第6話 金が足りぬ

「《第2階梯炎魔法:豪火球ファイアボール》」


 レティアの放った真紅の魔法が我を襲う。

 数は5、速度は7、80キロ。

 威力は……ギリギリ及第点と言った所か。


「ふむ、悪くないが……まだまだであるな」


 我は、無詠唱で《第1階梯結界魔法:平面結界》を発動。

 レティアの魔法は吸い込まれる様に我の結界に衝突し……ヒビすら付けることなく消滅した。


「く……《第2階梯風魔法:風刃》」


 苦悶の声を漏らすレティアが放つは、不可視の風の刃。

 速度は先程の炎魔法より高いであろう。

 そして風魔法の1番の特性は、姿が見えぬことである。


 だが———我に、その程度の魔法など通用せぬ。


「甘い。見えぬとは言え、魔力を隠さねば通用せぬぞ」

「えぇ……何で分かるんですか……」


 我が再び結界を発動させてあっさりと防御してしまったことに、レティアが引き気味で呟いた。

 そして直ぐに『降参です。もう魔力がありません』と言うレティアの言葉で稽古が終わる。


 一通り日課を終えたことで、我は、今日言おうと思っていたことを告げるべく、魔力を取り込むために瞑想をするレティアに話し掛けた。


「して、レティアよ」

「何でしょうか? いつにも増して間抜け———真剣な顔で」

「相変わらず我への敬意が欠けておるな」

「それもそうですよ。こんなにボロボロになるまで魔法の練習をさせられてるんですから」


 我が力を見せてから1週間。

 現在レティアは、我の指導の下、新たな魔法の修練をしている。

 まだ1週間しか経っておらぬが、レティアは既に基本4属性の第2階梯魔法までを習得してしまった。


 この世界———『勇者の軌跡』では、人によって使える魔法属性が縛られておる。

 我やレティアは、この世界の魔法では無属性のみしか使えぬらしい。


 しかし、我の世界では、得意、不得意はあれど、ほぼ全ての者が全属性の魔法を使用していた。

 よって、レティアにもそれを教えている。


「殆どはお主が放った魔法のせいであるがな。しかし、僅か1週間で第2階梯魔法を習得したのは褒めてやろう」

「そう言いながら、私の第2階梯魔法を第1階梯魔法で裕に防御しているじゃないですか」

「ふっ……お主が我に追い付くなど300年早いわ。魔力も未だ脆弱であるしな」


 我がそう言うと、レティアは露骨に目を逸らし始めた。

 

「わ、私は嫌ですよ……? あんなに痛いことをしないといけないなんて……私には耐えられません」


 確かに、歴戦の猛者であった我が軍の兵士でさえ、泣き叫ぶ程の激痛を、一介のメイドが受け切れるとは到底思えん。

 であるから、我はもう1つの魔力増強法を教えてやったのだが———。


「……と、話がズレた」

「アイン様がずらしたのでは?」

「余計なツッコミはするでない!」


 我は、場の雰囲気をリセットするために、1度咳払いをして表情を真剣なものに変える。

 そんな我の姿を半目で見ているレティアは無視して話を再開する。


「レティアよ———我は今、1つの危機に瀕しておる」

「はぁ……?」

「———端的に言えば、金が足りぬ。我には金が銅貨1枚すらないのだ」


 我の言葉に、レティアは『何だそのことか』とでも言いたげな表情でため息をつく。

 

 ……我は慈悲深き魔王。

 この程度でキレる器ではないのだ。


「アイン様……そんなことで悩んでいたのですか? 当主様にねだれば幾らでも貰えるではないですか」

「お主……我にねだれと言っておるのか?」


 確かにアインの記憶の中には、我が父上や母上に無様に金をせびる屈辱的で無様な姿が鮮明に残っておる。

 しかし、我は元魔王であり、誰にも弱い姿など見せてはならぬ存在。

 それはこの世界に転生しても変わらぬ。


「レティア、我は金輪際誰にも乞食はせぬ。全て自分の力で手に入れるのだ」

「はいはいどうぞ、好きにしてください。……それで? 結局アイン様は何を言いたいのですか?」


 相変わらずの舐めた態度を取るメイドが、暗に早く本題を言え、と急かしてくる。

 魔王の我を前に、図太い神経を持ったレティアには、流石の我もかえって尊敬の念を抱いてしまうほどであった。


「お主には色々と言いたいことがあるが……一先ず本題に入るとしよう」

「是非ともそうしてください」


 …………。


 我は何度か深呼吸を繰り返して心を落ち着かせた後で、宣言する。



「我らが———冒険者になるのだッ!!」



 我の宣言と共に、時が止まったかの様に動きを止めるレティア。

 そして数秒経った後、レティアが震える唇を動かして言葉を絞り出した。


「それは……私も、ですか?」

「勿論である。何のために魔法を教えておると思っておるのだ? 魔法の上達には実践が1番であるぞ!」

「い、嫌です! あんな大変なだけでちっともお金を貰えない職につくなど絶対に嫌です!!」

「フハハハハハハ! お主は我のメイド。つまり我の命令には逆らえぬ!」

「いやぁあああああああああ———ッ!!」


 レティアの絶叫が訓練場にこだました。


—————————————————————————

 因みに、この世界の金銭の価値はこんな感じ。

 鉄貨……10円 銅貨……100円 

 銀貨……1,000円 金貨……10,000円 

 大金貨……100,000円

 白金貨……1,000,000円

 虹貨……10,000,000円


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