダメージを与えたが、
まだ倒れていない。
「やったわね!!」
また指を鳴らした。
今度は、何も言葉を発しなくても、
壁が近づいてくる。
戦いはまだ続きそうだった。
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