第3話 元魔王、驚かれる
「———ふぅ……やっと終わりだ……」
我は、全身の疲労感に耐えながら、ゆっくりと目を開ける。
どれだけ経ったか知らぬが、何とか全ての魔力伝達管を元の位置に戻した。
更に全身に魔力を循環させることにより、体内の無駄なモノを汗と一緒に吐き出させ身体も魔力伝達管も頑丈にすることが出来た。
これで多少の無茶は出来るであろう。
我は全身汗だくで気持ち悪く、風呂に入ろうとするが———。
「……何と屈辱な……この程度で動かぬとは……」
立ちあがろうにも、ずっと座っていたせいか、地面に足が突き刺さったかの様に足が動かない。
それどころか足の感覚が痺れて全くない体たらく。
「脆弱な身体め……だが、魔法を試すには丁度いい」
我は強化した魔力伝達管に魔力を流し、魔導の真髄を極めた我にとって、屈辱ではあるが、苦手な属性でもあるので、仕方なく魔法名を唱える。
「《第1階梯回復魔法:ヒール》」
唱えると同時に、我の身体が淡い光に包まれ、足の感覚が戻った。
取り敢えず上手く発動出来たことに、一先ず安堵する。
まだ少し無駄に魔力が散る様だが、この程度ならば殆ど支障はないだろう。
「ククッ……これで土台は整った」
我は早る気持ちを抑えて立ち上がり、鏡の前に移動する。
鏡には、まだ少し太っているものの、少し前までとは全く違うアインの姿があった。
「ふむ……あれだけ魔改造したと言うのにこの体たらくであるか……やはり無能なだけあるな」
我はため息を吐いて———気付いた。
「……我の身体臭すぎではないか?」
正直、今まで気付かなかったのが恐ろしい程に物凄く臭い。
服も…………アウトであるな。
我は、全速力で扉を開けた。
扉の外には、我を舐め腐っているメイドがおり、半目で此方を見たかと思うと大きく目を見開き、顔を顰めて鼻を摘んだ。
不敬な。
「くっっっっっさっ!? 何ですかこの臭い!? 早くお風呂に入ってきて下さい! 不潔すぎます!」
「そんなに溜めて言わんでもよいだろうが!それに、我も今から入ろうとしていた所なのだ! お主は余計なことを言うでない!!」
我は後で本格的にメイドの矯正をする事を心に決意し、全速力で大浴場へと向かった。
「……アイン様、物凄く痩せて……」
信じられぬ物を見るかの様な表情と視線で我を見ている事に気が付かぬままに———。
「ふぅ……1週間振りの風呂は最高であるな……疲れが吹き飛ぶとは正にこのことよ」
我は、身体の臭いも汚れを落とすため、30分以上も風呂で念入りに体を洗い、更に3、40分ほどの間、疲れを癒すためにずっと湯船に浸かっていた。
お陰で綺麗さっぱり爽快で、お肌もツルツルである。
ふむ……いつか1人で秘湯巡りをするのもよいな。
我がそんな事を考えながら髪を魔法で乾かしていると———突如我の後ろから『ガタンッ!!』と言う落下音がした。
何事かと振り返ると———。
「な、な、な、ななななななな……!」
「何なのだ? 『な』はもうよいからさっさと要件を述べよ」
ずっと『な』を繰り返す病気に掛かってしまった、我が専属メイドであるレティア。
しかし、何がキッカケかは不明だが、突然我に帰り、俺を指差して叫んだ。
「な、何故アイン様が魔法を使えるのですか!? そう言えば感じられる魔力量もいつもの100……もう分からないくらい増えてますし! 何をしたのですか!? ドーピング? とうとう薬に頼ったのですか!?」
「不名誉なことを言うでない! 言ったであろう、我は魔王の生まれ変わりだと……」
「ま、まさか……その設定は厨二病ではなかったのですか……!?」
「……お主が我を一欠片も尊重していないことはよく分かった」
「え、今までのアイン様の言動で、尊重されるとお思いですか?」
…………されるわけないな。
「今までのことはこの身体の持ち主に変わって謝罪しよう。すまなかった」
「そんなことで許されると———」
「ただ、この程度で許される程緩いことをしていたわけではないのは百も承知。よって……一先ず我が無能でないことを披露しようではないか」
我はレティアの肩に手を置くと、戸惑うレティアの横目に魔法を唱える。
「な、何を……?」
「少し酔うかもしれぬが……耐えてくれ」
「はい?」
「《第4階梯時空魔法:
我とレティアの肉体が浴室から一瞬にして消え失せた。
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