第24話 呼び出し1
~校舎裏~
私は、今、桂木先輩に呼び出され校舎裏に向かっている。
一人で来いって言う定番の話で辟易するわ。
ストーカー被害者である私にこんな事を命令するなんて、自己中脳のなせる業か?
それとも思春期の甘酸っぱさがさせるのか?
まぁ、それでも女子高生が相手なので、呼び出しに応じることにした。
「来たわね!」
桂木先輩は仁王立ちしたまま得意げにニヤリと笑った。
普通にしていればそこそこ可愛いと思うのに、このままでは残念系女子だよね。
そして、取り巻き達は私を見て「え!相手の子って佐藤さんなの。聞いてない!」と言いながら、そそくさと去って行った。
常識のある人達で良かった。
この学校は、これでも割と有名な進学校なのだ。
去り際に「やっぱり佐藤さんって超可愛いよね~」なんて言っていたので、今回の事は不問にしてあげます。
「・・・用件をどうぞ」
「よく一人で来られたわね」
貴女は一人では無かったようですね。今は一人ですけど。
気付いてないのかしら?
うしろの方へ目配せしたが、振り返ることも無くしたり顔をしている。
「一人で来いってことなので・・・用件をどうぞ」
「そういう素直なところが男子ウケするのかしら~」
「何のことか分かりませんが、用件を・・・。」
なんだかバカみたいな会話になっているわ。
マジで会話が噛み合わない。
帰ろうかと思ってため息を付いてしまった。
「見境なく男子に色目を使って恥ずかしくないの! 逆ハー狙いかしら!」
とんでもない言い掛かりだが、なんだか悪役令嬢と対峙している気分になって来た。
この人、色々と拗(こじ)らせているなぁ~。
「狙っていませんよ。用件ってそんなくだらない質問をすることですか?
だったら、失礼し・・」
「そんなわけないじゃない。貴女もう少し頭が良いかと思いましたが、察しが悪いわね~、オホホホホ~」
「もうね。完全に悪役令嬢じゃん!」
あっ、しまった。思わず突っ込みを入れてしまった。
「貴女、生徒会入りは辞退しなさい!」
”悪役令嬢”呼びはスルーなんだ。
と言うか私の話聞いてないのでは?
まぁ、答えは一択なので答えますけどね。
「はい、分かりました!」
「嫌よね!だったら・・・、・・・、え? え! え?」
やっぱり聞いてなかったのね。
要求通りの回答をしたのに何故か面食らっている。
ちょっと、本当に心配になって来た。
桂木さんってこんな感じなんだね。
でも、成績は優秀って言うから不思議。
「・・・オホン。 ・・・良い心がけね。 」
「じゃ、用件は終わったようなのでこれで、失礼しま…」
「お待ちなさい!」
まだあるのね。
なんだか、キャラが完全に悪役令嬢ですよ先輩。
桂木先輩は、しばらく言い難そうにしながら口を開いた。
「北村くんにモーションをかけないで!」
あゝ~、まぁ、そうかなとは思ってました。
妙に執着心があるなと思っていたからね。
彼女は、きっといつでもどこでも北村さんのことが大好きなのでしょう。
拗らしてるね~。
でも、今は自分の気持ちに素直になったら良いのに・・・。
いや、素直になった結果がこれなのかな?
「分かりました。でも、北村先輩の思いは北村先輩自身が決めることですよ?」
「生意気言わないで! 貴女がチャラチャラしなければ彼の心が動くわけないわ!」
出たよ。推測の上に希望的観測を乗せている。
私が居なければ二人の関係は安泰だと思っているのね。
そして、好きになった人が、向こうから告白してくれることを期待して…。
でも、そんな事なんて現実にはほぼ無いでしょ?
「桂木先輩って、愛情表現が下手で拗らせているのね」
あ、しまった。
つい口が滑って本音が出てしまった。
これは逆鱗に触れてしまったか!?
顔色を変えた桂木先輩が右手を大きく振りかぶった・・・。
ああ~、これって避けちゃ駄目なやつだ。
“バチ~ン”
大きく振り抜けた平手は私の頬を直撃し校舎裏に打撃音を響かせた。
まともに食らったので、目がチカチカしてふらふらする。
「一美ちゃん!」
すると、よろよろと崩れそうになる私を誰かが優しく受け止めてくれた。
塔子ちゃん、…来てくれたのね。嬉しい。
「よくも一美ちゃんを傷つけたな!」
安心しつつも塔子ちゃんを見ると、、、
塔子ちゃん、なんだかもの凄く怒っている。
「塔子ちゃん、良いの。今のは私が悪かったの。」
どんな時も人の心に土足で踏み込むようなことはしてはいけない。
彼女からすれば、急に現れた年下の女(こ)から彼氏?を取られ、恋愛指南までされれば怒り心頭するのも当然だろう。
いつの間にか、私は上から目線になっていたのね。
「だからって打(ぶ)つことは・・・???」
不思議そうに先輩を見る塔子ちゃん。
見ると、桂木さんは瞳から大粒の涙を流し静かに佇んでいた。
「御免なさいね。打った方が傷つくこともあるのね」
本人もここまでするとは思っていなかったのだろう。
心情を見抜かれた恥ずかしさと打った後悔の念と現状の口惜しさが入り混じっているのだろうか。
桂木さんは、何も言わずに走り去って行った。
「あ~、行っちゃった。一美ちゃん、取り敢えず医務室に行こう」
「ううん、駄目だよ。先生にバレるから・・・・ね」
しぶる塔子ちゃんを説得し、なんとか穏便に済ませることにした。
おそらく、この暴力が表沙汰になれば、桂木先輩は最低でも退学になるだろう。
そんなことになれば、だれも幸せにはならない。
私たちは、水道でハンカチを濡らし、腫れた頬を冷やしてから教室に戻ることにした。
~~~~~~~
腫れた頬に濡れしたハンカチを当ててとぼとぼと教室に向かう。
「佐藤さん! 藤宮さん! 」
私たちを呼ぶ声に振り返ると、北村先輩が駆け寄って来た。
「さっき、桂木さんが深刻な顔で走って行ったが何か知らないか?」
北村先輩、そこは私たちでは無く、本人を追いかけて優しく聞いてあげて欲しかったです。
・・・無理か~。
若さ故か、危険を察知したのか、それともそんなに興味がないのか?
今の北村先輩には桂木先輩を追いかける気持ちは無いらしい。
「あ~、ちょっと分からないです。」
そう答えると、塔子ちゃんが私を目を見開いて見た。
「佐藤さん? どうした? その・・・頬?」
そう言うと、北村先輩は私の手を掴み“ぎゅうー”と握りしめた。
「分かりやすいね君。頬にうっすら手形が付いてるよ」
「こ、これは…、そうそう、自分でふざけて打ったのです?」
「・・・・・」
「はぁ~、一美ちゃん無理あり過ぎ。それと北村先輩、そろそろ手を離してあげて」
「あ、あゝ~すまない。つい…。」
「とにかく!これは桂木先輩とは関係ないですから!」
「はいはい、私も見てました。一美ちゃんは自分でやってました」
呆れながらも塔子ちゃんは私を助けてくれる。
やはり、塔子ちゃん優しい!
「・・・、まぁ良い。二人がそう言うならこれ以上の追求はしない。
でも、ありがとう。礼を言うよ。」
「私は何もしてませんよ?」
「良いんだ。礼を言いたかっただけだから・・・。それで生徒会はやはり無理か?」
「はい、遠慮させていただきます」
「分かった。生徒会は諦めるとしよう。それでは代わりに、今度バスケの練習でも見に来てくれ、歓迎する」
私は、返事をせずにニコリと笑った。
塔子ちゃんは難しい顔をしていたが、私が「行くなら3人一緒よ!」と言うとわずかに微笑んでくれた。
バスケって何気に面白いものね。
塔子ちゃんが手を差し出してきたので、私はそっとその手を掴んだ。
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